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草原の都市奪還戦

「ヴァンパイアからリッチへと変異しましたか。厄介な相手ですね」


 ゼロは薄い笑みを浮かべながら呟いた。

 オメガ達に追い立てられたリッチではあるが、抵抗も逃げ出す素振りも見せずにゼロ達を見ながら佇んでいる。

 リッチを守るように周囲を囲むグールの群れも一様に武装している上位種だ。

 サーベル率いる部隊といい勝負であろう。


『・・・問う、黒き者よ。汝、何故に我等の平穏への道を妨げようとする』


 不意にリッチが口を開き、古代死霊術語でゼロに問いかけてきた。

 

「何を言っているんだ?」


 チェスター達にはリッチの言葉が理解できないが、ゼロにはその言葉が理解できる。


『平穏への道?』

『我等は古に汝等によって迫害されて闇に追いやられ、長きに渡り待ち続けてきた。月の光が太陽を駆逐するその時を。全ての者を死の恐怖から解き放ち、悠久の安寧を与える未来を待ち続けてきた・・・。』


 リッチの言葉にゼロはため息をつく。


『何を言っているのですか?』

『汝も死霊と共に生きる者ならば分かる筈だ。生者のみが支配する世界の歪さを、生と死を超越することの意味を』

『分かりますよ、生者が支配する世界の歪さと、生死を超越することの意味は』

『なればこそ、汝も我等と共に歩むべきだ。汝程の力ならば、あのお方も厚く遇するだろう・・・』

「馬鹿馬鹿しい。死せる者である貴方達に未来などはありませんよ」


 突然大陸標準語で話し始めたゼロ。


「貴方と私では世界観も死生観も解釈が違います。私も死霊術師、死霊と共に生きる者として生者が支配する世界の歪さを理解しています。しかし、歪であるが故に生きる者によって世界は成長するのです。その陰で死者達は虚ろな時を経て輪廻の輪に入り、次の短い生へと流れていくのです。貴方達が言う生と死の超越とは永劫の虚無に飲み込まれるだけの虚しいものです」

『それ程の高みにいながら愚かなものだ・・・。我等と共にあれば神の使徒になれたものを』

「私を怪しげな宗教に勧誘しても無駄です。私はただ、この国を蹂躙する貴方達を倒すように依頼され、仕事として貴方達に対峙しているだけなのですから。私は仕事に私情は挟みません。これ以上の論議は無駄です」


 ゼロの言葉と同時にオメガがその爪でリッチに斬りかかり、シャドウが雷撃魔法を撃ち込んだ。

 加えてサーベル隊が行動を開始、グール達に襲いかかる。

 ヴァンパイアのリッチと死霊術師ゼロの勝負が始まった。


 リッチはオメガとシャドウの攻撃を難なく躱し、一瞬の隙を突いてゼロに向かって炎撃を撃ち込んでくるが、ゼロの背後に控えるアルファの氷結魔法によって無効化される。


「とりあえず、敵がグールで助かったな。ゼロのスケルトンと区別がつけやすい!」

「確かにそうですね。これならばゼロ様をお守りするのも容易いものです」


 チェスターとイズはゼロの前に立ち、乱戦を抜け出してくるグールを斬り捨てている。

 カミーラはゼロの横に立ち、札の束を取り出すと、その1枚をゼロの背中に貼りつけ、残りの札に呪いをかけて戦場全体に撒き散らした。

 風に舞いながら地面に落ちる札だが、特に何も起こらない。

 しかし、


「・・・・」


カミーラが呪術の起動式を唱えた途端、散らばった札を踏んだグールが炎に包まれ始めた。

 ゼロのアンデッドが踏んでも何も起こらないが、グールが踏むと札から火柱が上がる。


「呪いの札を撒いた。ゼロが敵とみなす者が札を踏むと発動する」


 次々と倒されていく敵アンデッド。

 しかし、イズ、チェスター、カミーラが戦いに加わる中でリズと彼女のアンデッドだけは未だに動く気配を見せていない。


 一方、大教会に向かったイザベラ達だが、そこで目にしたのは正面扉を破られ、内部にまでアンデッドの侵入を許した大教会の有り様だった。


「・・・そんな。間に合わなかったのですか」


 周囲が止めるのも聞かず、自らの危険を省みず、イザベラ達の後を追ってきたシンシアが途方に暮れる。

 しかし、まだ望みはある。

 イザベラやグレイの見立てでは教会の正面扉が破られたのは今やさっきのことではない。

 それでもゼロのアンデッド、アルファが教会が持ちこたえていると報告してきたのだ。

 それを裏付けるようにイザベラは教会から漏れ出る僅かな結界の気の流れを感じ取っている。

 つまり、教会内部では未だに持ちこたえている場所があり、助けが来るのを信じて待つ人々がいるのだ。


「グレイッ、分かっていますわね?」


 イザベラは振り返ることなく鋭い口調で言い放つ。


「了解です!直ちに突入します。しかし、我々が突入するとこちらが手薄になります。こちらはイザベラさんにお願いしてよろしいか?」


 心配はしていないが、形式的に確認するグレイにイザベラはサーベルを手に胸を張る。


「雑作もないことですわ。こちらはお任せなさい。それに、応援が来てくれましたわ」


 イザベラが指差す先にはこちらに向かってくるジャック・オー・ランタン達の姿。 

 ミラージュ率いる魔法部隊の一部だ。


「あのおバカネクロマンサーが戦力を回してくれたようですの。あくまでも最小限ですが」

 

 それを確認したグレイはシンシア護衛の第3小隊を残して、教会周辺のアンデッドを突破し、教会内へ突入を開始した。


 教会内に飛び込むと回廊を隔てて大聖堂があるが、その扉も破られており、多数のアンデッドが更に奥へと進もうとしていた。

 周囲には何体もの神官、兵士、住民達の躯が食い荒らされて横たわっている。

 リッチの力が及んでいないのか、未だアンデッド化していないが、放置しておけばいずれ生ける屍として蠢き始めるだろう。

 たが、今は彼等の処理を優先する時ではない。


「隊長っ、奥です!大聖堂の奥から結界の気を感じます」


 エミリアが指示するのは大聖堂の祭壇横にある奥へと繋がる扉。

 その扉も既に破られているが、アンデッド達がその先に向かっているところを見ると、都市の生き残りはその先にいる筈だ。


「時間がない!突破するぞ!」


 グレイ達は群がってくるアンデッドを蹴散らしながら奥へと突き進んだ。

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