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攻城のルキ  作者: いのしげ
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石山にて⑤

パソコンがイカレテしまい、滞ってしまった事、お詫び申し上げます。今、バックアップ用の予備ので書いてます。新しいのが来れば安定するんですが…まあ、数は少ないでけど待っていた方にお届けできて何よりです。


 辺りの喧騒とは隔絶された空間…すごい! 陣幕一つだけでこうも雰囲気が変わるものか。

 野趣あふれる豪快な手法で、先ほどの武士が鎧兜を外しながらも籠手やら子具足を着けたままで薄茶を点てている。お茶のお点前なんか知らないが、無礼講で良いと格好で示しているのか。

 「いやぁ~良かったよ。蒲生がここに出張っているのは知っていたけど、御曹司じゃなくて左兵衛大夫の方で!」

 屈託なく笑って、ルキが差し出されたお茶を作法もなんのその、ゾンザイにガフリと呑みこむ。

 「御曹司は右府様のお気に入りじゃからな、今頃伊丹の有岡城攻めに参加しておる」

 先程の鬼サザエ兜のサムライがつまらなそうに言い放つ。あの後、ルキが彼の名前を教えてくれた。

 岡左内。

 「笑っちゃうだろ、“犯さない”って洒落さ。コイツ等兄弟そろっていつも軍紀違反してるもんだから、蒲生の御曹司にそんな名前付けられちまったんだぜ」と…言っていたからスグに名前は覚えた。

 岡半七と岡左内の兄弟は抜駆け功名第一の勇猛な戦働きをするのだという。しかし蒲生という大名の家訓では、組織運用が第一で個人の抜駆けは自陣を崩すからやってはいけないそうだ。

 そんな考えの大名が居た事にビックリしたが、そんな風変わりな所でも彼等は御曹司に人柄が好きで、ガミガミ怒られていも辞める事は無いらしい。

 「…で、何で左内様はルキの事を“師匠”と呼ぶのでござろうか?」

 「オレ」もさっきから訊きたくても言い出せなかった質問を、ズバリ澪が訊いた。

 「“師匠”はね、ワシの算術の師匠なんじゃ」と、これまた屈託なく笑う左内。やはり篝火で焚かれた所で改めて見ると、彼は随分と若そうだ。

 「さ、算術?」場違いな言葉に、思わず聞き返してしまう。

 「そ。戦をするには金勘定がこれから必須なんだと、ウチの御曹司が言うのさ。言われてみれば、兵糧がちゃんと人数分揃っているか、それについての予算は…等と考えて見れば見るほど、重要だと気付いたのだよね」

 こんな事を真面目に語るサムライに初めて会った。ルキがドヤ顔でこっちを振り返る。 

 「どうだ、面白いだろう? そんで、たまたま取引をしていたオレッチに頭下げて習おうとするんだから、コイツも大したもんだ」

 「へぇ…ルキが侍を褒めるなんて……てっきり侍が嫌いなんかと思ってた」

 若干、心の中にモヤモヤしながらそれを隠せず吐露する。自分で言うのもなんだが未だ14歳。心情を隠せるほど大人じゃない。自分だけのものと思っていたモノが共有であった…そんな損した感じ。

 「そら違うョ。オレッチ、偉ぶる奴が嫌いなんだ」

 「オレ」の子供じみた気持ちなんかあっさり吹き飛ばす様な明確なルキの答え。そうだ、ルキはオモシロいモノが好きなんだ。 

 「…で、師匠はどうしてこんな所へ?」今までの屈託の無さから、急に目つきの鋭くなる左内。コレだからサムライっていうのは安心できない。緊張して飲んでいたお茶を思わず吹きそうになった。 

 ルキ……まさか、目的を言うつもりじゃないだろうね。

 「いやあ、先ずは飯を食わせてもらえないかな」

 ……流石にこちらの目的を言うほど無謀では無かった様だ、一安心。 

 「フム、芋茎味噌汁に飯をぶっこんだ程度の物でしたら馳走しましょう。聞けばお仲間も居る様子、今日はこの陣にお泊り下され」

 織田の幕下で一番規律に厳しい蒲生の陣ですぞ。そう言って左内がガハハと笑った。 

 「あ、大丈夫。今日は本願寺に泊まるから」

 …言った……言っちゃったよ! バカじゃねえの、この人!?

 案の定、左内の顔つきが変わった。

 「…師匠、どういう事です? 事と場合によっては……」そう言って腰を受けせて刀の柄に手を掛ける。もうヤダー!

 侍はスグに斬れば良いと思ってるんだもん!

 「左内やい、アンタの大好きな御曹司の忠三郎はどこに居るんだぉ?」

 「……む、先程も言った様に伊丹の有岡城です」

 「アンタ等、この戦…いつまで続けるつもりなんだ?」 

 「…いつまでとは言えませんが、さしたる戦果も無く退く訳には行きませぬ」

 「だからさ、積極的に勝ちに行こうや。こちとら、長戦で物流が停滞して参ってるんだよ」

 「……では、師匠は石山本願寺に間者として潜入しようと?」

 「正確に言えば、アソコには有岡城を倒す方策が眠ってるらしいんだ。それを確かめに……」

 やっぱりルキは凄い。殺気溢れるこの空間で些かも動じることなく、風を呼び込んでしまった。

 ほぅ、と短い溜息をついて、左内が坐りなおした。勿論、腰のモノから手を放している。

 「さすが、師匠は考える事が違う。拙者の様な猪武者には考えが及ばぬ」

 「そうでもないよ左内。算術を究めりゃ、いつかアンタにもスゴイツキが巡って来るさ」と変な物言いをするルキ。それより…と、左内に石山への潜入口を訊ねる。

 「そういう事でしたら、前から石山の弱点は木津川口です。船を操れば容易です」と左内が言うには、昔から市民達や補給等は木津川から皆入っているらしい。先年に織田旗下の九鬼水軍が補給をしに来た毛利を撃退したのもやはり木津川口だった。そんな場所なのに、警備は緩々らしい。

 「よし、そうと分かれば腹ごしらえだ。澪と悪七は、置いてきちまった信乃と虎を探しに行ってやって」

 そういえば、信乃と虎の事すっかり忘れてた。慌てて探すために幕の向こうに飛び出した。

 「…ふむ、師匠が連れてるだけあって面白そうな連中ではないですか」

 「……そうか?」

 まんざらでもない様子で、左内に対してルキがニッカリと笑った。

 

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