表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻城のルキ  作者: いのしげ
28/52

根来にて⑤

 「ふぅ…ここまで来れば追手も来ないだろう」

 ルキが一息入れたのは、地名はよく知らないが、紀ノ川の河原沿いだった。

 多分大和の国、五条辺りではないかとルキは言う。

 真っ暗な中、月明かりで川のせせらぎが銀色に光って、辺りをうっすら照らしている。

 その薄明りを頼りに、今夜の野営の準備を始めることにした。

 流石ルキ、手慣れていてあっという間に簡易のかまどを作り、流木で火をおこしていく。

 「火とか熾して、追手に見付かったりしない?」

 「フヒヒ、大丈夫。大和の国に入ってしまえば荘園が多くて、そうそう追っては来れないのさ」

 大和は各寺院の荘園やら地侍が群雄割拠していて纏まっておらず、領地が入り組んでいる為、迂闊に入り込めないのだそうだ。それでも一抹の不安はあるが。 

 「大丈夫、そん時はオメエを差し出して逃げるさ」

 …まったく食えない話だ。ルキの場合、本気でやりかねないから油断できない。

 食えないと言えば、夜食。

 「オレ」だって多少は存在感を示さないといけないので、山椒の木の葉を揉み川に晒し、それに弱った魚を岩陰に追い込み、オイカワを4匹ばかり掴み獲った。 

 「ホゥ、なかなかやるじゃない」

 「まぁね…小さい時からやってたから」

 ルキに褒められて満更でもない気持ちになる。山椒はあまりいっぱい流すと、川魚総てを痺れさせてしまうので、場所の選定と量の加減が難しいのだ。

 魚を焼いていて、不意に気付いた。今夜、ルキと二人きりなのだ。この旅で初めての事だ、ドキがムネムネする……!

 「な、なあ…ルキはなんでそんなに金に固執するんだい?」

 気を紛らわせようと、前から気になっていた事を訊いてみた。

 「金はあって困るもんじゃないしね。それにいつか……」

 「いつか?」 

 「大きな船を買って、外つ国まで行って交易をしたいんだ」

 「驚いた……随分大きな夢を持っていたんだね!」

 「船は良いぞぅ。それに外の世界は面白い。こんな小さな国のチッポケなしきたりなんやらが、簡単に吹き飛ぶくらいに常識が通用しないんだ。頼れるのは自分の才覚だけさ!」

 「…ルキは昔、船に乗っていたの?」

 あまりに船を知っていそうだったので、何の気なしに言ってみると、ルキの手元が途端に忙しなく動いて焚火から火花が飛び散った。

 「ウェッ……イイイイ、イヤ! ソソソ…そンな事無いョ!」

 「ふぅん…ま、いいけど。でもさ、何でそんなに刀の蒐集をしてるんだい?」

 「バッカ、癬丸はオメエにやるっつったじゃんかよ。その代り、小烏丸を貰うってね。刀はあるべき場所に在って、そうして初めて力を発揮するもんなんだと思うから…さ。そんだけだよ」

 そんだけとは言っても、ルキには何か複雑な想いがあるようだ。

 更に訊いてみようとしたが、明日に備えて早く寝ろと一喝されてしまい、慌てて横になる。

 ドキドキな筈の二人きりの夜だったが、疲れが睡魔を伴って襲ってきて、あっという間に寝付いてしまった。

 


 次の日、秋独特の朝霧と共にまた川沿いを遡上すると分岐に出くわした。その分岐の先へと渡し船を乗り継ぐとその川=吉野川がどんどん細くなり、それにつられて山道ばかりとなる。これが吉野街道らしいがケモノ道にしか感じない。

 肩で息をする頃合いにやっと目的地の木場が見えた。

 山にはもうそれは鬱蒼とするくらいのヒノキや杉。それらを杣人が切り出し貯蔵しておくのが木場だ。一旦水に付けた後、乾燥が必要なので濠が作られていて、そこに大量の木々が浸かっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ