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死霊術師ゼロ

 数年前、魔王との戦争があった。

 帝国を滅ぼし、連邦国を侵略し、破壊の限りを尽くした魔王が泣き虫英雄レオンと半人前聖女セイラ達に討ち取られたことは吟遊詩人の歌や歌劇となり世界中の人々が知っている。

 しかし、その活躍の陰でたった1人でもう1人の魔王に戦いを挑み、魔王を討伐した男のことを知る者は少ない。

 その男は黒等級の冒険者ゼロ。

 数多のアンデッドを使役する稀代の死霊術師。

 自ら望んでネクロマンサーとしての道を選び、自分の職に誇りを持つ変わり者である。

 魔王と共に冥府に落ちたゼロは2年の歳月を費やして風の都市に帰ってきた。


 魔王を討伐するという類い希なる功績を上げたにもかかわらず、その特殊な職業故にそのことは公にされておらず、ゼロ自身もひけらかすことは無かった。

 そして今も風の都市の冒険者として働いている。


 穀倉地帯での仕事を終えたゼロは風の都市に戻ってきた。

 依頼達成の報告のために冒険者ギルドに向かう。

 ギルド内に入れば見慣れたギルドの様子だ。

 昼過ぎともあり、ギルド内にいる冒険者もまばらで、職員も交代で休憩を取っているらしく、カウンターにいるのも若い受付職員が1人だけ、カウンターの内側に隠した菓子を食べている。

 その奥では依頼業務責任者となったシーナが書類の決裁を行っている。

 かつては受付主任だった彼女も今では受付業務と依頼受諾から結果を精査する業務の2つの部署を取りまとめる責任者である。

 ギルド長、経理責任者に次ぐ風の都市の冒険者ギルドのナンバー3である。

 まだ若いシーナだと異例の出世のように見えるが、本人に言わせると


「私はこう見えてギルド本部の上級職採用ですよ。本来ならばとっくに王都の本部に戻っていて、もっと出世していても不思議ではないんです。ただ、本部への異動を固辞し続けたから出世街道からは外れてしまいましたけど」


と笑いながら話している。

 そんな立場のシーナなので現在は受付窓口に座ることは殆どなく、カウンターの前に立つゼロに気がついても笑みを浮かべるだけで話し掛けてはこない。

 今の彼女にしてみればギルドでわざわざゼロに話し掛ける必要もないのだ。

 ゼロは顔馴染みの若い職員に依頼達成の報告を済ませて報酬を受け取り帰路についた。


 ゼロの家は都市の外れの薄暗い森の中にある。

 昼なお暗い森の中は夕暮れ時となれば太陽が沈む前に闇に包まれてしまう。

 そんな森の中にある家に到着すると家の中からは灯りが漏れている。


「おかえりなさい」


 帰宅したゼロを出迎えたのは賢者のレナ。

 未だにゼロとレナ、シーナの同居生活は続いていた。

 ゼロもあれこれと理由をつけて同居解消について説得してみたが、2人には頑なに拒否された。

 元々部屋も余っていて不自由はないので諦めて2人の好きにさせている。


 魔王との戦いで冥府に落ちたゼロが生還した直後はレナもゼロから離れようとせず、どんなに簡単な依頼にもついて来たものだが、最近はそういったこともなく、ゼロが1人で依頼を受けて旅立っても何も言わないし、レナ自身も1人で依頼を受けたり、魔導研究や情報交換のために王都の魔導院に出向いたりしている。

 以前は強引にパーティーを組まされて常に一緒にいたが、それも解消し、必要がある時だけ共同で仕事に当たる程度になっていた。

 ゼロに取ってはその方が気楽なのだが、レナにその心境の変化を聞いてみたところ


「あんまり強引につきまとっていては逆効果だと教えて貰ったのよ」


と笑いながら答えていた。


 レナにしても、シーナにしても押し掛け愛人としての地位を確保したせいか、最近はゼロに必要以上に干渉してこないのでゼロも気にならなくなっていた。

 しかし、彼女達は気づいていない。

 押し掛け愛人の地位を確保して安心しきっていたため、共同生活を送っていても、愛人らしいことは何一つしておらず、ただの同居人に落ち着いてしまっていることに。


 帰宅したゼロは装備品を外し、顔の左半分を覆う仮面を外した。

 ゼロの左目はかつてドラゴン・ゾンビとの戦いで負った負傷から命を守るためにレナの手によって潰されており、その周囲も酷い傷痕が残っている。

 加えて右半分も魔王ゴッセルとの戦いで負った傷痕が残っていて、ゼロの素顔はお世辞にも整っているとはいえない。

 普段は鍛冶師のモースが作った仮面で左半分を隠しているが、家の中ではその仮面を外すように同居人からきつく言われているのだ。


「シーナももう少しで帰ってくるから、食事の用意をするわね」


 読んでいた魔導書を片付けたレナが炊事場に立つ。

 その間にゼロは家に増築した風呂場で汗を流すことにした。

 実は2人が押し掛けてきてから真っ先に問題になったのが、入浴の問題だった。

 ゼロが1人で暮らしていた頃は家に風呂は無く、外にある井戸で身体を洗うだけであった。

 しかし、若い2人の女性が転がり込んできたことによりそうもいかなくなった。

 都市に共同浴場はあるが、ゼロの家からは遠い。

 当初は2人共に共同浴場に通っていたが、生活に慣れてきたせいか、あろう事か、2人は家の中にたらいを持ち込み、井戸の水を引き込んで温めて風呂代わりにし始めたのである。

 勿論部屋の一角をシーツ等で覆って目隠しはするが、ゼロにしてみればたまったものではない。

 

 作為的な何かに身の危険を感じたゼロはモースの知り合いの大工に頼んで風呂を増築したのである。

 今ではゼロやレナ達だけでなく、隣人までもが借りにくる有り様だ。


「ゼロは明日はどうするの?」


 シーナも帰宅して3人で食事を取りながらレナが聞いてくる。


「たしか、イズさん達と共同で地下水道の魔鼠退治ですよね?」


 ゼロの予定を把握しているシーナの言葉にゼロは頷いた。


「はい、最近は地下水道に潜っていませんでしたからね。リズさんの訓練を兼ねて片付けてしまおうと思います」

 

 地下水道の魔鼠退治は新米冒険者ですら面倒くさがってなかなか引き受けない水道局からの依頼である。

 ゼロは黒等級故にもう昇級することはないが、知る人ぞ知る救国の立役者である。

 その実績からもゼロの実力は金等級と比べても遜色はなく、そんな上位冒険者の受けるような仕事ではないのだが、余っている依頼があれば相変わらず率先して請け負っているのだ。


「リズの訓練?あぁ、そういうことね」

  

 ゼロの話しを聞いたレナは頷いた。


 イズとリズ、双子の兄妹のシルバーエルフ。

 かつてダークエルフと呼ばれていた一族の住む森を救ったことがきっかけでゼロの後を追って冒険者になった2人。

 今ではゼロの家がある森の中に小さな家をこしらえて2人で住んでいて、ゼロの家の風呂を借りに来る隣人というのはこの2人、というか主にリズであった。

 最近のゼロはレナと依頼を受けるよりもこの双子と行動を共にすることが多い。

 

 明日も3人で地下水道に潜る予定だ。

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