異変
「とりあえず、アンデッド達を冥界の狭間に戻しましょう」
そう話したゼロは何やら詠唱を始めた。
『・・・・』戻れ」
ゼロの言葉に従ってアンデッド達が姿を消した。
「ゼロ様、今のは?」
ゼロの傍らに立つリズがゼロを見る。
「この本に例の棺のことも書いてあり、何となくですが操作方法も分かったのですが、何となくで試しに使うわけにはいきませんからね。彼等には私の力で戻ってもらいました。ただ、数だけでいえば私の能力以上の数がいましたからね。初めてですが、以前師匠に教わった古い死霊術を使いました」
ゼロは周囲を見渡す。
残っているのはゼロ達とゼロのアンデッドだけだ。
「シャドウとミラージュは戻りそびれたアンデッドが彷徨っていないかを確認してきてください」
ゼロの命令を受けて2体は飛び去る。
「私達は遺跡の入口まで戻りましょう。その後、迷っているアンデッドがいなければ入口を封鎖します」
ゼロ達は遺跡内を確認しながら遺跡の入口まで戻った。
入口の門を閉ざしてシャドウとミラージュの報告を待つ。
殆ど時間を要せずに遺跡内の確認を終えた2体が戻ってきた。
遺跡内には冥界の狭間に戻りそびれたアンデッドはいないらしく、ミラージュが簡易的に遺跡を浄化してきたとのことで、暫くの間はアンデッドが自然発生することもないだろう。
「それではミラージュ、この門を封印してください」
ゼロの命に従い、ミラージュが遺跡へと通じる門を浄化して結界を張った。
「ゼロ様、そのスペクターは浄化の祈りや結界を操れるのですか?信じられません」
リズがまじまじとミラージュを観察している。
「はい、このシャドウとミラージュは私がじっくりと育てたスペクターです。シャドウは魔術師型のスペクターとしてあらゆる魔法を行使できますし、ミラージュは神官型として聖なる祈りを扱えます。ただ、ミラージュはアンデッドなのであまり強力な祈りはできません」
ゼロはチェスターとカミーラを見た。
「そんなわけで、ミラージュに遺跡を封印させましたが、一時的なものです。できるだけ早く高位の神職者にしっかりと封印してもらってください」
「分かった。ギルドに所属する神官に心当たりがある。場合によっては教会を通じて高位の神官を手配する」
チェスターの返答を聞いたゼロは頷いた。
「くれぐれもお願いします。私も風の都市に戻って色々と調べてみますし、今後もここの調査に来てみようと思います」
「そうしてくれると助かる。街の役所やギルドには話しを通しておく。よろしく頼む」
そう言って差し出されたチェスターの手をゼロは握り返した。
本件の原因は解明されていないものの、とりあえず事態は収束したためゼロ達は風の都市に帰還することとし、今後は鉱山の街による調査と死霊術師たるゼロの調査に委ねられることとなった。
風の都市に帰るゼロを国境まで見送りに来たチェスターとカミーラ。
「ゼロ、今回は助かった。まあ、全てが終わったわけではないが、当面の危険は取り除けたよ」
「いえ、これからも調査が必要です。この鉱山や遺跡だけでは収まらないかもしれません。ここと鉱脈が繋がっている鉱山や似たような遺跡が他にもあるかもしれません。今後も調査のために来させてもらいますが、何か異変がありましたら何時でも呼んでください」
ゼロの言葉にチェスターとカミーラは頷いた。
「その時はよろしく頼むぜ。今回の件はゼロ、あんたが頼りだ」
「・・・・また、お願い」
国境を越えて帰るゼロ達のことを2人はいつまでも見送っていた。
風の都市に戻ったゼロは遺跡で回収した書物の解読作業に取り掛かった。
それから数ヶ月、ゼロは殆ど依頼を受けることなく、何かに取り憑かれたように調査に没頭した。
ゼロ自身が所有する魔導書だけでは足りず、ギルドの資料室に幾日も籠もり、果ては王都まで赴いて魔導院の蔵書を読み漁り、手掛かりを探す日々を続けた。
また、幾度と無く鉱山の街に足を運び、鉱山の街やイバンス王国の歴史や宗教を調べたり、遺跡の調査を続けていた。
時としてレナやリズを伴ってその助言や手助けを受けることもあったが、その調査の殆どはゼロが1人で走り回っていた。
そんな日々を続け、レナを始めとしたゼロの周囲の者達もゼロが風の都市を不在にすることに慣れてしまっていた矢先、鉱山の街の遺跡調査に1人で向かったゼロが何時になっても風の都市に戻らず、行方知れずになったのだ。
そして、ゼロが行方不明になった後、世界中にイバンス王国の滅亡の知らせが駆け巡った。
曰わく、イバンス王国がネクロマンサーに率いられた数万、数十万の死霊の軍勢に支配されたとのことだ。




