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聖監察兵団の特務中隊

 アイラス王国とイバンス王国の国境線は短く、人々が往来できる道も1本しかない。

 イバンス王国が小国であり、山に囲まれ、国土が狭いため、隣接する国境線が短いからだ。

 よって両国間の往来はアイラス王国の支援により整備された峠道を通じて行われ、その道の中間地点の国境に双方の検問所が設けられていた。

 

 無論、険しい山を突破して抜けることも不可能ではないが、アイラス王国側はともかく、イバンス王国側の山は切り立っていて周到に準備をした山人ですら危険極まりなく、大軍の移動はまず不可能である。

 しかし、イバンス王国を滅ぼしたのは死霊達の軍勢であり、命有る者達の軍の常識は通用しない。

 

 そこで、アイラス王国検問所の手前の国境警備隊が駐屯する小さな砦を王国軍工兵隊により規模を拡大、守りを強化し、国境警備隊の連隊が駐屯し、峠道のみならず国境線全域に渡る警戒に当たっている。

 聖務院からは聖騎士団と聖監察兵団の部隊に加えて国中から集められた神官達によって死霊の侵入を防ぐ広範囲な浄化結界が張られていた。


 そんな警戒網から更に国境寄りの検問所。

 今この検問所には国境警備隊の大隊が詰めていて最前線の警戒に就いている。

 更に国境を越えたイバンス王国側、今は放棄されたイバンス王国の検問所にはイバンス王国の現状を探ろうと特命を受けた聖務院聖監察兵団の中隊が陣取っていた。


 そのイバンス王国検問所の事務室に中隊指揮所を置いた聖監察兵団中隊長のグレイは思うように情報を集められずにいた。

 グレイ中隊長が指揮するのは聖務院聖監察兵団第1大隊0中隊、通称10中隊は様々な特殊任務を下命される特務中隊である。

 10中隊はこの検問所を拠点に指揮下にある3つの小隊を代わる代わるイバンス国内の偵察に向かわせたが、未だに有力な情報を得られずにいる。

 今までに5度に渡り侵入を試みたが、どの小隊も途中にある村と小さな砦を突破できずにいた。

 村と砦にはまるでそこを守るようにスケルトンやゾンビを中心とした大量のアンデッド達が集まっている。

 その全てが下位から中位アンデッドであり、グレイの中隊の総力を持って攻めれば突破も容易いだろう。

 しかし、グレイに課せられた命令は侵略ではなく、あくまでも情報収集である。

 敵の拠点を次々と制圧しては情報を得られないだけでなく、グレイの中隊だけではいずれ手詰まりになる。

 加えて積極的な攻勢は相手の反撃を呼び込む結果に陥るかもしれないのだ。

 

 グレイは各小隊長を集めて対策を検討していた。

 グレイの中隊は中隊長以下55名で編成されている。

 中隊長に中隊副官。

 第1から第3小隊まで、小隊長以下16名の通常編成の3個小隊。

 そして、中隊長直属分隊が5名。


「厄介なものですな。例の村と砦を通過できずには情報を集められますまい」


 第2小隊長のウォルフ・ランケットが唸る。


「先の私の小隊による偵察でも砦に2百、村に50体程度のアンデッドが集められている情報のみしか得られませんでした」


 アストリア・ヴァルツが率いる第3小隊は弓兵を中心とした機動力のある小隊で偵察任務にはうってつけだ。


「あの砦に2百?せいぜい1個中隊数十名が駐屯する程度の小規模砦だぞ?」


 第1小隊長のアレックス・クレアスは呆れ声だ。


「そこはそれ、アンデッドの集まりですから、用がなければ立ったまま並べておけばいいだけですからね。奴らは腹が減っただの、疲れただの文句を言いません。実際に私が見たのもスケルトン達が砦の中に整然と並んで微動だにしていませんでした」


 アストリアが肩を竦めた。

 そんな話を腕組みして聞いているグレイにアレックスが伺いを立てる。


「一度、突いてみてはどうですか?それで相手の出方を見ては?何か見えてくるかもしれませんよ。なんなら私の小隊が引き受けますが」


 アレックスの提案に他の2人の小隊長は頷くが、グレイは首を縦に振らない。


「やはり危険でしょうか?」


 傍らに立つ中隊副官のエミリア・リニックがグレイを覗き込む。


「確かにその手もあるが、判断を誤ると敵の目が此方に向く。今のところ、我々の偵察程度には向こうは反応していないのだから、もう少し様子を見たい。特に現在偵察に出ている分隊の報告を待ちたいところだな」

「シルファ分隊ですか?峠道を外れて山中の調査に行っているのですよね?」


 エミリアの言葉にグレイは頷く。


「少し、気になってな。村や砦のような人々がいた場所には大量のアンデッドが集まっているが、それ以外の場所を彷徨っている個体が殆どいない。それが腑に落ちない」


 グレイの言葉に各小隊長が顔を見合わせた。

 確かにグレイの言葉に心当たりがある。


 とりあえずその場での結論は出さずに偵察に出ている分隊が戻るのを待つことになったが、グレイ達はそう長く待つことにはならなかった。


 シルファ分隊の隊員の1人が血相を変えて駆け戻ってきたのだ。


「峠道から北に山中に入った場所にアンデッドに追われていた避難民数十名がいました。シルファ分隊長達が守りつつこちらに向かっていますが、アンデッドの数が多く、危険な状況です!」


 報告を受けてグレイは臨戦態勢を整えた。

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