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セルベルク。ベルミアのアリッド地方にある都市に到着するにはそう時間がかからなかった。
途中でアルトはプリシラとノノに新しい服を買う必要があるため、服屋に行かなければならないと説得した。
悪魔的な際どい服装のため、流石に彼女の服装のままではきつい。
問題は金がないことだが、ノノによる洗脳魔法により店員を半下僕化。
速攻でセルベルクの服装専門店を私物化してしまった。魔王の手下としてはかなりの外道だが、更にノノは店員のおっぱいを見せようと脱がす暴挙に出た。
流石にプリシラに怒られ、その店員の身体は無事守られることとなる。
「とりあえず、これで文句はないですね。」
「イメチェン・・?」
二人とも街を歩いても問題のない格好になった。
アルトは服装はそのままだが、二人の元の格好に比べればマシなため問題はない。
「さて、これからどうするかが問題だ。」
いっそのこと首長が居ると思われる官邸に侵入するのもありだが、問題は首長を洗脳するだけではセルベルクを占領したことにはならない。
「リュドミラお姉様からは、民間人を出来るだけ多く洗脳しておくことと言われました。かなり前の会議ですけど。」
「ノノは一度にどれぐらいの人間を洗脳できるんだ?」
「数が多いと洗脳に時間がかかるから、五分くらいで50くらい。ただし、みんな私を見ていなければ洗脳は不可能だから。」
街にはかなり大勢の人が居る。その中でノノに注目させるようなことはあるのだろうか。
「私としては、正直やりたくないけど。あれしかないですね。」
あれとは何だろうか。プリシラがやりたくないが、ノノの洗脳魔法を効率よくかけられる行為とは。
「あれって、あれ?」
「ええ。あれです。ちょうど、この店の中にはいい衣装がありますから。ついでにお金もほしいですし。」
顔がなぜか笑顔だった。珍しくノノは不安な表情だが。
「どうする気だ?」
「ゲリラライブよ」
「は?」
プリシラのキャラが安定しないような気がするが、ある意味彼女の特性かもしれない。
人が多く通る場所で、プリシラとノノは目立つ場所に立った。準備に時間がかかったが、その内容はアルトには分からないものだった。
とりあえず楽器を演奏できる人を集めていたが。彼らが洗脳されているのは言うまでもない。
「皆ー!今日は私たちの初めてのゲリラライブ、見てくれるー!?」
誰?と言いたくなるが、プリシラはその大きな声で聴衆を集める。
「私はプリシラ、こちらはノノ。私たちは夢を持ってこのゲリラライブで歌を披露するから、皆張り切ってねー!」
きらっ、と輝いているウィンク。ノノも張り切っているが、聴衆も負けていなかった。
かなり激しく響き渡る音楽、そしてプリシラの音響魔法による効果で実際の声よりも大きな音が響く。
プリシラとノノにまさかこんな特技があるとは思わなかったが、その二人の歌に魅力された聴衆は二人から目を離さない。
この人数でこのライブであれば、洗脳魔法を完遂することは可能だろう。
「みんなー!のってるー!?」
ある意味、今一番輝いているのはプリシラだろう。
その彼女たちの歌声はそのまま、セルベルク第三通りの伝説となった。
「私、上手くやれましたか?プロデューサー。」
「え?あぁ、うん。」
歌が終わり、聴衆を洗脳したところで解散したのはいい。
プリシラはこういった趣味を持っていたのか、もはや絶好調だった。
「はぁ、疲れた。」
地面に座り込んだノノはプリシラとは対照的だ。むしろプリシラがかなり目立ちたがりだというのは驚きだが。
「とりあえず、洗脳したソロモンガールズの下僕の方々は私たちの味方となりました。」
ソロモンガールズって何だろうか。ユニット名?
「貴方が全滅させた部隊、彼らが消滅させられたことを知られる前に首長を洗脳。早くても明日には行動しないと。」
「待って。まさか官邸に突撃する気?」
「はい。姑息な手段ですが、魔王による国家建設をするには時間がありません。今がチャンスです。」
「あうー」
プリシラはやる気はあるが、ノノは乗り気ではないようだ。
「少なくとも明日には、か。とりあえず宿屋に行こう。」
「あっちにあるよ?」
「「そっちは違うから」」
ノノが指差していた建物はラブホテルだった。まさかこんな近くにあるとは思っていなかったが。
宿屋を探し、その建物に入るとやはり問答無用で受け付けのお姉さんが洗脳されてしまった。
「金を払おうよ。」
「なんで?」
もはやただの犯罪者集団じゃないか。人を魔法で洗脳し、金を払わずに服を頂戴する。必要であればノノは洗脳した女性を脱がそうとする。
もはや正義は皆無だ。
「大悪党にはなりたくない。」
「じゃあその仮面を外してください。貴方も結構悪人みたいですから。」
「触ってみる?」
プリシラの煽りはともかく、ノノはお姉さんをどうしたいのだろうか。
「言っておくけど、洗脳されても記憶はそのままだから。責任はとれますか?」
「あ、あの。お手柔らかに。」
ノノは少し頭を難儀しておるようだ。彼女を無視しめ、宿屋の手続きをすることにした。
「お部屋の鍵はこちらになります。お代は私の身体でよろしいでしょうか。」
「なんでだよ!?」
かなり怪しい雰囲気になってしまった。そのお姉さん、仮称A子は洗脳されただけではないようだ。
「このバカサキュバス、貴方何をしたんですか?!」
「私の洗脳魔法はサキュバスの秘儀だから、基本的に性的欲求の方が強くなりやすいの。」
「そ、そうだったの?」
「だから、私と貴方が物にした人間たちは暇さえあれば彼女のようにアルトに発情することが可能なの。」
頭悪すぎる真実はともかく、なんでよりにもよってアルトに発情させようとするのか。
「あ、あの。お代は・・」
「金銭でいいだろう。」
「夜はどうしましょうか。」
「は?」
完全に洗脳の方向性を間違えている。これでは宿屋というより売春宿だ。
「私の洗脳の恐ろしさは、例え相手が誰であろうとその気にさせてしまう。洗脳される側の魔力が弱ければ弱いほどにね。」
「サキュバス、ちょっとこっち来なさい。」
「何その電流?」
その後、サキュバスは部屋の中でかなりお仕置きをくらった。
A子さんについては保留となったが、正直どうしたらいいかは分からない。
一応部屋は二つ用意してくれたので、アルトは一人で休むことにした。色々とやることが多すぎて多少不安になるが、今は身体を休めることにしよう。
ベッドに横になって寝ると、すぐに眠気がきてしまった。
その心地よさに既視感を感じ、眠気が薄まってから起きると目の前にリュドミラが居た。
「これは、淫夢」
「下僕の貴方は意識の中に私を投影することができるの。」
「随分とプライバシーが無いことだ。」
「私は一応貴方に感謝しているつもりだけど?」
「どういう意味?」
「貴方ではなく、私がセルベルクへ行けばすぐに私の力に気づく人がいるから。ノノとプリシラだけでは多分、セルベルクと住人を無傷で手に入れるのは難しい。」
あまり部下を信用していないのだろうか。
「セルベルクを攻略したらどうするつもりだ?」
「そのまま、私は更に支配地域を広げるつもりだけど。かなり長いお付き合いになるだろうから。」
突然、彼女はアルトの右手を取って自分の胸に押し付ける。
「お、おい!?」
「明日の本格的な行動の前に、少しお遊びさせてくれてもいいじゃないかしら?」
「い、いや。俺はこういうのは不慣れで」
「いいのよ。別に、もし男女逆だったら最高なのに」
流石に神に怒られて消えそうな表現だった。
「疲れているんだ。寝させてくれ。」
「5分くらい付き合いなさい。」
あまり選択の自由はなかった。
詳細は省くが、とりあえず明日の活動に考慮してくれると嬉しい。