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リスクと人命の天秤

 1度目の日蝕まであと3日。

 ゼロ達は渓谷の都市の近くまで到着し、森の中に潜んでいる。

 リックスが都市周辺の村の位置と抜け道を記憶していたため、余計な戦闘を避け、密かに潜入することができた。


「しかし、敵の魔法で俺達のことかが筒抜けなんてことはないか?」

「その心配はありません。敵が私のような死霊術師ならば、その能力には限界があります。せいぜい偵察のアンデッドを飛ばして情報を収集する程度です」


 小休止を取りながらチェスターの疑問にゼロが答える。

 魔王のような桁外れの能力を持つ存在ならば支配域の様子を網羅することも出来ようが、敵がゼロと同じ命ある死霊術師であるならばそうはいかない。

 ゼロの言うとおり配下のアンデッドによる哨戒網を敷くことにより情報を集める必要があるのだ。

 そして、そのことを理解しているゼロは既に対抗策を講じている。

 ゼロ達の周囲には目立たないように浮遊霊に扮したスペクターを放って警戒網を構築し、更にアルファとシャドウ、ミラージュによる幻惑で敵哨戒網に隙を生じさせていた。


「敵死霊術師は私以上の能力を有しているかもしれませんが、敵に対する情報量は私の方が上です。私は今、死霊術に使う魔力をギリギリまで抑えていますし、アルファ達のおかげで私の存在はまだ知られていない筈です。しかし私はレナさんとセイラさんが見抜き、リックスさん達が届けてくれた敵の情報を持っています」


 そうしている間にもスペクター等からの情報がアルファに集約され、ゼロの思考を理解したアルファが情報を取捨選択、優先順位を決めて効率良くゼロに報告をする。

 情報を重視しているゼロが構築したシステムだ。

 

「情報戦においては私に利があります」


 アルファから報告された情報を整理するが敵勢力下で大きな動きは認められない。

 その時、情報を集約していたアルファがゼロの耳に口を寄せた。


「主様、重要情報です。現在地から北西方向、徒歩半日程の距離に避難民20名程が潜んでいます。その者達を守っているのが主様と縁あるドワーフとエルフの2人組です」


 アルファの報告にゼロは顔色を変えないが、リックスとコルツが身を乗り出した。


「オックスとリリスかっ?」

「無事でありましたか!」

「ゼロ!直ぐに向かおう!」


 アルファの報告でオックスとリリスの無事と所在が明らかになり、リックス達が息巻くが、ゼロは無表情で思案している。


「どうした?」


 チェスターが訝しげに尋ねると、ゼロが静かに口を開いた。


「悩みます。オックスさん達が戦力に加わってくれれば心強いのですが、20人もの避難民をどうしたものか・・・」

「しかし、見捨てるわけにはいかないだろう?」


 ゼロはチェスターを見た。


「私は避難民を見捨てることも選択肢の1つとして考えています」

「そんなバカなことがあるか!何故だ!」

「避難民を保護して、その後はどうします?我々はこれから敵の直中に切り込まなければなりません。まさか、避難民を連れては行けないでしょう?安全な場所に誘導するにしても、付近には安全な場所などはありません。友軍に委ねるにしても、本隊の位置まで戻るしかありませんが、今の私達にそんな余裕はありません。しかも、せっかくここまで敵に察知されずに来れましたが、避難民を保護する際に戦闘になったり、そうでなくとも、それだけの集団を連れ回せば敵に見つかる可能性が高い。どう考えてもリスクが高すぎます」


 冷静、冷徹に話すゼロ。

 確かに20人程度の市民を守るために作戦が瓦解したら元も子もない。

 チェスターとカミーラもリスクが大きいのは理解できるが、どうしてもリスクと20人の命を天秤にかけることができない。

 2人は感情ではゼロの言葉に納得できないが、反論することもできなかった。


「だったら、俺とコルツがオックス達に代わって避難民を引き受けたらどうだ?コルツはともかく、俺は戦闘では大して役に立てない。だが、安全な場所まで避難民を連れていくこと位はできる。なんなら俺1人でもいい」

「連隊長!小官もリックス殿の意見に賛成です。小官よりもオックス殿とリリス殿の方が戦力になりましょう!」


 リックスとコルツが具申するが、ゼロは首を縦に振らない。


「今回の作戦案には既にリックスさんとコルツさんの能力を組み込んであります。2人に抜けられるわけにはいきません。それに、私はまだ彼等を見捨てるとは決めていません」


 ゼロはアルファを見た。


「その集団はオックスさんとリリスさんの他に兵士や冒険者はいませんか?」

「若い冒険者が2名おりますが、経験も能力もまるで足りません。主様のご期待には応えられないと存じます」


 アルファの報告に再び思案するゼロ。

 しばしの沈黙の後に決断した。


「オックスさん達のもとに向かいます。避難民を保護して後方に下がらせた後に儀式を阻止すべく動きます。リスクは高いですが、勝算はあります」


 ゼロ達は直ちに行動を開始した。

 避難民の保護に向かうのはゼロ1人、他のメンバーは更に前進して敵の情報、特にセイラとレナの所在を探ることとする。

 そのため、数体のスペクターを従えたアルファがチェスター達に同行することになった。

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