反攻計画
会議場ではそのまま反攻作戦の計画が話し合われた。
イバンス王国に残された兵は少ない。
王宮警備隊の生き残り15名。
王国軍残存兵力をかき集めて再編して3個中隊約200名で辛うじて1個大隊。
以前に死霊が発生した後に鉱山の街警備のために配備された駐屯部隊が変則の2個中隊90名。
衛士と冒険者が100名弱。
それに加えてアイラス王国の派遣部隊が約800。
総数にして約1200。
各国の援軍が得られなければ1個連隊程度のこの戦力で無限に湧き出る死霊の軍勢を相手に戦わなければならないのだ。
しかも、その全ての戦力を反攻作戦に投入するわけにはいかない。
シンシアの護衛や鉱山の街の守備にも兵を配置する必要がある。
「足りませんわね・・・」
編成を考えながらイザベラが呟いた。
王国を奪還するという大義を果たすためには名目上でもシンシア自らが軍を率いる必要がある。
最前線で戦う必要はないが、それでも、後方から軍を指揮する姿勢を見せなければならない。
そのため、王宮警備隊の生き残り15名はそのままシンシアの護衛任務に就き、加えてイザベラが呼び寄せる聖監察兵団の特務中隊をシンシアの護衛に当てる。
鉱山の街の守りにはイバンス王国軍2個中隊と衛士と冒険者を合わせて約200に加え、アイラス王国軍の聖監察兵団1個中隊50と聖職者20を残す。
結果として反攻の実戦力は千にも満たなくなってしまった。
総大将にはシンシアが就くが、イザベラとイバンス王国軍大隊長が実際の指揮を取ることになる。
イバンス王国の大隊長であるブランドンは一兵卒からの叩き上げの経験豊富で優秀な職業軍人であるが、兵力の大半がアイラス王国軍の兵であることを考慮し、更にブランドンからの進言もあって、指揮の優先権はイザベラに委ねられた。
「この数では国はおろか、都市の1つも攻め切れませんな」
腕組みして唸るブランドンの言うとおり、現有戦力では占領された都市を攻めることは不可能だ。
せいぜい鉱山の街よりも小規模な街や村を制圧できるかどうかだ。
しかも、1つか2つの街を奪還しても、その後が続かない。
「何処かに潜んで反撃の機会を狙っている生き残りがいればよいのですが・・・。例えそれらを結集しても、とても足りません」
目の前のテーブル上に広げられているのはイバンス王国の地図。
王都を含む王国の大半が死霊に占領されており、持ちこたえているのは国の東端に位置している鉱山の街だ。
これから主要都市4ヶ所と大小の街や村が数十を解放し、最終的には王都を取り返さなければならない。
その現実に一様に暗い表情のイバンス王国関係者だが、イザベラは必ずしもそうではない。
会議場の隅で黙って成り行きを見ているゼロを見た。
「ということですの。貴方には何か策がありまして?」
期待するように問いかけるイザベラに苦笑したゼロが前に出た。
「私の死霊達を主力としては如何ですか?数だけならば数万、中位以上の死霊だけの戦力重視でも数千規模の軍団を揃えられます。まあ、そこまでの数となると私が直接指揮をする必要がありますので、一度に複数箇所を攻められませんから地道に攻め上がることになりますが」
ゼロの提案を聞いたイザベラが何かを企んでいるように笑う。
「死霊を倒すのに死霊で攻める。背徳の極みですわね。それで大義が立つのかしら?」
「実際問題、他に手が無いのではありませんか?他国の援軍が来れば方針も転換できますが、来るかどうか分からない援軍を当てにしても仕方ありません。・・・そうですね、私の死霊達で拠点を解放することに抵抗があるならば、私の軍団で敵をすり減らし、最後の仕上げ、拠点解放を皆さんがすればいいのではありませんか?そうすればイバンス、アイラス両軍が解放したという体裁が整います」
イザベラの笑顔がより一層悪戯っぽくなる。
「それは名案ですわね。私も楽でいいですわ。でも、それだと貴方が1人損ですわよ?」
「イザベラさん、白々しいですよ。そんなこと最初から気にしていないでしょう?それに私は構いませんよ。依頼に基づいた仕事ですから、その報酬だけで十分です」
「なら、決まりですわね。イバンス王国の皆さんに異論はありますか?」
腰に手を当てて胸を張るイザベラに対して異論がある者はおらず、反攻作戦の方針が定められた。
その後、イザベラが呼び寄せたグレイ中隊長率いる聖監察兵団の特務中隊が到着し、風の都市の冒険者ギルドを介してイバンス王国からゼロに対する依頼の契約手続きを経て、イバンス王国解放作戦が開始されることになった。




