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心の小箱

作者: せいいち

 バブルのように人が押し寄せてくる。ここ数年でとみに増えた。外見はそっくりなので一見して日本人と変わらないが、会話が聞こえてきて、近隣諸国からの訪日客とわかる。一見してわからないのは生物学的な相似ばかりではなく、風俗も同化しているからだ。キャリーバッグにジーンズ、それとスマホだ。

 彼らの行動様式は、いっそうバブルだ。エアB&Bなるアメリカのネット企業がある。民泊を仲介するサイトの世界最大手らしい。このサイトを介して、見ず知らずの庶民の空き家に泊まる。理由は簡単、安価だからだ。ちょっとした小銭稼ぎにもなるから、空き家を持つ庶民の方も、民泊でも始めようかとなる。そうして大挙して来た客の大半は、日本で物を買って、本国でもできる遊びに興じて、日本を知らずに帰ってゆく。わが方も、お金を使ってもらってそれでよしである。

 これらはみんな、スマホという正体の見えない基盤のうえに成り立っている。つまり、虚構ということである。虚構によって人が幸福になることはあるまい。虚構ゆえに、安価ゆえに、つまりはどうでもよい日常の一コマゆえに、行為が大切にされないからだ。

 大切にされない行動の拡散が、グローバル化という名で呼ばれているのが今の時代だ。虚構の持つどうでもよさにつけ込んで、荒稼ぎをしているのがエアB&Bのようなサイトバブルの起業の群れである。そうしたグローバル化への、どぎつい反乱のようにも見える。アメリカ大統領選で繰り広げられ、現在も続くあの国の政治の混乱は、グローバル化の最先端をゆく国の、そこに住む人々の行き場を見失った良心のかく乱のようだ。

 かつてこの島国の人々にとって、海外旅行は特別なものだった。新婚旅行と、定年後の記念旅行ぐらいか。パスポートに押される印も、人生を通じて数えるほど。だから、人々は、非日常の旅という行為をとても大事にした。海外旅行の思い出は、いつまでも消えないお日さまのようなものだったろう。

 かつてはどこの国でも、旅行に関わらず、そんな特別な行いというものがあった。思い出は大切にされて、それぞれの胸の小箱に仕舞われてきた。心に小箱を持つ日常が、わが国だけでなく、この世界には確かにあったはずだ。それはまだ、ほんの二十年前のこの世界のあり様ことである。


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