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攻城のルキ  作者: いのしげ
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有岡城にて①


 須磨の浦は大きな船は乗り入れることが出来ない。だから信乃達は明石に回ってもらったらしいが、それでも『オレ』達よりかは早く着いていた様だった。

 浦で待っている顔ぶれが小船の中からも見えて、たかだか数日振りなのにうっすら涙がにじんでしまった。

 それなのに、ルキの第一声は「いよーぅ、励んでいるか勤労者諸君!」だった。

 前ならば怒っていただろうが、今なら分かる気がする。

 悪態つくのはルキの照れ隠しなのだ。

 だが、誰もがそれを理解している訳ではない。澪と信乃がプリプリ顔を真っ赤にしている。

 「ばーたれ! お前らのその荷物、運んでやらんぞ~!」

 「おうおう、見ろよ悪七。砂浜でサルがキャッキャ言ってるぞ」

 「ぎぃ~、武士を侮辱しおって! 成敗してくれる!」

 「ぎゃはははははは、ココまでおいで、おしんこ上げましょ~」

 本当に海に入ってまで行きそうになる澪を、なんとか虎が留めつつなだめすかしてくれたお陰で、『オレ』達は無事に上陸出来たのだった。

 スルスルとオオヅツや信乃に澪、虎までが自然とガッキリ肩に腕を回して円陣を組んだので、一瞬喧嘩かと思い、ドキリとしてしまった。

 「元気だったガ、ジみっダれのグゾ馬借。材料は調達出来たのガヨ」

 「うるせえ、業突く張りのひょっとこババア。そっちこそ留め金具は出来たんだろうな」

 「グギギ…オマエ、馬鹿。ジブンの仕事に不備は無しだギ」

 「牛のションベン臭ぇヤツは、少しは成長したでござるか」

 「チョンマゲゴザルはどうだったんだい? コッチは相も変わらずだよッ」

 「貧相な顔が雁首並べて、まるで貧乏神の総会だニャ。この顔ぶれをまた揃って拝まならないとは、不幸の至りだニャ!」

 誰が、どうしてということは無く、ごく自然に悪態をつきながらお互いの近況の報告となった。本気で言ってる訳ではなく、皆、顔は笑っている。

 その後ろでポカンとした顔をしている大柄の侍が三人居るのを不審に思って、信乃に尋ねる。

 「ところで…あそこの侍達は…誰?」

 「ああ、これは申し遅れた…ワシは黒田家の第一の家臣、栗山善助と申す」

 「ワシは善助殿の弟分、母里太兵衛じゃあ。黒田家の音に知られた武辺者じゃ」

 「拙者、井上九郎右衛門と申す。黒田家の真の武辺者は拙者でござる」

 「ナニ!?」

 「なんじゃと?」

 「まあまあ、二人とも落ち着けい。こんなところで喧嘩して、みっともない」

 栗山善助という穏やかな侍が一番、話が分かりそうなので詳細を訊いてみた。

 「そう…話せば長いのでござるが、ワシ等の殿である黒田官兵衛様が、織田方の和平使者として有岡城に赴いたのでござるが、逆に捕らえられ、幽閉されてしまったのじゃ」

 「うおおお、殿~! 嘆かわしゅうござります~!」

 「黙れ、泣くな、太兵衛。そこで我等は策を練って城に潜入しようと思っていたのじゃ」

 「そこで所用や材料の調達に堺に出向いたところ、この太兵衛が若い尼に騙されて路銀を奪われてしまったのじゃ」

 ここで虎がボソボソと耳打ちしてくる。

 「…悪七兄さん、若い尼って…きっとヒナさんですよ……」

 「ぅえッ……!」

 「路頭に迷っていたところを、そこのお嬢さんに助けられたのです。聞けば皆様も有岡城に一番駆けすることが任務とのこと。是非、我等もそのお供に加えて頂ければと思い、付いて来た次第です」 

 「なるほど。ムヒョヒョヒョ…労せずして人足が転がり込んできたか。重畳重畳~♪」

 「じゃあ、ありがたくお願いするとして、早く伊丹に向かおうよ。ココじゃちょっと肌寒いよ」

 『オレ』がブルッと胴震いすると、一同もそれに気づいたようで。

 「そうじゃそうじゃ、時は一刻を争う。荷駄を整え、向かおうぞ」

 侍達がてきぱきと動き出した。

 信乃がちゃんとルキの馬と『オレ』の次郎丸を連れてきてくれたお陰で、荷駄は直ぐに整った。

 「さあ、いよいよこけら落しの披露目だぜえ!」

 ルキがまたよく分からない単語を発した。まあ感覚的に、そろそろ終わりに近づいたという事だろう。

 侍達が野太く大きな声で「えい、えい!」と発したので、我々もそれに続いて「おおう!」と叫んだ。

 

 さあ、攻城戦だ。


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