死霊の地下迷宮3
「ところでゼロ、お前は腕っこきのネクロマンサーだよな?」
思い出したかのように聞いてくるチェスターに首を傾げるゼロ。
「腕っこきかどうかはともかく、私は死霊術師ですよ?」
「そうだよな?いや、疑っているわけじゃないんだ。確かにお前がえらく強力なアンデッドを従えているのを目の当たりにしているしな。だがよ、それならば、そこいらを彷徨いているアンデッドを支配できるんじゃねえか?」
「ああ、そういうことですか」
死霊術をよく知らない者にとって至極当たり前の疑問だ。
チェスターの問いに納得するゼロだが、首を横に振った。
「結論から言えばそれは無理です。使役者のいない野良のアンデッドならば容易いことですが、この遺跡にいるアンデッド達は使役者に操られています。使役者に操られているアンデッドを横取りすることは基本的にできません」
「となると、この先にゼロのようなネクロマンサーがいるってことか?」
「生きた死霊術師がいるとは考え難いです。だとすればこの先にいるのは、死霊術師がアンデッドと化したリッチでしょう」
「リッチか、聞いたことはある。厄介な相手だな」
「・・・・・」
チェスターの言葉にカミーラも何度も頷いた。
そんなゼロとチェスターの会話を聞いていたレナが口をはさむ。
「ちょっと待って。ゼロ、貴方さっきアンデッドを横取りすることは基本的にはできない、って言ったわよね?基本的に、というからには応用的にはどうなの?」
レナの言葉にゼロは肩を竦めた。
「さすがレナさん。気付きましたね。確かに、使役者のいるアンデッドを横取りすることはできません。それこそ、私が足下にも及ばないフェイレス師匠でも私のアンデッドを奪うことはできません。が、干渉することはできます。簡単にいえば、使役者の力量に差があれば死霊術を使って相手のアンデッドを狭間の世界に帰すことができます」
「そうするとこの先にいる敵よりもゼロ様の力が上回っていればアンデッドを消し去ることができるのですか?」
興味津々な様子でリズが質問するが、ゼロが首を振った。
「ここに致るまでに何度か試みましたが、無理でした。数こそ多いですが、下位や中位アンデッドばかりなので干渉しようとしましたが、抵抗されました。つまり、この先にいるのは私と同等か、それ以上の力の持ち主です」
最深部に到着したゼロは目の前の扉を見た。
この扉にも月と太陽の紋章。
「つまり、この先にいる奴を倒さなければならないというわけだな。覚悟はいいな?カミーラ」
チェスターがカミーラを見る。
「・・・・!」
何度も頷くカミーラを満足気に見たチェスターはゼロに向き合った。
「頼むぜゼロ!俺達はお前の指示に従う。何でも命令してくれ!」
ゼロも頷いた。
「この中がどうなっているかはわかりませんが、飛び込んだら中にいる敵は私とチェスターさん、イズさんと私のアンデッドで対処します。レナさん、リズさん、カミーラさんは後背に備えてください。多分、相当な数のアンデッドが押し寄せて来ます。頼みましたよ」
レナ、リズ、カミーラの3人は力強く頷いた。
「任せておいて!殲滅しちゃっていいのよね?」
「ゼロ様達は背後を気にする必要はありません。私達にお任せ下さい」
「・・・!」
ゼロは扉の前に立ち、中の気配を窺う。
偵察に出たスペクターは扉に掛けられた力の影響で通り抜けることができなかったようだが、今はそのような力は感じられない。
「4、50体はいますね。上位個体も複数。それに一際強い力を感じます。扉を開けたら先ずは私のアンデッドを突入させ、その後に続きましょう」
ゼロはシールドを指揮官とした大盾装備のスケルトンナイト5体を前面に置き、その背後にサーベルと剣士型のスケルトンナイト2体とデュラハンを2体配置、オメガとアルファを自分の背後に控えさせた。
イズとチェスターが扉に手を掛ける。
「行きましょう!」
ゼロの合図で扉が開け放たれ、盾隊を先頭に剣士隊が突入、続いてゼロ達が飛び込んだ。
扉の中は広い部屋になっていた。
奥に一段高くなった祭壇のようなものがあり、その祭壇に人影が1つ見える。
部屋中には様々なアンデッドが蠢いている。
スケルトン、ゾンビ、グール、ゴーストがいれば、中位アンデッドであるドラウグルやヴァンパイアまで様々だ。
そして、祭壇の上に立つのは黒い司祭服のような衣服を身に纏い、杖を持つアンデッド。
ゼロが睨んだとおりリッチがいた。
それも強力な力を有している。
「これは、思ったよりも手こずりそうですね」
リッチを睨みつけながらゼロが溜め息をついた。
その間にも部屋中のアンデッドが殺到してきてゼロのアンデッドが交戦状態に入る。
「数が足りませんね」
ゼロは更に大盾装備のスケルトンナイトを10体、ジャック・オー・ランタンを5体を召喚して投入した。
これ以上は敵味方のアンデッドが入り乱れてゼロはともかくチェスター達が混乱する。
「私も前に出ます」
オメガが前線に切り込んでゆく。
これで余裕を持って戦線を維持できるだろう。
「ゼロ!来たわよっ!」
殿に立つレナとリズが叫んだ。
「アンデッドが多数、ここに向かっているわ!」
「通路を埋め尽くす程の数です!扉を閉めることができません」
ゼロも偵察のスペクターからの報告を得ている。
開け放たれた扉は開放したまま固定され、レナ達が閉めようとしてもびくともせず、通路との間を遮断することができない。
やはりゼロ達が最深部に入り込むのを待っていたようだ。
「手伝いますか?後方にならばまだアンデッドを呼べますよ?」
振り返らずに聞くゼロの背中に向かってレナが答えた。
「誰に言っているの?あの程度の敵、私の魔法で焼き払ってあげるわよ。貴方のアンデッドが参戦したら私の魔法が使えないでしょう?」
レナはリズとカミーラを見た。
「悪いけど、私が指揮させてもらうわよ?」
レナの言葉に2人は頷いた。
「お任せします、レナさん」
「・・・!」
レナ達は扉の内側に陣取った。
この位置で扉を通過してくる敵を待ち受ければいい。
「1体も通しはしないわよ!」




