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女王の決断

 ノー・ライフ・キング、即ち死霊の王。

 魔王にも匹敵する強大な力を有していながら命ある者でないために魔王になることもなく、死霊の頂点に君臨する存在だ。

 その出現は非常に稀であり、歴史を紐解いてみても魔王降臨よりも少ないが、一度出現したならば人々のみならず、魔物も含めた命ある者全ての存在を脅かす厄災をもたらしてきた。


「そんな奴がこの国に現れたというのか・・・」

「だとすれば、これはもうイバンス王国だけの問題ではないぞ。早急に各国に知らせ、力を結集して対処すべきだ」


 出席者の発する意見に反対する者はいないが、問題が無いわけでもない。


「しかし、どうやって各国に伝えるのだ?使者を送るにしても、それを担える者が我が国には殆ど残っていないぞ!」


 確かにイバンス王国の政府関係者の生き残りは少ない。

 難を逃れたのは女王のシンシアに宰相のドム、国務次官と王宮警備隊の副隊長、シンシアの身の回りの世話役の侍従長だけであり、他の者はシンシアを逃すために王都に留まった者、逃避行の最中に倒れたり、行方不明になり安否不明である。


 他にはシンシアと共に逃れた王宮職員やメイド、王宮警備隊の一般隊員と王国軍の中隊規模の部隊が幾つか。

 鉱山の街に赴任していた事務職の役人や街の役所関係者は無事だが、使者の役を担える立場ではない。

 如何に非常時で急を要するとはいえ、各国を説得するにはそれなりの立場の者が使者として赴かなければならないのだ。


「その役割、我が国が引き受けましょう」


 イザベラが口を開いたが表情は険しい。


「ただ、本件に関して各国は自国の守りを固めて様子見をしていて、対応は及び腰です。加えて我が国のネクロマンサーが関係しているのかと疑惑の目を向けられたのも事実です」


 ゼロを見ながら説明するイザベラ。


「それでも、イバンス王国より我が国の方が他国への影響力はありましょう。特に東の連邦国と共和国から協力を得られると思います。日和見を決め込んでいた周辺国にもノー・ライフ・キングの出現を知らしめればその腰を上げるかもしれません。ただ、各国への要請を引き受けるにしても、イバンス女王の決断が必要となります」


 そう言ってイザベラはシンシアを見据えた。

 黙って会議の流れを見ていたシンシアが立ち上がる。


「私が国を立て直すか、国を放棄するかの決断ですね。国を捨て、残された民と共にアイラス王国の庇護に降るのは容易い。アイラス王国のリスクも低く、イバンス王国が完全に滅びたとなれば、各国の危機感を煽ることもできる・・・。逆に私が国を再建しようとするならば、戦後の利を期待する国が支援を名目に行動を起こしてくれるかもしれない。どちらの選択も私達にとっては茨の道ですね・・・」


 心に迷いを抱えるシンシアを優しく、それでいて期待を込めた目でみるイザベラがシンシアの決断を待つ。

 しばしの沈黙の後、シンシアは顔を上げた。


「国内には難を逃れて生き残り、辛い思いをしている民が居るかも・・・必ず居る筈です。彼等を救い、国の平穏を取り戻すのは私の役目です。私はイバンス女王として国を奪い返します。女王の資格無しとの責を負うのはそれからです!」


 期待どおりのシンシアの決断にイザベラが笑みを浮かべる。

 その笑顔が少しだけ悪い笑顔に見えたのはゼロとヘルムントだ。


「決まりですのね!流石はシンシア様。私達も精一杯お手伝いしますわ!」


 普段の口調に戻り生き生きとするイザベラは傍らに座るヘルムントを見た。


「ヘルムント、忙しくなりますわよ!先ずは、彼等を呼びなさい。不足しているシンシア様の護衛に当てます」

「待て、かの中隊は別任務に就いている筈だ。おいそれとは呼び戻せんぞ」

「それをなんとかなさい!非常時における護衛任務、彼等以上の適任者は居ませんのよ。それにグレイならば私の呼び掛けと期待には必ず応えてくれます」


 自信満々に話すイザベラ。

 こうなってしまったら絶対に引くことは無い。


(グレイ殿がイザベラの要請を断る筈もない。それが無理であることは骨身に染みておろうからな)

「何か仰いまして?」

「いや、直ちに手配しよう」


 満足げに頷き、聖監察兵団の特務中隊をしれっと手勢に加えてしまったイザベラは加えてゼロを見た。


「正直言って戦力がまるで足りませんの。貴方にも期待して良いのですよね?」


 ゼロは肩を竦めた。


「仕方有りません。ただ、今までは調査依頼の一環として行動してきました。イバンス王国を奪還するという仕事ならば改めて風の都市の冒険者ギルドを通して依頼を出してください。まあ、この非常時です、報酬はイバンス側の提示価格で構いません」


 この非常時にあっても自分の仕事に対する姿勢を崩すことなくシンシアと鉱山の街の冒険者ギルド長に申し向けるゼロにイザベラだけでなくイズ、リズ兄妹も呆れ顔で笑った。


 ゼロの要請を受けて直ちに風の都市の冒険者ギルドに向けて郵便鳥が放たれた。


 今、ノー・ライフ・キング率いる軍勢に対してイバンス王国の反撃が始まろうとしている。

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