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攻城のルキ  作者: いのしげ
35/52

海部にて⑥

忙しくて忙しくて、アップするのが遅れました。すみません!


 このままこのオヤジを放っておいたらルキに何をしでかすか分からない、だから止めないと!

 そう思って、進む先に回ってとおせんぼうをした。

 「そ、そんな…海部から出さないなんて言うけど、コッチだって早く行かなければ行けない都合があるんだ」

 「じゃあ、お前だけ行けばいい。姫はここから出さぬ」

 一瞬、そういう手もあるのかと計算した。だが、明智日向はルキ抜きでの参陣を可とはしないだろう。

 「どうしてそうやって…」

 そう言いかけた時、今までにない強い口調で赤錆男こと、海部吉次が遮った。

 「どうしてもじゃ。お前個人がそうやって駄々をこねて済む話ではないのじゃよ。これには我等一族郎党の願いが掛かっておるのじゃ。子供でいられた時間は終わり…ここからは大人の政治の話なんだ」

 怒鳴られてコッチも頭に血が上る。

 「なにが大人だ、そうやって一人一人の気持ちを踏みにじって一体誰が幸せになれるんだ?」

 「“みんな”だよ! 少しの不満は押し殺してでも“みんな”が“みんな”のために働く、それが社会ってもんだろう!」

 吉次が言ってる組織は一時は強いのかも知れない。でも無理が通った世界だ、長くは続かない。それに大人だったら全部が正しい訳でもない。

 「じゃあもう少し子供のままでいさせて下さいよ。もっと大きな視点を持てるまで待たせて下さいよ。そんなに急いで大人になんないといけない必要ってあるんですか?」

 少し、口調を変えて相手も冷静になる様、誘い水を出す。だが、徒労に終わったようだ。

 「時代が許さないんだよ。そうやってのんびりしている間に選択肢を失ってしまうんだぞ!」

 「ハッタリだ。なんだかんだで、落ち着ける場所に落ち着いていくのが人生だろうに。そういう方法があったっていいじゃないか!」

 「それこそハッタリだ。そうして人生に挫折した後で後悔したって遅いんだぞ!」

 「こうやって女の子に命運賭けなければいけない貴方達こそ、挫折した人生なんじゃないですか!」

 これにはグッと来たのか、ややうろたえてジリジリと後退する吉次。

 「未だだ、未だ終わっておらんよ! だからこそこうして姫を担ぎ上げようとしておるのじゃ。余所者は口を挟むんじゃない」

 出た!

 余所者扱い。不利になったので血縁以外を受け付けない作戦に変更してきやがった。

 しかしここを先途として踏み耐えれば、相手ももう青息だ。畳み掛けてやる。

 「余所者じゃ無いよ……貴方は一族郎党が大切だと言ったが、『オレ』にはこうして出会えた仲間こそが一番大切なんだ! 仲間を引き剥がそうとするアンタこそ口を挟むんじゃないよ!」

 そっちが“血縁”で括ろうとするのならこっちは“仲間”だ。

 きっとアンタにも居たんだろう?

 「……仲間か。我々にも居たさ。しかし船戦で一人減り、二人減り…だからこそ残った一族を大切にしようと思うのだ」

 「そんなのアンタの独りよがりじゃないか。ルキは外に出たがっているんだぞ!」 

 「姫も初めは暴れようがそのうち分かってくださる」

 コイツ、言ってる事がムチャクチャだ。こんな奴にルキを任したら、どうなるか分かったもんじゃないと本気で心配になる。

 「大地に立ってないだけあって、言ってる事がフラフラだな。周りを見ろ、ナニが見える?」

 「…水平線だが?」

 訝しげに見渡す吉次。

 「そうさ、世界は広い。一人じゃ辿り着く事が出来ないほどにね! それに比べてアンタは過去しか見てない。かつての栄光、これ以上失ってはいけない何か……『オレ』等をまだ、アンタの思い出の箱に詰めるのは勘弁願いたいね!」


 はぁ~……と長い溜息を吉次が吐いた。これまでの様な剣幕はもう無い。

 「……本当にルキ姫と同じような事を言うなぁ、お前等は本当に似ておるの……」

 勝った! この変態監禁魔からルキを守れたようだ。こちらも肩の力が抜けて笑みが漏れる。

 「良いのか悪いのか、自分でも良くわかんないけどね」

 「お前等にとって家族よりも仲間は優先されるものなのか?」

 う~ん、家族といっても、物心付く頃には父者も母者も亡くなってたもんなぁ。ジイヤは家族というと何か違う気もするし。だから……

 「生まれた時から所詮は他人だよ。子供だからとか、親だからとか思うのが間違いなんじゃない? 子供ってのはアンタが行けなかった道の、“その先”さ」

 「…託せと?」

 何か、光明が見えたように吉次がこちらを見返す。

 「元々そういうものでしょうが。危うく見えても見守るしか出来ないのが親なんだと思うよ」

 「…それでも。見守ることは出来る……か」

 やがてまた長い溜息をして吉次は船を下りていった。心なしか背中が小さくしぼんで見えたのは、感情に浸りすぎか。



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