表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/100

御前会議

 聖監察兵団特務中隊からの報告を受けたアイラス王国王都では再び御前会議が開かれていた。

 イバンス王国の現状と今後の対応について議論されている。


「イバンス王国と我が国は相互に協力して友好な関係を保ってきた。特にイバンス王国の鉱物資源は我が国の産業にとって重要だ。更にイバンス王国のおかげで西方に対する警戒を必要最小限にすることができていた。それが今や我が国はイバンス王国に隣接する西方の警戒に最大限の戦力を割かねばならなくなっている。当然ながらこのまま放置するわけにはゆかぬ」


 御前会議では国王は発言しない慣例に倣って国王に代わり宰相が大まかな方針を告げて出席者の意見を募る。

 尤も、ここ数年の世界の変動に伴って国王沈黙の慣例も有形無実化していた。


「イバンス王国が友好国であるのみならず、かの国が攻め滅ぼされたとなれば、敵が次に目を向けるのは我が国になるやもしれぬ。イバンス王国の支援という名目で先手を打って軍を送り込むことはできぬか?」


 内務大臣の発言を受けて軍務大臣に代わり軍務を取り纏める軍務次官が起立して説明する。


「我が軍は魔王との大戦による損耗からの再建が完了しておりません。現在の軍務省隷下の戦力は損耗の補充を完了した第1騎士団、再編中の第2、3騎士団はそれぞれ半数にも満たない数です。第1軍団は健在ですが、再編と新設の第2から第5軍団はそれぞれ定員の4割から6割程度です。小国とはいえイバンス王国を奪還する程の戦力を捻出することはできません」

  

 次官の説明に頷いた軍務大臣は続けて口を開いた。


「現有戦力では国を守るだけで精一杯だ。仮に無理やり遠征軍を編成するにしても、半個騎士団に1個軍団程度、まるで足りない。加えて、イバンス王国からの要請も無しでは、大軍・・・とはいえなくても、軍を越境して送り込む名分がない」


 軍務大臣の言は尤もである。

 既に滅亡と判断されたとはいえ要請もなしに国境を越えて軍を派遣することは簡単にはできない。


「聖監察兵団の特務中隊がイバンス王国の王宮警備隊の者を保護したが、聞けば大隊長の職にあったとのことだ。加えて保護した者の中にはイバンス王国の宮廷の文官もいたと聞いている。イバンス女王の安否が不明の今、要職にあった者ではないにせよ、彼等からの要請とすれば大義名分は立つだろう?」


 宰相の言葉に軍務大臣と次官は黙り込むが、首を縦には振らない。

 どう考えても兵力が足りないのだ。

 その様子を見た聖魔大臣が立ち上がる。


「軍務大臣の懸念は尤もだ。あまりにも戦力が足りなすぎる。しかも、仮に大軍をもってしてイバンス王国を解放したとして、その後はどうする?国を復興すべきイバンス王や民が居なくてどうする?我が国が統治するとでも?そんなことをしては他国からあらぬ疑念を向けられるぞ」


 聖魔大臣の言葉に会議場が沈黙に包まれる。


「やはり、国境の守りを固め、現状を維持しつつ様子を見るべきだ」


 誰からともなく漏らされた消極案に異を唱える者もいない。


「・・・ところで、イバンス王国を攻め滅ぼしたのは白と黒、2人のネクロマンサーと聞いた。これは行方不明となっているゼロなる者の可能性はあるのか?」


 会議を見守っていたアイラス王が口を開いた。

 前回同様に出席していたレナが立ち上がる。

 心なしか表情が青ざめている。


「ゼロは・・・常に漆黒の装備を身に着けています」


 レナの言葉に沈黙に包まれていた会議場が騒然とする。


「加えてゼロの死霊術の師にお会いしたことがあります。白銀のローブに白銀の髪を持つハイエルフです。彼女は魔王にも匹敵する程の実力の持ち主です」


 続けられたレナの言葉に愕然とした。


「それではその2人だと決まったようなものではないか!」

「これこそ由々しき事態だ!」

「だからこそネクロマンサーなどという禍々しい者をのさばらせていたからだ!冒険者ギルド、果ては内務省にも責任があるぞ!」


 気色ばむ諸侯を前にレナは何も言い返すことができなかった。

 ゼロに対する評価はともかく、現状においてイバンス王国を攻撃した張本人がゼロである可能性が高いことは事実なのだ。

 レナはゼロのことを信じているし、ゼロのためならば全てを敵に回す覚悟がある。

 ただ、ゼロが多くの罪もない民を手にかけたとなれば話は別だ。

 仮にゼロが何かに惑わされているとしても、人々に仇なす存在と化したならば、レナはゼロに敵対する覚悟もある、つもりだ。


「ここで騒いでいてもどうにもならぬ。それに、件のネクロマンサーのゼロとは公にはされておらずとも救国の功績者の筈だ。確たる証なく口汚く罵ることは余が許さぬ」


 騒然としている会議場にアイラス王の声が響きわたり、再び水を打ったように静まり返った。


「仮にそのゼロなる者がイバンス王国を攻めたのであれば、我が国が責を負い、その責任においてその者を捕らえて真意を問い質すなり、討伐すべきだ!余はそのための戦力投入に躊躇はしない!」


 国王の命により更なる情報収集が行われることとなり、近衛騎士団内に新設された竜騎兵隊による空中強行偵察が行われた。

 

 強行偵察の結果、イバンス王国に死霊達に包囲されながらも強力な結界に包まれている街が存在することが判明した。

 竜騎兵の高空からの偵察によれば、数こそ少ないものの兵士により防衛体制が敷かれているとのことで、竜騎兵が状況確認のために接近しようとするも矢を射掛けられ、接近できなかったとのことだ。

 但し、街中にいるのは死霊達ではなく、街の周囲を包囲している数万の死霊達も結界に阻まれているようで、その街は未だに陥落していない可能性がある。

 その街は山あいに囲まれた鉱山の街だった。


 報告を受けたアイラス国王はイバンス王国への軍の派遣を決断した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ