選択
「レナさんとセイラさんが?どういうことですか?」
会議を中断したゼロ達はリックスにことの詳細を訊ねた。
「俺達はこの国で情報収集をしていたんだが、黒いネクロマンサーとアンデッドの軍勢に襲われて、セイラとレナが捕まったんだ」
レナ達はイバンス王国に潜入して情報収集の任に当たっていた。
他にも幾つかのパーティーが別個に情報収集のためにイバンス王国に潜入していたが、レナ達は最西端の渓谷の都市付近にまで入り込んだところでアンデッドの軍勢に襲われたとのことだ。
数千、数万のアンデッドに囲まれ、乱戦の中でセイラとレナが敵の手に落ちた。
「そんな・・・レナさんが?」
「まさか・・・。レナ殿だけでない、オックス殿達がいながら・・・」
かつてゼロ連隊の一員として共に戦い、レナやオックス達の実力を知るリズとイズが信じられないという表情だが、ゼロは違う。
「レナさん達はアンデッドと共に戦っても、死霊術師に操られたアンデッドの軍勢を相手に戦ったことがありませんからね」
ゼロの言葉にリックスとコルツは頷いた。
「連隊長殿と共に戦った小官達はアンデッドとの戦いも問題ないと過信しておりました」
「レナの範囲攻撃魔法やセイラの結界の守りと浄化の祈りで敵を圧倒していたつもりだったんだ・・・」
リックス達の話しを聞いたゼロは首を横に振った。
「敵が力ある死霊術師ならばそれこそ敵の思うつぼです。どれほどの攻撃を受けようとも問題ありません。こちらが力尽きるまで攻め立てればいいのですから。敵にしてみれば消耗戦にすらなっていませんよ」
リックスが頷く。
「ああ、そのとおりだった。セイラが限界になって倒れた隙に付け込まれた。瞬く間にセイラが捕まって、アンデッドの軍勢に引きずり込まれてその位置を見失ったもんだからレナが範囲攻撃魔法を撃てなくなって・・・」
「そこからは我々の方が一気に崩れてパーティーが散り散りになってしまいました。小官はリックス殿に引き連れられて包囲を抜け、命拾いをしました」
どうやらリックス持ち前の危機回避能力のおかげで2人は脱出できたらしい。
「状況は分かりましたが、それで何故レナさんとセイラさんが捕まったと分かるのですか?」
レナ達の大事にも表情を変えないゼロ。
「俺だってただ逃げ出したわけじゃない。逃げながらレナとセイラが拘束されて運ばれていくのを見た。それに、奴らは最初から2人を狙っていたようだ。戦いの中でどんなに倒されても2人を傷つけることを避けているように感じた。俺達に向けられた攻撃とはまるで違った」
当時の様子を語るリックスは無念の表情だ。
「俺がもっと早く意見すればよかったんだ。敵の軍勢を見て本能的にヤバいと感じたんだが、俺だけパーティーの中で格下の立場だったからな。あのときに無理にでも脱出を主張すれば・・・」
そこまで黙って話を聞いていたイザベラが口を開いた。
「それは結果論ですわ。あのときああすればよかった、なんて後からならば幾らでも言えますの。それよりも今後ですわ。選択を誤ったと思うならば、次の選択を誤らなければいいだけですの」
リックスは会議場を見渡した。
「2人を助けるにはゼロの力が必要だ・・いや、ゼロにしか2人を助けられないと思ったんだ。そこで援軍の進軍ルートを予測してここに来たんだ。こっちはこっちで予定があるだろうが、無理を承知で頼む。2人を助けてくれ。このままだとヤバいことになりそうな気がする」
リックスが頭を下げ、コルツが両膝をついて左手を胸に頭を下げる。
会議場が静まり返り、ゼロの答えを待つ。
「・・・申し訳ありませんが、こちらの作戦も重大な局面です。直ぐには向かえません」
「ゼロ様っ!」
「・・・待て!」
拒絶するゼロに意見しようとするリズをイズが諌める。
逆にリックスとコルツは肩を落とすが何も言わない。
レナ達を助けるために進軍を止めるわけにはいかない、自分達が無理を言っていることを自覚しているからだ。
「よろしいのですの?貴方にとって大切な人なのではなくて?」
静かに、それでいて鋭く、ゼロを睨みつけながらイザベラが問う。
「それとこれとは話が別です。私が主力を引き受けている以上は私が戦列を離れるわけにはいきません」
「貴方らしい、正解なのかもしれませんが、冷たい判断ですのね。心から軽蔑しますわ」
イザベラの言葉にゼロは肩を竦めた。
「順序の問題です。何も2人を助けに行かないとは言ってません。工業都市を奪還し、状況を見極めてから次の判断をします」
イザベラの表情が一層厳しくなる。
「自惚れですわね。ホント、軽蔑しますわ。ゼロなんかがいなくても工業都市を奪還することなんて雑作もないことですのよ」
「・・・」
「まだ煮えきりませんの?だったら私、奥の手を使います。ゼロ!アイラス王国派遣軍司令官として、貴方の依頼主たるアイラス王国から本作戦の全権を任されている私が命じます。直ぐにレナ、セイラの救出のための行動を取りなさい」
イザベラの言葉にゼロはため息をつきながらも静かに頷いた。




