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死霊術師?リズ

 リズが召喚したのはウィル・オー・ザ・ウィスプ。

 精神体型の下位アンデッドで、その見た目は火の玉だ。

 リズは普段から火の精霊サラマンダーを操っているせいか、ゼロの見立てでもウィル・オー・ザ・ウィスプとの相性が極めて良い。

 また、レイス等の精神体に対する適性も高いようだ。


 3人はリズを先頭に地下水道を進む。 

 普段のゼロならばスペクターを偵察に出して内部の状況を探るところだが、今日のゼロは後ろから見守っているだけでアンデッドは召喚していない。

 今回はリズの訓練を兼ねているうえ、低級の魔物である魔鼠退治、更には背後を守るのはゼロとイズ。

 仮にリズが失敗しても致命的なことにはなり得ないからだ。


 リズは2体のウィル・オー・ザ・ウィスプを使役しながら前に進む。

 ゼロが召喚する特大の個体に見慣れているイズにしてみれば、リズのウィル・オー・ザ・ウィスプは小さく、頼りなく思える。

 しかし、死霊術を学び始めて数ヶ月で下位アンデッドであっても2体同時に操るのは相当な才能の証しなのだ。


 リズは闇に潜む魔鼠をウィル・オー・ザ・ウィスプの光であぶり出し、その炎で焼き払ってゆく。

 しかし、アンデッドに対しての指示もぎこちなく、アンデッドにも使役者の指示が伝わり辛いようで、動きに迷いが感じられる。

   

 それを黙って見ているゼロ。

 同じく見守っているイズも違和感を感じる。 

 死霊術の詳しいことは分からないが、精霊使いだからこそ分かる違和感。

 リズとウィル・オー・ザ・ウィスプにズレが生じているような気がするのだ。


「ゼロ様・・・」

「はい、そろそろですね」


 ゼロには分かる。

 ウィル・オー・ザ・ウィスプは望んでリズの使役下に入ろうとしているのだが、2体同時に使役しているリズの方がそれを受け止めきれていないのだ。

 リズも焦り始める。

 ゼロとの訓練の模擬戦闘ではもっと上手くできたはずだ。

 模擬戦闘で戦うゼロのアンデッドよりも遥かに弱い魔鼠を相手に思うように戦えない。

 焦りがより大きな焦りを呼び、その心の動揺がアンデッドに伝わってしまう。


「・・・そのままだと保ちませんよ」

  

 ゼロが呟いた時、矢庭にリズの術が崩れた。

 ウィル・オー・ザ・ウィスプの1体が突如として顕現化を保てなくなり消滅し、もう1体も形状が不安定になり、球体を保てない。


「クッ、待って・・言うことを聞いて・・・」


 リズは力業で抑えつけようとするが、制御できない。

 見かねてゼロが前に出てリズの肩に手を置いた。


「魔力で無理に抑えようとしないで。少し自由にさせてあげなさい。大丈夫、あれはリズさんの下を離れません」


 ゼロに言われてリズは力を抜いた。

 暴れていたウィル・オー・ザ・ウィスプがリズから少しだけ離れるが、直ぐに落ち着いたようにリズの前に戻る。

 しかし、大分力が弱まっているようで、召喚時よりも小さくなっている。


「その個体は魔力切れ直前です。一度戻してあげましょう」


 言われてリズはウィル・オー・ザ・ウィスプを冥界の狭間に戻した。


「リズさんはまだ大丈夫ですか?」

「はい」


 リズはゼロを見上げて頷いた。

 魔力、体力共にまだ余裕があるようだ。


「それでは仕切り直しです。1体だけでいいのでもう一度召喚してください」


 リズは気持ちを静めて再びウィル・オー・ザ・ウィスプを1体召喚した。


「気持ちを落ち着けて。模擬戦闘訓練でも教えましたが、アンデッドに対する指示はざっくりとしたもので構いません。アンデッドは使役者の気持ちを読み取って動きます。ただ、全てを正確に読み取れるわけではないので死霊術師はそのズレを修正してやればいいのです」


 リズは頷いた。

 初めての実戦で、敵を殲滅することばかり先走り、ゼロに教えられたことを実行できていなかったのだ。

 気持ちを切り替えて再び進み始める。

 ウィル・オー・ザ・ウィスプの動きに注意を払いながらも、好きにさせてみれば、リズがわざわざ指示しなくても的確に目標を仕留めてゆく。

 後ろで見ているイズの目にもその違いは明らかだ。


「まるで違いますね」

「はい、私が見ても彼女には死霊術師としての才能があります。彼女の優しい性格がよい方向に働いているのでしょうね」 

「確かに、妹は昔から心根の優しい娘でした」


 目の前で魔鼠を根絶やしにしてゆくリズを見ながら話すゼロとイズ。

 話している内容とその光景が矛盾している。


 やがて、予定の半分程を済ませたところでリズとウィル・オー・ザ・ウィスプの動きが鈍くなり、隙が生じた。

 ウィル・オー・ザ・ウィスプの攻撃をかいくぐった魔鼠がリズに飛びかかる。

 リズの反応が一瞬遅れた。

 即座にイズが飛び出して魔鼠を切り捨ててリズを守る。


「くっ、兄様、すみません」


 リズは体勢を立て直そうとするがこの辺りが限界のようだ。


「ここまでにしましょう。余力を残しておくことも死霊術には大切です」


 ゼロが前に出る。

 リズの回復を待つという選択肢もあるが、訓練を兼ねているとはいえ、正規の手続きで請け負った仕事である。

 迅速に完了させることも大切だ。


 ゼロは5体のジャック・オー・ランタンを召喚して地下水道内に放てば、1刻もしない間に地下水道の魔鼠が殲滅される。


「こんなものですね。これで暫くの間は大丈夫でしょう」


 仕事を終えたゼロは振り向いた。

 当たり前のことだが、ゼロの死霊術は桁違いである。


「さて、仕上げです。リズさん、アンデッドを使って地下水道内に討ち漏らしがないか確認してください」


 最後の仕上げをリズに任せるゼロ。

 リズは頷いて精神体型アンデッドのレイスを召喚し、地下水道内の確認に放つ。

 ゼロの仕事だから討ち漏らしがあろう筈が無いが、ゼロのことだ、リズの訓練のために罠を仕掛けている可能性もある。

 リズは油断することなく地下水道の隅々までを確認したが、討ち漏らしはないようだ。

 討ち漏らしどころか、魔鼠の死体を灰も残さずに焼き尽くしている。

 死骸が腐敗して疫病が発生しないための措置だ。

 それを伝えるとゼロは頷いた。


「それでは今回の仕事は終わりです。帰りましょう。今夜は飲みに出ましょう。私がご馳走しますよ」

 

 こうして死霊術師?リズのデビュー戦は無事に終わった。

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