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その戦い、というよりは一方的な虐殺に近い行為でアルト達が勝利したことになる。
見た限りでは魔剣の魔力の波動に直撃した人間はほとんど生きていないだろう。あのエリオットという人も例外ではない。
誰もいなくなった焼けた地面に一本の聖剣があったので、アルトはその剣を貰っておくことにした。大事に使わせてもらおう。
「皆殺しアルト。」
「やめろ。人を魔王みたいに言うな。」
ノノは幻影兵を消滅させた後、アルトに抱きついていた。
「だるい。太陽はだるい。」
「まだ夏じゃないだろ。とりあえず帰ろう。」
「うゆ」
とはいえ、あの部隊の中にはエリオット以外にも優秀な部下がいたはずだ。流石にこの惨状を作れば更に魔族に対する憎悪は上がるだろう。
「まさか、こんな威力があるなんて。お姉様とアルトに何が・・」
「俺も驚いたよ。リュドミラを敵にしたくないね。」
プリシラは今見ているものが信じられないという感じになっている。
「あの力、お姉様のもの?」
ノノはよく今の状況を理解していなかったようだ。
「この黒いのを説明できるか?プリシラ。」
「わたしにはリュドミラお姉様の魔力をそのまま使っているとしか思えないけど。貴方はある意味、リュドミラお姉様より弱いくせにその力を最大限に使わせて貰っているものだし。」
さりげなくプリシラはアルトを弱いと強調したが、間違いでもない。
もし顔面偏差値が低かったり、体型が肥満だったら魔物の餌となっただろう。
「なんで俺なんだろうな。」
「一目惚れだよ。」
「魔王が?」
「恋をした魔王は自分より弱い異性をいじめるという快感を感じているはず。だからノノはいつアルトがお姉様に●●されるかぎゃふん!?」
突然変なことを口走ったノノの頭にプリシラのげんこつが入った。
「いくら魔族でも言っていいことと悪いことがあります。」
「必ずや、リュドミラお姉様は支配するはず。」
「何をだよ?」
ノノの意味不明な言動にため息する。ふと、上から何かが飛んできたが、それはリュドミラだった。
「ご苦労様。随分派手にやったわね。」
「リュドミラ、まさか見送りとは・・」
「これから貴方たちはベルミアの都市、セルベルクに行ってもらうわ。」
休み無し連勤で働けと言うのかこの魔王は。
「やだ」
ノノは反発したが、意味はないだろう。
「セルベルクの攻略戦ですね。」
プリシラはやる気満々の様子だったが、正直不安が多い。セルベルクもそう小さくない都市だし、攻略したとして自分たちは三人しか居ないのだ。
「幻影兵は長時間使えるのか?」
「あれは雑魚専用だから。魔法使いには無力よ。」
「それで、どうやって攻城戦をするつもりだ?まさか、さっきみたいに皆殺しにするつもりか?」
「まさか、首長を捕らえて味方にするのよ。ノノの洗脳魔法なら可能でしょう?」
洗脳とはまた魔王らしい言葉だ。しかし、アルトからしてみれば仲間を増やさないといけないという謎が出来てしまう。
あまりにも力が強いくせに、仲間が少な過ぎる。本当に魔王なのかすら疑いを感じた。
「本当のことを言ってほしい。君たちは何者なんだ?どうしてこんな侵略者のような真似をしたい?」
「それはまだ言う時じゃないわね。私は魔王であり、それ以下でもない。」
「魔王ならもっと悪魔を作れるはずだが。あの気持ち悪い化け物はただのペットか?」
「そうね。」
「はぐらかすのは少し酷くないか?いくら下僕でも、魔王のことは知りたい。」
「魔族は数が少ない。それだけよ。」
「絶滅寸前か?」
「別に、そこまで酷くないけれど。もし本当に私たちを知りたいのなら、セルベルクを攻略して誠意を見せなさい。首長を内部で捕まえた後、ノノによる魔法で洗脳。セルベルクの住人を私たちの仲間に引き入れるの。」
「仲間・・?」
「あるいは下僕、奴隷よ。従わない人間は皆殺し。魔王らしくていいでしょう?」
既に人間を見積もりでも二千人は殺害してしまったアルトからすると、自分の累計殺人数が酷いことになりそうだった。
しかし、冷静に考えるとリュドミラはセルベルクの都市を破壊せずに攻略しろという、魔王らしかぬ言動に疑問を感じる。
やはり、このソロモンの乙女とやらは何か事情があるんだろう。
「リュドミラの城に敵が攻めてくることはないか?」
「その時は隠れるから。流石に人類を大陸から消すような真似はしないもの。」
「つまり、君たちはこの世界の魔王になりたいのか?」
だから、皆殺しにしてしまうとその計画は失敗してしまう。人類に対して君臨する魔王であって、虐殺を楽しむ悪魔ではない。
そうあってほしいとはアルトも思っていた。この少ない人数から国盗りゲームをすること自体が馬鹿馬鹿しが、虐殺よりはまだマシだ。
「私たちはこの世界を侵略したいだけよ。貴方を選んだのも、貴方を魔族に下僕とされた人間の一人としたいから。」
「なるほど、その話をすぐにしてくれればいいんだが。」
そう言うと、プリシラがアルトの目の前まで来た。
「そういう貴方こそ問答無用で元同僚がいるかもしれない軍隊にその魔剣を使った、それだけでも充分悪魔です。大体、仮面の必要ないじゃない。」
「反逆の騎士としては仮面は必要でね。」
ノノは首をかしげた。
「もしかして、中二病?」
「勝手にそう思えばいい。」
確かにプリシラの言う通り現在身につけている仮面に意味がないのは事実だ。
しかし、もしかしたらセルベルクにもアルトを知る人間はいるだろう。
「反逆の騎士。それが貴方のやりたいこと?」
「そうだ。」
リュドミラは満足してくれたようだ。
「おかしい、なんかが間違いです絶対。」
プリシラはあまり納得していないが、今はセルベルクに行くしかない。
リュドミラの言う通り、下僕と配下?の三人はセルベルクへそのまま向かった。
どうでもいいが、本当のところリュドミラがセルベルクに行けばいいのではという素朴な疑問もあったが。
多分、魔王として俺たちの下僕生活を見たいんだろう。
「大体理由ならちゃんと説明したはずですよね?」
「すまん忘れた。」
「は?」
プリシラは今何を言われたのか理解できなかったらしい。
「いや、ノノにされたことのせいで記憶が曖昧でな。」
アルトは元々忘れっぽい上にノノによる淫夢を見ている。基本的な説明はむしろ覚えいないのは自覚していたのだが。
「あー、思い出した。魔王のほかに帝王とか言ってたような。」
「貴方本当に主人公・・・?」
「何の話だ?ていうか、あの夢の内容すら思い出せないんだが。」
「それは忘れなさい。全部、設定なんて知らなくていいから下僕として生きなさい。」
設定、ていうか魔王やリュドミラのことを忘れること自体が問題なんだが。
「プリシラ、淫夢見たいの?」
「いいから。貴方は変なことをしなくていいから。」
とりあえず、ノノによる淫夢には警戒しておこう。
セルベルクという都市で首長をなんとかすればいい。ノノとプリシラがいる限り問題はないだろう。