表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻城のルキ  作者: いのしげ
31/52

海部にて②


 ……嗚呼、死んだ筈のジイヤがこっちに向かって手を振っている。それに犬のポチ。数年前に老衰で死んだ、牛の太郎丸も。

 ウフフ、ウフフフフフ……お花畑がキレイ…この川を渡れば、ジイヤの所に行けるのかなぁ。

 あっちに橋が架かってる。アレを渡ればいいのかな?

 え、ナニ?「橋を渡るな?」……だってこんなにもフワフワしてて気持ち良いのに?

 「“チンワト”の橋を渡ってはいけない」って? 何のことだかよく分からないし、もっと近づかないと声が良く聞こえないよ。

 アレ? 顔は分からないけど、テテジャとカカジャも居る。後ろには、比叡山の焼き討ちの光景も見える。


 そう…第六天魔王とはいえ、比叡山本山を丸々焼く事は不可能だった様子で、あの時、織田の軍勢は麓にある比叡山の公界を焼いたんだった。

 公界は御山の金融や色街、果ては坊主達の嫁や子供を養う、要は"俗”を掌っていた部分で、テテジャはそこの寺侍だったんだ。だから防衛のために出陣して、敢え無く死んじゃったんだ。

 あの時、退治していた軍勢の旗印は二つ雁金、柴田の軍勢だった。いや、戦国の倣いだから別に恨んじゃないない。悲しいけど弱肉強食ってヤツだ、みんな生き残るのに必死だからね。

 そうあの時、青地に桔梗の紋の旗印も有った。今思えばアレは明智の軍勢だったんだ。明智勢は焼き討ちにまったく消極的で、そのお陰でカカジャとジイヤと「オレ」は落ち延びる事が出来たんだったなあ。思えば明智日向も悪いヤツじゃないのかも知れない。

 いやいや、“アイツ”の考え方で物事を見るとそうじゃないのかもしれない。日向守は坂本を統治する事が決まっていたから、地元住民に反感を買うような行為を恐れていたんだ。いわば打算の結果とも言える。しかしその打算のお陰で『オレ』が生き延びたのも事実。

 因果は巡り巡る、その果てに今、『オレ』ってば死に掛けてる………て、アイツって誰だっけ?


 ん? シニカケテイル!? 


 テテジャもカカジャも「引き返せ!」と川の向こうで叫んでいる。それと同時にジイヤが「貴方は実は……!」とも叫んでいる

 ああもう、うるさい! 同時に叫ぶなよ、分からないじゃないか!

 しかも新たに「オレ」の名前を叫ぶヤツがいる。

 「悪七、目を覚ませ!」って…目ぇ覚めてるよ!

 いや……見えてはいなかったのか?

 急激に冷たさが体中を襲う。そして呼吸が出来ない事に気づく。口から大量の泡が零れる。

 あ…コレ駄目なヤツだ。死んじゃうヤツだ…!

 その時、手を誰かがぎゅっと握った。そして再び「悪七、目を覚ませ!」という声。

 アイツ…そうか、ルキ。アンタって泳げたんだな………


 水面から掬い出されながらぼんやりとそんな事を考えていた。 

 相変わらず海面は時化て雨がザンザカ降っている。その闇夜の向こうに煌々と照らす松明と大きな影がうっすら見えた。

 そうして今度こそ「オレ」はルキに抱きかかえられたまま、意識を失っていったのだった……

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ