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イバンス王国最後の街

 ゼロは試しに呼び出したスケルトンを戻した。


「この装置の力を借りれば死霊術の基本を理解していれば術師の能力が低くても死霊を呼び出すことができます。ただ、死霊術師の私に言わせれば、それはただ死霊を呼び出しただけで、術師の実力で召喚したとは言えません」


 ゼロは珍しく不機嫌そうに語った。


「この国で何が起きたのか、そして今何が起こっているのかについて説明する必要がありますが、その前にこの装置を破壊してしまいましょう」


 そういって祭壇に上がるゼロ。


「ちょっと待て、破壊して大丈夫なのか?以前のゼロは装置の破壊には慎重だった筈だ」


 チェスターが疑問を投げる。


「あの時はまだ装置の構造がよく分かりませんでしたからね。その後の調査で組み込まれている術式を解析しましたから大丈夫です。ある意味では魔導学的や歴史的に価値のあるものですが、放置しておくと危険なものでもありますので、イバンス王国側の許可も得ています」


 話しながら祭壇上の女神像に手を翳す。


『・・・』


 小さな声で古代死霊術語での短い詠唱を終えたゼロが振り返る。


「終わりました」


 見守っていたチェスターやイザベラ達には何が起きたのか分からない。

 祭壇に変化はないし、周囲の空気も変わらない。


「何をしましたの?私には何も変わったようには見えませんが?」


 イザベラの問にゼロは頷きながら答える。


「迷宮内に無数にある棺はこの女神像を中枢として魔術式によりリンクしています。今、女神像に組み込まれていた魔術式に干渉して魔術式を破壊しました。傍目には分かりませんが、この迷宮内の全ての装置を無力化しました」

「ならば、この国で何が起きているのか、貴方が何をしていたのか教えてくださるかしら?」


 鋭い視線でゼロを睨むイザベラ。

 ゼロを疑っていたわけではないが、ことの詳細が分からなくて苛ついているらしい。

 それについてはイズもリズも同様である。


「分かりました。詳しく説明しますが、これはイバンス王国での有事です。イバンス王国の方にも説明するのが筋です。街に戻ってからにしましょう。チェスターさん、先に街に戻って説明の席を設けていただけますか?」


 ゼロに頼まれたチェスターが先行して街に戻り、地下迷宮への入口をカミーラの呪術にて完全に封鎖したゼロ達は街に向かった。


 ゼロが以前から調査のために街に出入りしていたこと、イバンス王国がアンデッドに攻められる中でたまたま街に滞在していたゼロの支援によって街が持ちこたえたこともあり、ゼロが頼んだ説明の場は直ぐに設けられることとなった。


 国中がアンデッドに襲われる中で鉱山の街を救ったのが死霊術師のゼロ。

 その不気味な一致に街の多くの者が


「街に取り入って何かを企んでいるのではないか?」


とゼロに疑いの目を向けた。

 しかしながらそのような目を向けられ、疑われながらも淡々と行動し、何の見返りも要求してこないゼロの姿とチェスターの


「国が壊滅した中でゼロがこの町を守ることに何の得がある?そして、ゼロがいなかったら真っ先に死霊に滅ぼされていたであろう俺達に何か損があるのか?何より、俺達は俺達に乞われてこの街に来て、身の危険を冒してまで街を守ってくれたゼロに恩を仇で返すのか?」


との言葉に多くの者が我に返った。


 確かにイバンス王国内で最初にアンデッドが溢れ出たのは鉱山の街で、それに対処することができずに国を越えてゼロを呼び寄せたのは他ならぬ鉱山の街だ。

 ゼロに街を救われた後に国中にアンデッドが溢れて国が瓦解したが、ゼロがいなければ真っ先に餌食になったのは鉱山の街だった筈である。

 それどころか、ゼロは鉱山の街での調査からアンデッドの大量発生について警告していたのだが、そのことを鉱山の街を経由して伝えられても備えなかったのはイバンス王国なのだ。

 その結果、イバンス王国中に溢れかえったアンデッド達の攻撃に国が滅びつつある中で唯一持ちこたえ、今やイバンス王国最後の街となったのが鉱山の街である。

 この状況下になって鉱山の街ではゼロを畏怖する者は未だに多いが、疑っている者は少ない。


 ゼロ達は街に戻り、待機していたヘルムントも合流したうえで街の中心にある役所の庁舎に入ったが、先行したチェスターのおかげで会合の場は既に準備されていた。

 この場ではゼロからの説明だけでなく、アイラス王国から援軍に来たイザベラ達からの説明と今後の行動計画も話し合われることとなる。

 

 庁舎内の会議室に立ち入った一行。

 会議室内には既に街の有力者が集合していた。

 街の首長、駐屯する軍司令官、衛士隊長、冒険者ギルド長、商人ギルド長等々。

 そんな中、会議室の奥の席に座る人物を目にしたイザベラとヘルムントは即座に膝を付いた。

 その席に着いていたのはうら若い少女。

 質素な服を着ているが、その身から溢れる気品はただ者ではない。

 そして、イザベラとヘルムントはこの少女が何者であるか知っている。


「アイラス王国の方々、ようこそおいでくださいました。援軍、心から感謝致します。私はシンシア・イバンス、かつてはイバンス王国の女王であり、国を守ることができずに逃げ出した愚か者です」


 席を立って深々と頭を垂れた少女はイバンス王国女王のシンシア・イバンスを名乗った。

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