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草原の都市解放

 教会内を進むグレイ達。

 大聖堂に群がるアンデッドを殲滅していては時間が掛かりすぎる。

 そこでグレイ達は密集して目の前のアンデッドを討ち倒し、押しのけながら前進することにのみ集中し、大聖堂を抜けて扉の奥に踏み込んだ。


 規模の大小はあれど、一般的な教会の構造であれば、この先にあるのは祭事の控え室や会議室等の教会運営に必要な施設だが、この教会は規模が大きいのでそれに加えて神官の宿舎や食堂等もあるはずだ。

 グレイ達が踏み込んだ先は広い廊下となっており、廊下に面して幾つもの扉がある。

 その扉の大半は破られてアンデッドの侵入を許しており、中に籠もっていたであろう神官や市民達の躯が散乱している。

 真新しい死体や血生臭さからも彼等が襲われてそう時間が経っていない。

 

「くそったれ!俺達がもう少し早ければ!」


 その有り様を目の当たりにした若い隊員が吠えるが、グレイやエミリア、各級隊長達は感情を押し殺して先に目を向ける。 

 廊下の奥にある2つの扉は未だに破られておらず、アンデッドが群がっている。


「グレイ隊長!あの扉、おそらくは倉庫と・・食堂から結界の気を感じます!まだ持ちこたえています!」


 エミリアが叫んだ。


「第2小隊前面に出ろ!密集陣で前進する!」


 グレイの命令でウォルフ率いる第2小隊が盾とハルバートを揃えて隊列を整えた。


「小隊、密集のまま前進!」


 ウォルフの指揮で第2小隊が前進を開始する。

 重装備の兵が揃う第2小隊は瞬発力こそ低いが、中隊随一の攻撃力を誇り、文字通りアンデッドを押し潰しながら一歩一歩着実に前進した。


「アイラス王国軍だ!救助に来た!間もなく助けるからもう少し持ちこたえろ!」

「俺達はアイラス王国聖監察兵団の最精鋭部隊だ。必ず助ける!」

「もう少しの辛抱です!イバンス女王もご無事です」


 グレイ達は扉の奥で助けを待つ者達に聞こえるように殊更に声を張り上げながら進んだ。


(さっきから敵の動きが鈍い。統率も低下しているな・・・。指揮者がいなくなったか)


 戦いの中でグレイは敵の変化に気がついた。


 リッチが倒れたことにより戦況は解放軍側に更に傾いた。

 リッチの影響力が届かなくなったことにより、敵アンデッドは集団的な行動ができなくなり、個々の欲求にのみ従って動き始めたのである。

 大教会前でシンシアを守りながら戦っていたイザベラにジャック・オー・ランタンとミラージュが加わって周辺のアンデッドを撃退することができた。


「勝ちましたわね。あのおバカ・・・いえ、ネクロマンサー、ゼロは」


 突如として動きが鈍くなった敵アンデッドの様子を見てイザベラはこの戦場での勝利を確信した。

 周囲に討ち漏らしのアンデッドが彷徨っているが、付近にイザベラやシンシア達生身の人間がいても向かってくる個体は少ないし、接近される前にジャック・オー・ランタン等に処理されてしまい、最早脅威ではない。

 教会内にいるアンデッドも同様らしく、教会から彷徨い出てジャック・オー・ランタンに倒される個体が増えてきた。

 その様子を見たイザベラはサーベルを下ろす。


「後は時間の問題。グレイに任せても大丈夫ですわね」


 背後で神に祈るシンシアに敢えて聞こえるようにイザベラは呟いた。


 教会内で戦うグレイ達はアンデッドを押しのけて閉ざされた2つの扉の前まで到達した。


「もう大丈夫だ、扉を確保したぞ!だが、安全を確保するまでもう少し待て!」


 グレイは扉の中に呼び掛ける。

 統率を失ったとはいえ、まだ多数のアンデッドが残っている。

 焦ってはいけない、この状態ではまだ避難している者達を外に出すわけにはいかないのだ。

 先頭に立って敵を突破したウォルフ達第2小隊が扉の守りを固め、殿を守っていたアレックスの第1小隊が反転してアンデッドの掃討に掛り、シルファの分隊がそれを援護する。

 しかし、リッチが倒され、統率を失ったうえ、再召喚されないアンデッドは彼等の敵ではなく、アレックス達により瞬く間に掃討され、周囲の安全が確保された。


 グレイは扉を守っていた第2小隊を下がらせて扉と距離を取る。

 戦闘中、グレイ達の声にどちらの扉の中からも反応は無かった。

 最悪、中で全滅していたり、アンデッドに占拠されている可能性すらあるため、即座に戦闘に入れる体勢を整えた上でグレイが扉の前に立つ。

 手前右側は食堂、奥の扉は倉庫だ。


「もう大丈夫だ!アンデッドは掃討した。扉を開いて欲しい。繰り返す、我々はイバンス王国の援軍として派遣されたアイラス王国軍、聖務院聖監察兵団だ。教会の外ではイバンス女王も待っている。安心して出てきてくれ!」


 グレイが扉に向けて呼び掛けると食堂の鍵が開く音と共に扉が開き、中から若い神官が恐る恐る出てきてグレイ達の姿を見て腰を抜かした。


「・たす・・助かった・・・助かりました」


 絞り出すような神官の声。

 扉の中を見れば老若男女、市民達が数十名、身を寄せ合って震えている。

 弱っている者もいるが、こちらは問題は無さそうだ。

 直ちに第1小隊が救護に入った。


 その間も奥の倉庫からの反応は無い。

 若い神官に聞けば教会が攻められ、大聖堂が陥落した後に奥に追い込まれた神官や市民達は幾つかの部屋に分散して立てこもった。

 他の部屋が破られ、人々の阿鼻叫喚の声に恐れおののきながら当ての無い救援を待っていたらしい。

 広い倉庫には百人以上の市民が逃げ込んでいるとのことだ。

 グレイに依頼されて若い神官が倉庫に向けて声を掛ける。


「2等神官のオットーです。援軍が来てくれたのは事実です。外は安全です、安心して出てきてください」


 若い神官が呼び掛けて待つこと4半刻、倉庫の扉が開かれた。

 中から溢れ出してくる悪臭、いや死臭。

 やつれきった様子の若いシスターが出てきて直ぐに気を失った。

 第2小隊に内部を確認させると、倉庫の中は惨憺たるものだった。

 避難した人々の大半は無事ではあるが、今まさに命の灯火が消えゆこうとする者、立ち上がることすらできない者が多い。

 更に、立てこもり中に息絶えた者もおり、倉庫の隅に安置された彼等の遺体が放つ死臭が倉庫に充満していた。


 状況は深刻だ。

 グレイはシルファ分隊をイザベラへの伝令に走らせて救出作業の支援を要請。

 教会の外でシンシアを守っていた第3小隊とイバンス王宮警備隊の手を借りて生き残りの人々の救出を行った。 


 草原の都市は数万の市民が住むイバンス王国でも有数の大都市であったが、大教会に逃れて生き残った市民が140名、他に自宅の地下室等で生き延びていた市民が数十、総数200にも満たないが、生き残った人々が救出され、イバンス王国草原の都市が解放された。

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