スケルトンウォリアーの進軍
山道を駆け下りてくる数千のスケルトン。
動きが緩慢なスケルトンとは思えない程の速度を保ちつつ、一糸乱れぬ統率の取れた隊列であり、その様は訓練で鍛えられた屈強なる軍隊と見紛う程だ。
「あのスケルトン達はなんですの?」
目の前のスケルトンよりも山を下ってくるスケルトンに目を奪われているイザベラ。
ヘルムントも同様だ。
「あれは・・・個々の兵がただのスケルトンではない。スケルトンウォリアーではないか?遠くてよく分からぬが、更に上位種も多数居るぞ」
ヘルムントの言うとおり、新たな軍勢は部隊を構成する兵が中位種のスケルトンウォリアーで、その各隊をスケルトンナイトが指揮している精強な軍団。
召喚者にじっくりと育てられた彼等は同数の人間の軍隊にも引けを取らない程の戦闘力を有している程だ。
「あんなのが街に攻撃を仕掛けたら!結界に守られていても危険ではありませんの」
「それだけではない!奴等が街を迂回してこちらに向かえば、追い詰められるのは此方だ!我とイザベラが本気で戦ってもあの数ではどうにもならぬ。打つ手が無くなるぞ」
「私が本気で?私、何時でも、何をするにも本気ですのよ。本気で学び、本気で鍛える。そして、遊びも戦いも本気。本気で相手のことを叩きのめしますの」
ヘルムントの言葉を聞いたイザベラが獰猛で美しい笑みを浮かべ、その様子を見たヘルムントは肩を竦めた。
「そんなことだから彼奴にも逃げられるのではないか?少しは引くことも学ぶべきだと我は思うがな。むしろ彼奴の方がイザベラに引いているぞ」
「現実が充実している貴方は黙ってなさい!それに私、恋も本気、絶対に引きはしませんし、逃がしはしませんの。あの副官の好き勝手にはさせませんわ!」
「ならば、この窮地を生き延びねばな」
「私、この程度のことを窮地だとは思いませんの」
2人のやり取りを見ていたイズとリズは互いに顔を見合わせた。
(何を言っているのか分からんが、あの2人はまだ余裕がありそうだな?)
(はい。でも隊員の人達はそろそろ限界だと思います)
確かに聖騎士団と聖監察兵団は負傷して後退する隊員が増えてきている。
敵との接触面で隊員が負傷すると直ぐに後方に控える隊員と交替するため、大きな損害は出ていないが、それも限界が近いようだ。
「あのスケルトンがどちらに向かうか・・・。どちらにせよ厄介だ」
ヘルムントは山道を下る軍団を睨む。
そのスケルトンウォリアーの軍団は鉱山の街を迂回し始めた。
「やはり目的は此方ですのね!全隊防御円陣!」
イザベラが叫び、聖騎士と神官戦士達が円陣を組んだ。
そんな中で人間よりも遥かに遠目がきくシルバーエルフのイズとリズは山を下りる軍団の更に後方を見据えていた。
「兄様!」
「ああ、間違いない!ゼロ様だ」
2人の声に振り向いたイザベラはイズが指差した方向を見る。
イズの指先の彼方、スケルトンウォリアーの軍団の後方で複数の上位アンデッドを従え、進撃する軍団を見下ろしている漆黒の戦士の姿。
「あのおバカネクロマンサー!こんなところに居ましたの!」
イザベラは僅かに表情を綻ばせるが、ゼロを見るその目は厳しいままだ。
ヘルムントも同様で、ゼロに向かって走り出そうとするリズを止める。
「待たれよ!敵か味方か、ゼロ殿の真意が読めぬ!」
ヘルムントの言葉に睨み返しながら何かを言おうとしたリズだが、イズが首を振る。
「待て、リズ。兵を預かる立場のヘルムント殿の言葉は尤もだ。ここでゼロ様の真意を見極めろ。なに、直ぐに分かるさ」
リズを諌めるイズだが、結論など決まっているとばかりにその表情は自信に満ちていた。
やがて、街を迂回したスケルトンウォリアーの軍団が街を取り囲むアンデッドの軍勢に衝突した。
イザベラ達を取り囲むスケルトンとは違い、生者の肉を求めて彷徨い、街に殺到しているだけのゾンビなどではまるで相手にならない。
邪魔な雑草を刈り取るが如き勢いでアンデッドの軍勢を切り裂いて進んだスケルトンウォリアー達はそのままの勢いでイザベラ達を包囲するスケルトンに襲いかかった。
「間違いない!ゼロ様は敵ではないぞ!」
「当然です!ゼロ様はゼロ様です」
イズとリズが大きく頷いた。
「イザベラ殿!防御円陣を維持して動かないでください」
イズの言葉にイザベラは面白くなさそうな表情を見せるが、その意味を理解したのかそっぽを向いた。
イザベラに代わってヘルムントが指示を出す。
「総員、防御円陣を維持!こちらから手を出してはならぬ!新たに現れたスケルトン達は敵ではないが、双方がスケルトンでは我々には見分けがつかぬ!攻撃を仕掛けてくる個体にのみ反撃せよ」
イザベラが理解し、ヘルムントの言うとおり、目の前ではスケルトンの軍団とスケルトンウォリアーの軍団が戦いを繰り広げているが、常人では敵味方の区別がつかない。
下手に手出ししてゼロの操るスケルトンウォリアーを攻撃してしまうわけにはいかないのだ。
「本当に忌々しいネクロマンサーですこと!」
そっぽを向いたままのイザベラが呟いた。




