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避難民を救助せよ

 グレイは中隊に命令を下す。


「第1、第3小隊は私に続け!第2小隊はこの場で待機、逃げ込んでくる避難民の受け入れだ。峠道方向の警戒を怠るな」


 2個小隊を引き連れたグレイは山中に分け入った。 

 報告によれば避難民はシルファ達に守られながら此方に向かっているとのこと。

 彼等と合流し、追撃のアンデッドを殲滅しながら拠点に戻る。

 うまくいけば避難民から情報を得ることができるかもしれない。

 グレイはアストリアの第3小隊を分散して各所に待機させて退路を確保しつつ先を急いだ。


 山中を進むこと1刻程、避難民を追うアンデッド達に先んじてシルファ達と合流することができた。

 背後にアンデッドの姿は無い。


「あのっ!敵アンデッドはスケルトンとゾンビが大半です。ただ、スケルトンの中には鎧を着込んだ者が混ざっています。多分上位種です。数は、正直分かりませんが、少なくとも百は下りません。多少は引き離しましたが、未だに追ってきています」 


 シルファの報告を受けながら避難民を確認すれば、老人から子供まで30人程、よほど無理をしたのか、服もボロボロ、怪我をしている者も少なくない。

 それよりも、グレイが気になったのはシルファの分隊と共に殿を守っていた3人だ。

 折れた槍や敵から奪ったのか、錆びた剣を持っているが、揃いの軽鎧を着ており、その立ち振る舞いは明らかに軍人だ。

 その中の1人、中年の男がシルファに促されてグレイの前に立つ。 


「私はイバンス王国王宮警備隊のロレンスと申す者。救援を感謝します」


 ロレンスと名乗った男にグレイは敬礼する。


「私はアイラス王国聖務院聖監察兵団のグレイと申します。詳しい説明と貴方達からのお話しも聞きたいところですが、時間がありません。今は安全な場所まで逃れることを優先します」


 そう言ったグレイはエミリアを見て、エミリアも無言で頷いた。

 避難民と合流した直後からエミリアは避難民を観察していた。

 怪我をしている者も多いが、もしその怪我がアンデッドによる傷、例えばゾンビに噛まれた怪我であれば、対処が遅れるとその者がアンデッドと化してしまう虞がある。

 神官としても優秀なエミリアが密かに彼等を調べていたのだが、幸いにしてその虞はないようだ。


「国境にある検問所まで後退します。敵アンデッドは我々が引き受けます」

 

 グレイの言葉にロレンス達は首を振る。


「助勢はありがたいが、我々も彼等を守る責任があります。一緒に戦います」


 軍人としては当然の答えであるが、グレイにとってはその申し出は受け入れ難い。

 避難民の保護も重要だが、ロレンス達がイバンス王国の軍人、それも王宮警備隊員であるならば、何が何でも彼等を確保しなければならないのだ。

 イバンス王国の王都の守りに就いていた彼等である、重要な情報を持っているに違いない。


「申し出はありがたいが、貴方達も限界が近い筈です。それに、今後の対策を立てるためには貴方達の情報が必要です。ここは引いて次の機会をお待ちください」


 グレイにそこまで言われてはロレンスも引かざるをえない。

 たとえこの場が自国領内でグレイ達が他国の軍人とはいえ、この場の指揮権はグレイに有ることは明らかで、ロレンス達は保護された立場であるのだから。

 ロレンス達は敬礼をして避難民を守りつつシルファの分隊と共に後方に逃れていった。


 その場に残ったのはグレイとエミリアにアレックスの第1小隊だ。

 グレイの横で弓に矢を番えるエミリアが険しい表情を浮かべる。


「中隊長、近づいてきます。かなりの数です」

「エミリアの浄化結界で減らせるか?」

「多少は。でも、あまり期待はできません。それよりも多人数による阻止結界の方が良いと思います。私の浄化結界の祈りは面でアンデッドを消し去りますが、範囲が狭いです。ならば、第1小隊員の半数程度を投入して結界の阻止線を張るべきです。結界で足止めして物理的に破壊する。ゾンビやスケルトン相手ならばその方が効果的です」


 グレイはエミリアの提案を受け入れた。


「アレックス小隊長、2個分隊を投入して扇状に阻止結界を展開。敵アンデッドを足止めして結界内から敵を討ち減らす。阻止結界に平行してエミリアは浄化結界を展開。敵をすり減らしてくれ」


 アレックスは指揮下の2個分隊の隊員を並べて阻止結界を張らせ、その内側に残りの分隊と弓兵を配置した。

 神官としての能力は中隊随一のエミリアは矢を番えたままで精神を集中する。


 やがて、生い茂った木々の奥から虚ろな軍団が姿を表した。

 ゾンビとスケルトンがそれぞれ数十体、スケルトンの方が数が多い。

 先を歩いてくるゾンビは年の頃や性別、服装もバラバラで、身体が腐りきっていないところを見るとイバンス王国の国民のなれの果てだろう。

 後に続くスケルトンの方は動きか統率が取れており、武装しているところからもネクロマンサーに召喚された軍勢だ。


 先行してきたゾンビ数十体が阻止結界の見えない壁に阻まれて足を止める。


「よし、結界の内側から攻撃!結界の前に出ないように留意!」


 剣を抜いたアレックスの号令で第1小隊が攻撃を開始し、ハルバートや弓矢で的確にアンデッドの頭部を破壊していった。

 衝突した第1小隊の背後からエミリアが浄化の祈りを乗せた矢を放つ。

 放たれた矢はゾンビ達の頭上を越えてスケルトンの軍勢の中に飛び込む。

 スケルトンに命中こそしなかったが、地面に突き刺さった矢を中心とし、その周囲が浄化の光に包まれ、数体のスケルトンが光に捕らわれて姿を消した。


「浄化結界はあと3回が限度です!」


 エミリアが報告する。

 確かに相手の数からすれば決定的な効果は期待できない。


「エミリアは浄化結界を温存。アレックス小隊長、敵を討ち減らしながら後退。第3小隊が待機している場所まで退くぞ」


 グレイ達は敵を受け止めながら少しずつ後退を始めた。

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