邪教の儀式を食い止めろ4
「このっ!」
オックスとコルツがいきり立つ。
2人は今にもドラゴン・ゾンビに飛びかかりそうな勢いだ。
「待ちなさい!そいつから離れなさい」
2人をゼロが止める。
「セイラが食われちまったんだぞ!」
「セイラさん大丈夫です。ドラゴン・ゾンビは生者を食らいません」
「しかしっ連隊長殿!」
ゼロは剣を抜いた。
サーベル等もドラゴン・ゾンビから離れてネクロマンサーを取り囲んでいる。
「そもそも、大切な生贄をドラゴン・ゾンビの餌にしたりはしません。ならば、ドラゴン・ゾンビを相手にするよりも使役者を相手にした方が手っ取り早いです」
剣を構えてネクロマンサーを見た。
ネクロマンサーも静かに佇んだままローブの奥からゼロを見ている。
その背後には複数のスケルトンナイト、スペクター、ヴァンパイアが控えている。
「死者と共に生きる者よ、何故に我等に抗うのだ?」
地の底から響くような低い声、それでいて諭すようにゼロに問い掛けた。
「何故?私は貴方達の企みを阻止するようにこの国からの依頼を受けている。それだけです」
「愚かな。目先の目的、欲に捕らわれおって。貴様も死霊術師ならば分かる筈だ」
「・・・何のことですか?」
「死霊術の極意は生と死の超越にある。我等死霊術師はそれを成す神に近し存在。それ故に人々から迫害され闇に葬られてきた」
「何が言いたいのです?」
「貴様も我等と共に来い。我等を迫害し者共を浄化し、生死を超越した真の楽園を作り出すのだ」
静かに語りかけるネクロマンサー。
「ゼロ!耳を傾けてはダメ!強力な精神支配の言霊が乗せられている」
カミーラがネクロマンサーに符を投げた。
「言語を禁ずる!」
しかし、カミーラの符はネクロマンサーに届く前に焼き切れる。
「・・・強い。ゼロ、気をつけて」
ゼロに駆け寄ろうとするカミーラをゼロは片手を挙げて制した。
「大丈夫です、カミーラさん」
ゼロは剣を構えたまま、サーベル達もネクロマンサーに敵意を向けたままだ。
「私をくだらない宗教に勧誘しないでください」
「何?」
「私の職業は死霊術師の冒険者です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「人間共に蔑まれ、利用されるだけであろう?そんなものに何の益があろうか」
「死者を使役するのですから蔑まれて当然です。それでも私は自分の選んだ道を粛々と進むだけです。貴方達のように神だなんだに興味はありません」
「愚かな・・・」
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません。それ故に貴方達の訳の分からない宗教感についても何も言いません。ただ、受けた仕事として貴方達に敵対するだけです」
ゼロはネクロマンサーに光熱魔法を放って先制するがその光はネクロマンサーの直前で霧散した。
それを合図にサーベル達がネクロマンサーの背後のアンデッド達に襲いかかる。
ゼロも一足飛びにネクロマンサーの間合いに飛び込む。
オックスとコルツも同時に飛び込んできた。
オックスの打撃にコルツの刺突、そしてゼロの斬撃がネクロマンサーを捉えたかに見えた瞬間、ネクロマンサーは後方に飛び退いて、ドラゴン・ゾンビの背に立つ。
「くそっ!動きの鈍い魔術職かと思ったが・・・」
「連隊長殿もそうですが、死霊を従えるネクロマンサーは個々の動きも卓越していますね」
獲物を逃したオックスとコルツがドラゴン・ゾンビの背に立つネクロマンサーを見たその瞬間、ネクロマンサーの胸を矢が貫いた。
何処かに潜んでいたリリスによる狙撃だ。
「やったか・・・いや、駄目だ」
オックスの言うとおり、胸を貫かれたネクロマンサーだが、倒れるどころか何ら変わらない。
「ふふ・・・やりおるな。だが、この程度で私を滅することはできぬ」
ネクロマンサーは胸に刺さった矢を抜いて投げ捨てる。
その時、中央広場に光が差し込んできた。
「時間切れですよ」
ゼロが言うとおり、月の陰から太陽が姿を見せ始めた。
日蝕の終わりである。
「むぅ・・・口車にまんまと乗せられたか」
ネクロマンサーが杖をかざす。
信者達がドラゴン・ゾンビの足下に集結した。
「逃げる気ですか!ドラゴン・ゾンビの周囲の魔法陣を破壊してください!」
ゼロの声にアルファ、シャドウ、ミラージュが即応する。
それぞれの力の限りの魔力を魔法陣に叩き込む。
カミーラもありったけの符をばらまいた。
「魔法を禁ずる!」
魔法陣の一角にでも干渉すればよかったのだが、全ての攻撃が弾き返される。
集まった信者の中からも魔力の高まりが感じられる、ネクロマンサーの力を増幅しているようだ。
光を発する魔法陣に引き込まれてゆくドラゴン・ゾンビと信者達。
「逃がしません!」
ゼロがネクロマンサーに光熱魔法を放とうとした時、ゼロの右目目掛けて1本の矢が飛んできた。
咄嗟に剣で矢を払ったゼロ。
その隙にセイラを飲み込んだままのドラゴン・ゾンビ諸共ネクロマンサーを取り逃がしてしまう。
「逃がしましたか・・・」
ゼロは足下に落ちた折れた矢を見下ろした。




