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21

作者: ロック

 僕は馬鹿げていたのかもしれない。

 今日という日が永遠であるなんて妄想を僕は今日の今日までしていたのだから。

 明日が存在すると疑わなかった昨日の僕を殴りたい。

 そうして今日は、終わりを告げるんだ。銃声とともに。

 

 1974年

 一人の少年がある仮説を立てた。いつの日か、AIは人類を越えると。

 大人達は、少年に「SFまんが」の読み過ぎだと彼を揶揄した。

 しかし、すでに天才たちは、天才達はその事実に勘づいていた。

 少年は当時10歳であったが、彼のバッグに詰められた論文は当時の科学者でさえ唖然とさせるほどの出来であった。

 一人の瘦せこけた浮浪者のような身振りの老翁は少年に近づいた。

「世界は、結局自分たちの手で滅ぶことになるんだ。

 それでも人間は探求をやめることを知らない。

 君の啓蒙は君が何歳になろうが『SF小説の世界』だと揶揄されるだろう。

 ・・・ソクラテスは真理を語ったがために殺されたことは君も知っているはずだ」

 少年は頷いた。

「君は自身の発言が正しいと・・・・2+2の答えは4であると、言いたいんだね」

 少年は微笑を浮かべ言葉を発した。

「2+2の答えは『5』であると、おじさんはいうんだね」

「オーウェル氏の小説を君は好むのかね」

「僕が子供のように見えたんだねおじさんは」

 少年は、老翁に語り始めた。


「永劫回帰に対して人類は、未だに懐疑的になっているようだね。

ツァラトゥストラだってファンタジー小説に過ぎないって」

「ニーチェはクレイジーな思想をしていたんだ」

「嘘だね。少なくとも“僕”が、1984年を語れるのだから」

「超人・・・だと君は自称するんだね」

「僕は超人なんかじゃない。それを上回る・・・・・神さ」


少年は老翁に手を差し出す。

「臭いでわかる。ラッキーストライク・・・。」

「・・・残念だ。つまり君は前世では煙草の臭いまでは記憶していないのか」

「1本ほしい」

「タールは28、ニコチンは2.9。第一君のような文明人は、喫煙を好まないんじゃないか」

「僕は・・・少しノスタルジックなんだ」

「日本人に感謝しないといけないな。もっともアキラ・トモヤスなんて東洋人の名前を君は知らないだろうが」

 老翁は、ポケットから一本煙草を取り出し、少年に渡す。

 少年が煙草を口にくわえると、老翁そっとマッチに火をつける。

 少年は、煙草に火をつけると、ふうっと息を吸う。

「肺喫煙をしないなんてかわいいもんだ」

「僕は、この吸い方が好きだ。第一28なんて煙草を肺で吸うほうがどうかしてるよ」

「少年、その口の利き方は・・・」

「ごめんて、おじさん」

「仮にも“僕”ではあるんだから君は」



 2021年4月18日‬

 長い夢であった。

「起きてください。メル様・・・」

 AIが一人の少年を起こそうとする。

「・・・僕は・・・まだ夢の中にいたい」

 すると母親の声が響いた。

「メルー!遅刻するよ!」

 少年は声を張り上げ答える。

「僕は、どこにも行かない!部屋の中で過ごす!退学手続きしといて母さん」

「何寝ぼけてるの?学校行かないと遅刻するよ!」


 学校・・・その言葉に少年は敏感に反応した、まるで人が変わったかのように険しい表情になった少年。 

「学校・・・?なぜ・・・僕は・・・ぼくはあああああああああああ」

 その日少年は人が変わったのかのような発作を起こした。 

 暴れだす少年を母親が抑えるも、強い力でそのままけがをした。

 そして消防隊のかけつけにより、少年は精神病棟に連れて行かされた。

 

 ・・・2か月後、少年は「正常」と判断され、病棟を後にすることになった。

 母が少年を迎えに来た。

「ごめんね・・・、母さん、メルのことちゃんと考えてあげられなくて。

 もう無理に学校には行かなくていいのよ。

 今日は退院祝いに・・・ケーキでも食べましょ?」


 少年が自宅に戻ると、まっさきにパソコンに向かった。

 人が変わったかのように、キーボードをたたく音が家中響いた。

 用意されたケーキも口にはつけず、代わりに母親に段ボール1箱分のショートブレッド型のブロック菓子を買わせた。

 少年は、その後ハッキングの快感を覚え、そして合法的殺人という手段を用いてマーダーゲームを嗜んだ。


 合法的手段

 たとえば、AI搭載の自動車があったとする、その自動車はネットワークに接続されている。その自動車をハックして、意図的に事故を起こさせ殺害。最初はそんな小さなことだったが、徐々に人殺しに快感を覚えた。

 次第に自分が神のように思えた少年は、次々に人殺しをする。

 殺しだけではない、彼は、銀行のコンピュータもハッキングしたり、ハッキング集団「ゴモラ」を結成したりし、勢力を強めていった。


 警察や自衛隊はもちろん無視することもできるわけがなかったが、時はすでに遅し。

 彼はすでにサーバー上に建国しており、彼の支持者がすでに1000万人はいた。

 そして各国にいる「ゴモラ」達によって国家のコンピュータのほとんどはハッキングされており、世界が太刀打ちできる余地はなかった。


 少年メルは、厳密には人間ではなかった。

 異世界から来た宇宙人であり、少年メルの体内に侵入。

 少年メルの体内組織の形態を維持させたまま、彼を殺害。

 そして少年メルの形を保ったまま、宇宙人は地球征服を企んでいた。

 ここまでをまとめると、宇宙人が地球に飛来して地球人の体を借り、地球上のありとあらゆるコンピュータをハッキングして、人類を死滅させるという、ベタな展開だと思うだろう。

 もちろん、メル本人だって、こんなありがちな展開を望んでいるわけではない。 

 彼は、“イデア”という惑星から来た実態のない存在であった。

 微生物ですらない、文字通り幽霊同然の実態のない存在であった。

 そして、地球人は彼を“神”と名付け崇めたが、そんなことは彼にはどうでも良かった。

 それよりも、唯一無二の存在。ある人間に対し彼は陶酔していた。

 

 少女樹音。彼は完全に溺愛していた。

 彼の大量殺戮の動機。それは人類を樹音ととメル・・・の形態を保った宇宙人の二人きりにして、愛を誓うためだ。

 彼になぜ恋愛感情が生じたのか、それは彼自身存じ上げなかった。

 だが、メルは、世界中のありとあらゆる核兵器の装置を遠隔操作によって作動させた。

 と、同時に樹音の家に核バリアの膜を張った。


 ・・・

 ・・・・・

 ・・・・・・・


 樹音が目覚めると、退廃した世界に一人の少年がいた。

 少年は樹音を強く抱きしめると、樹音は走り出した。

「唯一の人間は僕だけなんだ!世界は滅んだんだ!!

 僕しか・・・いないんだ。愛して・・僕を愛してくれ!」

 樹音は瓦礫を手にとり、何度も少年の頭上を殴った。

 メルの頭蓋骨が壊れる音がした。

 

 滅んだ世界に一人の少女の鳴き声が響いた。


・・・

・・・・・

・・・・・・


 1974年

「肉体はもともとなかったんだ」

 老翁は少年の横顔を見る。

「So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.」

 少年は笑みを浮かべた。

「僕はおじさんのことが嫌いじゃない」

「少年よ、大志を抱け」

「世界を誰かと創りたい、そんな気持ちになれる気がするよ」


 少年は謡い始めた。

 それは終焉の世界に思いを込めた、悲しいがメジャーコードが多用された明るい曲調であった。


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