京師にて⑥
ルキの号令と同時に、『虎』の服を着せた“ニセ”虎が立ち上がる。と、間髪入れずニセ虎の体中へと礫がめり込んだ。
その正確さもさることながら一撃一撃が重く、ニセ虎はあえなく倒れ込んでしまう。
「いいぞ、もう一度立ち上げろ!」
非情なるルキ大将の掛け声で、憐れ、満身創痍のニセ虎がもう一度立ち上げられる。
ややあって、またもや礫の一斉攻撃でニセ虎はズタボロにされ倒されてしまった。
「ふうむ、第二波までの攻撃間隔は大体六つ刻みだな……」
「アンタ、それを知るために虎を~…」
「“ニセ”虎だ、本物の虎はアソコで服奪われて泣いてる奴だ! 良いから黙ってもう一度立てろ…ニセ虎を!」
ルキは知らない、虎がなんで泣いているのかを……奪われた服が二目と見れないくらいボロボロになってしまったからだ。それでも我等の御大将は容赦が無い。
泣く泣くヨレヨレのニセ虎を立ち上げると、流石に訝しんだか、まばらに二~三の礫しか突き刺さらなかった。
壁を背にしたルキが、全員の首を招きよせる。
「よく聞け……今から再装填して奴らが突入して来るまで十数えな。それまで息を潜めて待つんだ」
抵抗しないと悟ったのか、初めはソロソロ、やがて鬨の声と共に向こうの人間が駈け寄って来るのが聞こえた。心臓がバクバクしてジッとしているのがもどかしく感じる。
…七…八…九…十!!
「放て!」
ルキの一声。同時に澪が小刀で二番目に仕掛けたネジネジの縄を斬る。するとシャモジに載せた大きな石が勢いよく、放射線に射出された。
ガシャン、ガシャンと二つの鉢が割れる音。先程虎が倒した二人と、今の二人併せてこれで残り六人。
一瞬ひるんだ相手方だが、攻撃が単発と判断してややあって今度こそと突入を開始する。
しかし、コッチはそれどころじゃない。ルキの言うまま、正面の砦の壁をヒィヒィ言いながら打っ壊して両側に寄せていたからだ。
正面が空いたので、当然の如く敵が集中して押し寄せてきた。
「わああ、なんで壁を壊すんだよ~ぅ、ルキのバカ!」
「あ、バカって言ったね? バカって言った奴がバカなんですぅ!」
そこへ割って入る様に、悲壮な信乃の声が木霊した。
「ルキ! 不毛な会話してないでさ…このままじゃ全滅だよ!」
すると敵が押し入ってきたのを確認して、ルキがニヤリと笑う。
「コレを待っていたのさ…発射ヨロシ」
半べその澪がルキの号令一下、飛礫の合間を縫って第一の仕掛けの縄を断つ。
バン!
今度は衝撃音と共に、大地と平行に礫が一斉にがら空きとなった正面へ、そして相手が押し寄せる中へと飛んでいき、お互いぶつかって逃げ場を失った敵方の三人の鉢を割り当てた。
逆転だ!
これで向こうは三人、コッチが四人になった。
「さあ諸君、後は個々人の能力に任せる。作戦など無い、ただ二人一組で各個撃破するのだ。一人が捨身となって敵を足止めし、残る1人が倒せ。そうして合流してもう一度繰り返せば、残る最後の敵も倒せる計算だ……健闘を祈る!」
ルキ指令が攻撃前に言っていた最後の訓示を思い出し、全員一目散に砦を左右別々へと飛び出した。
大分走ってから相方を見ようと振り返ると、そこにはルキが付いて来ていた。
「チェ、悪七かよ…拙いのと組んじまったなあ……」
あからさまな態度を隠そうともしない。ムッとしつつ、今後の方針を仰ごうとする。
「うわー、イヤな言い方するなあ、それよりこれからどうするの?」
「だからさっき言ったろ、一人が囮になるって……こんな感じで!」
急に突き飛ばされて、隠れていた障壁からモンドリ打って転げ出してしまった。
「ひ、ひでえ!」
しかしなにより衝撃的だったのが、何と相手側も道へ無様に横たわる「オレ」の事など目もくれず、敵さん方がルキを追いかけて走り去ってしまった事だった。
流石にチョットそれは無いんじゃないか…と思うと同時に、ムカリムカリと腹も立ってきた。そこで目の前にあった石を力任せにブン投げる……のが良くなかった。
指が引っ掛かって石の端に回転が掛かり、あらぬ方向へと勢いよく飛び出したソレは壁にぶつかった後跳ねて、何とルキの頭に当たってしまったのだ。
小気味好い音を立てて鉢が割れた時、何故か…スカッとした。が……!
「コンのクソアホー! 同士討ちしてどうするんじゃ、バカチン!」
「ご、ゴメンよ!」
…このゴメンは、気分がスカッとした事への罪悪感である。




