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攻城のルキ  作者: いのしげ
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京師にて①


 ポクリポクリと穏やかな日差しの中、不思議な一行が街道を南下している。

 少女3人に馬車と牛飼いのウシ。

 お供に空高く赤トンボが付いてくる。

 村を出て未だ一刻、急いで出発した割にはのんびりしたものだ。

 

 牛飼いがウシを牽きつつ、馬車に乗る少女へと語りかける。

 「しかしさっきのって一体どうなってんだい。まさか本当に天狗の仕業なのかい?」

 そんな牛飼いの質問を、いかにもな村娘が大仰にかぶりを振って遮った。

 「バカ悪七。女にはイッパイ秘密があるんだ。ゲスい質問する男は嫌われるよ」

 「グヒヒ……その通り」

 ゲスい笑いをして否定する馬車の少女。赤い髪がまた一段と“バサラ”である。

 「グッ…そういう信乃だって知りたいだろう?」

 「まあね、それよりアタシャ心配なのはヒナの方だよ。ドコに行っちまったんだろうねェ……」

 村娘がそう言って空を仰いだ。

 赤トンボが消えた少女を探してくれるのか、ツイと群れが離れていく。そろそろ日が落ちて来たからかもしれない。

 するとジッと黙っていた、侍のナリした少女が牛飼いに向かって怒鳴った。

 「それもこれも全部、お前が悪い!」

 「ええッ、オオオ…『オレ』が悪いのかよ?」

 突然怒鳴られなくとも、普段から侍然とした娘には妙な迫力がある。『オレ』は少なからず動揺してしまった様だ。そこを村娘が見える様な溜息をして畳み掛けてきた。

 「まったく鈍いやら、気は利かないやらで、よくもそんなで侍になりたいだなんて言えたものだよ」

 「ムホホ…イヨッ、女殺し!」

 ゲスい顔して茶化す赤い髪の女。なんだか無性に腹が立つ。

 「そんなぁ、ルキまで……何でヒナが居なくなっちゃったのと『オレ』が関係してるんだよ~」

 居なくなった少女…ヒナの原因なんて分かる訳ないじゃないか。

 「悪七。お主いい加減、自分で自分の価値を貶めている事に気づけ」

 まさかの集中砲火を喰らってしまい、『オレ』は完全に不貞腐れてしまった。

 「ふぬぐぐぐ……」

 一通り笑いあった後、今度は改めて信乃がルキに訊く。

 「ところでルキさんよ、アタシ等ぁどこに向かってるんだい?」

 「フムフム、良い質問だニャ。どっかの悪七さんに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね~」

 「ぐぐぐ……」

 よく考えたらルキが何者なのかも分からない(※本人は馬借だと言っているが、ただの馬借がこんなにも不思議な存在とは思えない)のに、それに釣られてホイホイ村から出てきた『オレ』等というのもよっぽど変わり者だろう。

 「南に向かっているという事は、京でござるか」

 ジッと考えていた澪が答える。

 「正解! 流石、澪ちゃんは学があるね。そう…初めの悪七の質問と、信乃チンの質問の答えはどっちも一緒なのさ」

 「?」どういうことなのかさっぱり分からない。だけどここでそれを言うと、またバカにされそうなので無言を貫く。

 冷静さを装って隣の信乃や澪の顔色を窺うと、やはり似たり寄ったりの顔をしてるので、ちょっとだけ安堵した。

 「そ。戦屋の事は戦屋に任せとけってね」

 そうだね、ルキの事はルキに任せるよ。

 「まぁ…分かった様な、分からない様な……それよりもそろそろ急いだ方が良くない? そのルキの荷車に乗せてもらう訳にはいかないの?」

 そう言った途端、あからさまな舌打ちをしてオッサンと化した赤髪少女が、ガラの悪い目つきでじろりと睨んできた。

 「あのなぁー、悪七さんよ。オレッチは馬借な訳。たとい荷物がアンタでも運べと言われりゃ運ぶけどさ、タダでは嫌なのさ。乗りたければアンタの次郎丸に乗れば?」

 うーわ、なんてヤな奴!

 薄々気が付いていたが、必死で村を救ったイイヒトだと思い込もうとしていたけれども、やっぱ無理だ。コイツ、単なる守銭奴だった!

 「路賃を取るっていうのか」

 流石にややムッとした澪が重ねて尋ねる。

 しかしそんな澪から発する厳しくて凛々しい視線もルキにかかればカエルの面にションベン、柳の如し。

 「当り前じゃない。オレッチの馬だってアンタ等運べば疲労もするし、色々世話しなきゃならないのさ。それとも悪七、アンタがやってくれるのかい?」

 そう言われてしまうと、至極もっともな話ではある。付き合いは付き合いで、仕事とは別という事か。親しき中にも礼儀ありという事か。

 一人合点してると、全員の視線が『オレ』に集中していることに気付いた。何も言わないが目が全てを語っている。

 『牛の世話も馬の世話も一緒だろ、お前がここでウンと言えば楽できるんだから…察しろや?』という事らしい……なんてこった。

 「……分かりました、やりますよ、やらせて頂きます。だから日暮れまでに京に着きましょう!」

 だが、意外な反応を示すルキ。

 ニヤリと笑いながらチッチッチと人さし指を振る。

 「違うぜ、悪七」

 ど、どういうことだ…まさか、心が篭もって無いとか言い出すんじゃないだろうな。

 「京じゃなく“京師きょうじ”だ。今頃流行の“女房言葉”だぜ。“京”だなんて言ったら田舎モン丸出しだぞ、ケケケ」

 予想の遥か斜め上を飛び越した答えに呆気となって、そして即座に納得してしまった。殿上人やら女房方とは下々とは発想の違う、ヤンゴトない人達らしい。

 「そ、そうなのか……」

 そう言ってしまってからハッと気づく。コイツ…さっき澪が言った時にはツッコまなかったくせに、なんで『オレ』には言うんだよ!

 そう言おうと口を開けた瞬間、ルキはもう鞭を振るっていた。

 「んじゃ、一っ走りするぜ、落っこちても面倒見ねえぜぃ!」

 「わああああああ!」

 急加速して“京師”まで続く『若狭鯖街道』を一気に駆け抜けていく。次郎丸はどうしたんだと後ろを見やると、あっという間に小さく見えなくなっていくウシの姿。


 オオぇ…ど、どうするんだよぉ!


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