表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/100

行動開始

 国王の命を受けて事態は動き始めた。

 最初にアイラス王国はイバンス王国に隣接する他国に対して本件の軍事行動についての説明と協力要請をしたが、色よい返答を得ることができなかった。

 いずれも国境を封鎖し、防衛を強化して様子見の消極的対応で、加えてそれぞれが独自に入手した情報によりイバンス王国を攻め滅ぼしたネクロマンサーがアイラス王国の冒険者の可能性があることを把握しており、その疑惑が明らかにならない限りは協力し難いとの立場を示していた。


 やむなくアイラス王国のみでの行動となるが、その目的は3つ。

 第1は、イバンス王国で唯一持ちこたえていると思われる鉱山の街を包囲している死霊達を一掃して街を解放し、イバンス王国の残存兵力と合流して状況の詳細を把握する。

 第2に少数による深地潜入を敢行し、イバンス王国を支配したネクロマンサーの正体を暴く。

 第3に軍が国境を越えたことにより引き起こされるあらゆる事態を想定して国境警備の更なる強化である。

 

 第1目的の鉱山の街解放部隊は死霊の軍勢との戦いは避けられないために対アンデッドを主体とした編成であり、聖務院聖騎士団1個中隊50、聖監察兵団1個大隊200、編成中の第2騎士団150、第4軍団300の合計約700の主力に、後方部隊として輸送、救護部隊、聖職者による支援部隊が60だ。

 加えて、鉱山の街への案内を兼ねて風の都市の冒険者ギルドからシルバーエルフのイズとリズの兄妹が同行することになった。

 部隊の総司令官は聖騎士団副団長のイザベラ・リングルンドが務め、イザベラの補佐にヘルムントが当たるが、ヘルムントは後方部隊の隊長を兼務する。


 第2目的の深地潜入部隊は冒険者等による少数精鋭により行われ、風の都市の冒険者ギルドからレナとセイラ、アイリア、更に冒険者として再出発したリックスの4人、森の都市のギルドからオックスとリリス、王都のギルドからライズとイリーナの8人に加えて近衛騎士団の竜騎兵隊から志願したコルツが同行する。

 潜入部隊をまとめるのはかつてゼロ連隊の副連隊長を務めたオックスだ。

 他に上位冒険者パーティーが幾つかと聖監察兵団の部隊が別個に潜入することになっている。


 最後に国境警備は国内に残る戦力の7割を割いて防衛に当たり、近衛騎士団隷下のグリフォンナイツと聖騎士団のペガサスナイツが国境線からイバンス王国内に対して上空からの警戒任務に就く。

 竜騎兵隊、通称ドラグーンは国内全域の上空警戒だ。


 レナは様々な覚悟を胸に旅立ちの支度を整えて風の都市を出る。

 レナを見送るシーナもまた全てを受け入れる覚悟を決めていた。


「レナさん、必ず、あの人を連れて帰ってきてください」

「任せておいて。ゼロに何があったのかは分からないけど、ゼロが帰るべき場所はこの風の都市、私達がいるここだけ。他の何処にも行かせはしないわ。でも、1つだけ覚悟を決めておいてね・・・」

「分かっています。もしも、本当にゼロさんが・・・その時は、風の都市のギルドとしてもゼロさんを討たねばなりません。だから、レナさんが、レナさんの手で彼を止めてあげてください」


 2人共ゼロを信じている。

 だからといって現実から目を逸らすわけにはいかないのだ。

 ゼロが世界の人々に仇なす存在と化したならば、その現実を受け入れてそれぞれの役割を果たさなければならない。

 レナはシーナの手を握りしめた。


「それも任せておいて。私達以外の誰にもやらせはしないわ。私の手はシーナの手。私達2人でゼロを救い出しましょう」


 ゼロを想う2人、旅立つレナと残るシーナ。

 2人は同じ決意を持って前に進む。


 今、国境の手前にある砦に鉱山の街解放部隊が集結していた。

 800にも満たない兵力だが、アイラス王国が送り込める最大限の戦力であり、聖騎士団をはじめ、精強な兵揃いだ。

 鉱山の街は山あいで険しい道の先にあることから騎馬隊の機動力と突破力が発揮できないため、物資輸送の部隊以外に馬を用意しておらず、聖騎士も騎士も騎乗せずに下馬戦闘の備えをしている。

 部隊の準備を見守っていたイザベラにイズとリズの兄妹が合流した。


「お話しは聞いています。貴方達が目的地まで案内してくれますのね?」

 

 差し出されたイザベラの手をイズが握りかえす。


「私達はゼロ様と共に幾度か鉱山の街を訪れました。お役に立てると思います」


 イズの言葉を聞いたイザベラは呆れたような表情を浮かべた。


「あのおバカネクロマンサーも厄介な目に遭っていますのね」


 イザベラの言葉にイズが首を傾げる。


「厄介な目・・とは、リングルンド殿はゼロ様が今回の首謀者だとは思っていないのですか?」

「イザベラで結構ですの。リングルンドなんて呼ばれると私自身も一瞬誰のことか分かりませんわ。で、私はあのおバカネクロマンサーがイバンス王国を滅ぼしたネクロマンサーかどうかなんて興味はありませんの。ゼロが敵になるならば、私は私の任務を全うすべく、あの男を討つだけ。そうでないならば、別の敵を倒すだけですわ。でも、あのおバカはこんなことを望んでやるような男ではないでしょう?その程度のことは私にも分かりますのよ」

  

 ゼロを知る全ての者がゼロのことを信じたいと思っている。

 それでいて心のどこかでは不安を感じているのだ。

 しかし、リズだけは違った。


(ゼロ様が罪もない人々を手に掛けて世界を敵に回すなんてありえない。絶対に違う)


 仮にではあるが、ゼロから死霊術の教えを受け、未熟ながらも死霊術師としての目線でゼロを見ることができる彼女は口にこそ出さないが、ゼロのことを微塵にも疑っていなかった。

 根拠があるわけではない。

 ただ、ゼロの人となりだけでなく、死霊術師としての能力と考え方、そして誇り、全てにおいてイバンス王国を滅ぼしたネクロマンサーとは合致しないのだ。


「さあ、時間は無駄にはできません。未来は無限にありますけど、選択を間違えばそれで終わり。時間を気にするという贅沢もできなくなりますの!征きましょう!鉱山の街へ!」


 イザベラの号令で進軍が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ