4人の冒険者
ゼロはオックス達が潜む森へと急いだ。
率いているのは付近警戒のための3体のスペクターのみ、とにかく敵に察知されないように努める。
先行させたスペクターからの報告によればオックス達の潜む森へと百を超えるアンデッドが向かっているらしい。
「敵の方が早いですか」
それぞれの位置関係からもゼロが到着するよりも早くアンデッドの集団がオックス達に接触してしまう。
「向かっているのは下位から中位アンデッド。普段のオックスさんとリリスさんならば持ちこたえることもできるでしょうが、避難民を連れているとなると、厳しいかもしれません」
ゼロは森の中を駆け抜けていった。
その頃、森の奥地の自然の洞窟において、オックスとリリスは決断を迫られていた。
「気づかれたか?」
「ええ、精霊達が騒いでいるわ。さすがにこれだけの人々が密集して隠れていれば死霊達に気付かれるのは時間の問題だったのよ」
オックス達は保護した避難民達を連れて逃げ回っていたが、老人子供もいる集団の体力が限界となり、この森の洞窟に潜んでいた。
携行食や周囲で採れる山菜や木の実、小動物や魚等を節約しながら持ちこたえていたが、敵に察知されたとなると戦うか、脱出かを決断しなければならない。
戦うといっても戦力はオックスとリリス、そして、パーティーからはぐれた中位冒険者が2人だけ。
ライラとシルビア、剣士と魔術師の2人は上位冒険者のパーティーメンバーとしてイバンス王国の潜入調査の任務に当たっていたが、その最中にアンデッドに襲われている避難民を発見し、彼等を救助しようとしたが、その戦闘の中で他のパーティーメンバーとはぐれ、助けた避難民と共に当てもなくさ迷っていたところをオックスとリリスに出会ったのだ。
オックスはライラとシルビアを見た。
「2人共、聞いたとおりだ」
オックスの言葉に2人は覚悟を決めた表情で頷いた。
「戦うか逃げるかを選択せねばならんが、現実的に俺達には選択肢は無い」
シルビアが口を開いた。
「戦う・・・ですね」
「そうだ。年寄りと子供の体力を考えても現時点での脱出は現実的ではない。ここで敵を撃退し、皆の体力の回復を待ってから脱出する他に手段はない」
説明しながらオックスは2人の状態を確認した。
避難民を連れた2人と出会ってからは極力戦闘を避けて逃げ回っていたため、2人共に大きな怪我はなく、体力やシルビアの魔力もまだ余裕はある。
問題は装備で、シルビアは問題ないが、ライラの剣は刃こぼれが酷い。
中位冒険者とはいえ剣技が未熟なのか、戦闘で余計な力が加わっていて剣に負担が掛かっていたのだろう。
オックスは荷物の中から武器の手入れ道具を取り出した。
「鍛冶場でもあれば火を起こして打ち直しもできるが余裕がない。無理矢理に矯正するが構わんか?ただ、剣の寿命は著しく縮める。長くはもたん」
オックスの問いにライラは頷いた。
「お願いします。この場だけでも十分に戦えないと皆を守れません。大切に使ってきた剣ですから、最後まで精一杯、この剣と一緒に戦いたいです」
「よく言った!」
オックスは早速ライラの剣を矯正した。
刃こぼれを削り、刃を研ぎ直す。
急拵えの強引な矯正で剣はやや細く薄くなったが、そこは名鍛冶師としても名を馳せるオックスだ、剣の切れ味を取り戻し当面の間戦うには十分な強度は残してある。
「互いにこの戦いに生き残れたら俺が新しい剣を打ってやる。だから今はこの剣でしっかりと戦え!ただ、戦いでは少し力を抜け。力任せに振らずともこの剣はお前の技に応えてくれる」
オックスに剣を返されたライラは頷きながら剣を納めた。
そうこうしている間にも敵は近づいてきている。
避難民を洞窟内に隠し、洞窟の前にはシルビアが陣取った。
前衛に立つのはオックスとライラの2人、リリスは木の上で弓を構える。
「来るわよ!数は百以上、スケルトンとグール」
叫びながらリリスが弓を放ち始めた。
オックス達にはまだ敵の姿は見えないが、リリスのことだ、1射ごとに敵を仕留めている筈だ。
「何体か仕留めたけど再召喚されないわ。指揮者がいない、はぐれの集団よ!」
リリスの言葉にオックスは頷いた。
「よし!再召喚されないならば望みはある!敵が百体ならば百体を倒せばいいだけだ!」
「はっ、はいっ!」
オックスとライラもそれぞれの武器を構えた。
アンデッドの唸り声が聞こえて来る、敵は目前まで迫っている。
「ライラ!俺の近くを離れるな。敵は数で押してくる。数に飲まれたら最後だ。俺達はリリスとシルビアを信じて目の前の敵を倒すことに専念するぞ!」
「はいっ!」
いよいよ敵の姿が見えた。
錆びた剣や槍を持つグールが約20体、その後方にスケルトンが数十体。
オックスは足下にあった拳大の石を拾うと槍を持つグールに投げつけてその頭部を粉砕した。
「リリス!槍を持つ奴を優先的に仕留めろ!弓を持つのがいたら最優先だ」
「分かったわ!」
「シルビアはライラの背後に回り込む敵がいたら其奴を倒せ!俺の背後は気にしなくていい!」
「わっ、分かりましたっ!」
ライラの実力を見極めて敵を倒す優先順位をつけるオックス。
決して突出せず、間合いに入った敵を戦鎚を振るって次々と叩き潰してゆく。
その傍らで目の前の敵1体ずつを慎重に対処するライラ。
オックスとリリスは常にライラの様子に気を配りながら戦っているため、思うように戦うことができないが、敵の数の多さと避難民を守るという状況ではライラとシルビアの力は必要だ。
多少時間を掛けても今は無理をする状況ではないのだ。
4人の冒険者は死力を尽くして戦った。
現実世界は大変な時期ですが、自宅で小説(私の作品でなくてもいいので)を読みながらこの困難を乗り切りましょう。
そんな中であちらの世界でも何かと災難にばかり襲われてばかりいる苦労人、ライラとシルビアが再登場です。
彼女達も前作から数々の困難を乗り越えて本作まで乗り込んできました。
そんな彼女達の頑張りも見守ってください。




