シャドウとミラージュ
「私が入口を封鎖する」
カミーラは4枚の札を入口に投げつけた。
4枚の札は入口の上下左右に張り付いて輝き出し、入口全体を透明な膜のようなものが張られた。
「これで暫くの間はアンデッドは入ってこれない!こちらからは魔法でも矢でも攻撃できる」
無口なカミーラも戦闘時等の必要な場合にはその限りではないようだ。
カミーラの言ったとおり、殺到してきたアンデッドは入口に張られた膜に阻まれて侵入できずにいる。
レナはアンデッドの集団に雷撃魔法を撃ち込んだ。
パリッ!バリバリッ、バチンッ!
ドンッ!
雷撃の音に続いて爆発音、数十体のアンデッドが吹き飛んだ。
続いてリズがサラマンダーの力を乗せた矢を放つと後続のアンデッドが炎に包まれた。
「いいわね、これ!」
レナが感心する。
「効果範囲は狭く、時間も限られているけど、効果が持続している間は一方的に攻撃できる」
説明しながらカミーラは雑嚢から小さな石の様な物を取り出して指で弾き飛ばした。
アンデッドの集団の中に落ちた石を中心に周囲のアンデッドを巻き込んだ爆発が起た。
「向こう側の破片や爆発の熱も防いでくれる。でも、長くはもたない。それと、通路が崩れるからあまり強力な魔法はダメ」
レナとリズは目を合わせて頷いた。
「それならば、今の間に敵を減らしてしまいましょう!」
「分かりました!」
入口の外に向けた3人の猛攻が始まった。
「すげぇ・・・」
「妹よ・・」
チェスターとイズが思わず振り返った。
正直、ちょっと引いている。
しかし、ゼロは状況を冷静に見極めていた。
通路から入口に殺到してくるアンデッドは後を絶たず、恐らくはこの階層を埋め尽くしているだろう。
更に祭壇上のリッチは次々とアンデッドを召喚している。
「入口は3人に任せても大丈夫なようですが、長くは持ちませんね。早々にリッチを始末しましょう」
ゼロは剣を抜いた。
「よし!俺達も行くぜ!」
チェスターとイズも剣を構えるが、ゼロは2人を制した。
「全員がリッチに向かうと入口を守っているレナさん達に内側のアンデッドが向かってしまいます。それに、いずれ入口も突破されます。チェスターさんとイズさんはレナさん達の援護をお願いします」
「それはいいが、ゼロだけで大丈夫か?」
「私だけでもお供しては?」
チェスターとイズの言葉にゼロは首を振る。
「リッチの方は大丈夫です。私に考えがあります。それよりも敵アンデッドの対処に戦力が必要です。オメガはシールドと共にスケルトンナイト、デュラハンを指揮して敵アンデッドを殲滅しなさい」
「承知しました」
ゼロの命令にオメガとシールドが従い他のアンデッドを指揮してチェスター達と共に敵アンデッドに対峙する。
ゼロの手元に残ったのはアルファとサーベルのみ。
「さて、貴方達の出番です。シャドウ!ミラージュ!」
ゼロは新たなアンデッドを召喚した。
召喚に応じて現れたのは2体のスペクターだが、他のスペクターとは違う。
シャドウは黒いローブに杖を持つスペクター、ミラージュは白いローブに同じく杖を持っている。
そして、他のスペクターと決定的に違うのがその姿だ。
スペクターがローブの奥は目が光る影で、本気になったときに骸骨をむき出しにするが、シャドウとミラージュは透き通っているが人の姿をしている。
シャドウが男、ミラージュが女でそれぞれが無表情でゼロに跪いた。
偵察や支援が主な任務のスペクター故に最上位個体になるまでに時間を要したが、魔王ゴッセルとの戦いからゼロが生還した際に最上位個体となりゼロから名を授けられたのだ。
黒いローブのシャドウは魔術師系のスペクターで、ゼロはスペクターマジシャンと呼んでいる。
白いローブのミラージュは神官系のスペクターで言うなればスペクタープリースト。
回復系の祈りは使えないが、アンデッドでありながら結界や浄化の祈りを操る希有な存在である。
サーベル、アルファ、シャドウ、ミラージュの4体のアンデッドを従えたゼロは祭壇の上のリッチを見据えた。
「さて、行きます!」
ゼロの合図でシャドウが前に出て目の前に群がる敵アンデッドを焼き払うと共にミラージュが浄化の光を放って討ち漏らしのアンデッドを消し去った。
祭壇までの進路が開き、ゼロとサーベルが駆け出し、その後にアルファ、シャドウ、ミラージュが続いた。
その様を横目で見ていたレナとリズ。
「ゼロったら、いつの間にあんな配下を育てていたの」
「魔術師系のスペクターも凄いけど、神官系のスペクターなんて初めて見たわ」
2人は思わず口を漏らすが油断している暇は無い。
「間もなく障壁が破られる。再封鎖は間に合わない」
カミーラの張った札が今にも焼き切れそうになっていて、敵アンデッドが障壁を突破しそうだ。
チェスター、イズがシールドとスケルトンナイトを伴ってレナ達に合流した。
オメガとデュラハンは敵アンデッドを相手に激闘を繰り広げている。
「もうダメ、限界!」
カミーラが叫ぶと共に入口に張られた札が焼き切れた。




