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女王の追走歌  作者: あねこ
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「ステッキ」

実をいうと、あたしは密かにずっと夢を見てきた事がある。それは「空想界の実現」。空想界とは、自分が小一の頃から書き溜めてきた絵や小説や漫画の世界である。

別に小説家になりたい、漫画家になりたい、と思って書き始めた訳では無い。そういう気持ちが全くなかったといえば嘘になるが、それ以前に、根底的な理由としては、変わる事が怖かったのだ。人はいづれ年をとるだろうし、姿も同じとはいえないし、勿論考える事も変わっていくだろう。それが嫌で嫌で仕方なかった。だからせめて中身だけは変わりたくないと、記録するように理想を書き殴っていたのだ。

何故そう思ったのかというと、周りが変わっていくのを感じた時、決して気持ちのいいものではなかったからだ。幼い頃、あんなに優しかった兄が急に冷たくなって暴力を振るい、罵声をあげ、酷い時は刃物を向けたりもした。自分を愛していると信じていた両親はあたしの目の前で離婚届を挟んで大声で怒鳴りあっていた。母はその日、家を出た。とても、とても怖かった。人が変わると人が恐れるのだと学んだあたしは、そうはなるまいと、そうならないためにと、維持するために自分が唯一安らげる場所を創った。それが「空想界」である。

「空想界」は一言でいうと「家」だった。どんなに辛くとも空想界の人々だけは自分の全てを肯定し、許してくれた。そんなあたしを奇異の目で、あるいは哀れみの目で見てきた周りの人達は「あたしのため」などとほざきながら奪いに来るときもあった。面白がって空想界がかかれているノートを隠したり落書きされていたこともあった。これは言ってしまえば不法侵入だ。自分だって、勝手に家に入ってきたり荒らされたりしたら嫌だろうに。何も自分が実際にご飯を食べて床につく所が家とは限らないとあたしは思う。寧ろ、自分が心底安堵できる場所が本来いるべき場所で、「家」なのだ。

さて、それはそうと、空想界の実現をここでするためには、土台を作らなければならない。まずは人だ。空想界の全人類を自分で考えて管理するのははっきりいって面倒極まりない。だから自我がある人を適当に数百人生み出して、均等になるように土地を区切ってその一つに送り込む。。それだけじゃつまらないので、「現実世界で何かを強く願っている者」、「あたし自身が呼び出した者」が自動的に入れるようにした。後者の説明は後でするとして、これで土台の一部は大丈夫だ。

ここから、とても大事な土台をつくる。

それはステッキだ。そう、魔法少女とかでよく玩具にされるあれ。巫山戯ている訳では無い。ちゃんとした理由は勿論ある。何でも出来る能力とはいえ、それを継続的に使いこなせるかといえば不安な所がある。世界を統べる者であるあたしがしっかりしてないと、さっき生み出した人達に文句を言われるだろう。だからわかりやすく大きく3つに分けてそれを元にステッキをつくる。

一つ目、「守る」

まずこれを果たしておかないと、あの変態無能嘘つきクソジジイによって現実世界に戻されてしまう。主な力は、外部から侵入してきた悪いやつを倒したりする事。他はこの世界のバランスが悪くなったときとかに安定させる事とか。そんな事あるかわからないが、0とは言い難い。ともかく、最低限やらなければいけないことなので、一つの力にまとめておく。

2つ目、「時と空間をつくる。」

時間を止めたり、戻したり、進めたりするのと、都合の良い場所をつくる力だ。時間操作は何かと役に立ちそうだから、という理由であんまりそこまでこだわってないのだが、大事なのは空間をつくる方だ。これを上手く使えば、どんな体質の人でも快適に過ごす事ができる。例えばの話、普段北海道に暮らしていた人がいきなり沖縄に飛ばされたら慣れない気候で居心地が悪いだろうし、なにより体調を崩すだろう。しかしこの力を使えば、北海道の人が沖縄にいっても、北海道の人にとっては北海道の空気のまま、という事だ。

3つ目、「欲を満たす。」

自分がそうしたいからという理由もあるが、ここは空想界という理想郷。自分だけの理想郷は楽園ではなく寧ろ地獄。というわけで、全人類の願いを叶えられる力をまとめた。それは与えるだけではなく、消すことも出来るある意味恐ろしそうな力だが、人のためなら問題はないはずだ。欲しいがるものを与えるだけ与えて怠惰にする事が目的なのだから、どのみちこの力は必須なのである。但し、何もなしに願いを叶えるのは傷がつくといつか読んだ漫画で学んだため、それに見合う対価を払って貰う事にする。ここに来る前のあたしがしたように。けれどあまり厳しすぎるのも申し訳ないから、払うものが物でも、者でも、過去のものでも、未来のものでも、他人のものでも成立するようにする。こうすれば願いを叶えやすくなるだろう。

あたしはそれぞれのステッキをつくった。スーパーボールみたいな形と大きさで、その中にあるアーモンド型の枠にギョロンと目玉が覗いて、黒くて平べったい羽が小さく生える。それぞれ緑、青、赤といった色。上に投げて受け止めると、赤色のやつ以外は長く柄が伸びてステッキと呼べるものになった。これでステッキづくりは一応終わりなのだが、あたしはいい事を思いついた。このステッキに自我を持たせて、人間の姿になれるようにしたらどうだろうか、と。善は急げ、早速魔法(「力」というと夢がないから個人の趣味で魔法と呼ぶ。)をかける。すると、緑色の長い髪をポニーテールにした泣きぼくろがあるおっぱいの大きい美人と、青色でフワフワの髪を両サイドのこめかみに白いピンをつけて眼鏡をかけたおっぱいの大きい美人と、赤くて地に着くぐらいの長さの髪で背が低いおっぱいの大きい美少女が現れた。

みんなレモネードみたいな黄色い目をしている。

「なんであんたらそんなにおっぱいが大きいの…!?主人であるあたしより大きいとはコノヤロウ…!!」

「あの…女王、顔怖い。」

そんな事より、せっかく人になれたのだから名前をつけなければならない。名前には力があって、とても大事なものだとも漫画で学んだ。

「じゃあ…緑色の髪の貴方は「ビブ」、青の貴方は「べブ」、赤い貴方は「バブ」、わかった?」

すると「べブ」が口を開いた。

「バブってなんか赤子みたいね…。」

「ブブとかボブよりはいいでしょ?」

「確かに…!」

そんな話をしていると、話題に出されたバブが話しかけてきた。

「女王…貴方の名前は…?」

忘れてた。そうだ、向こうでの名前を使うわけにもいかないし、というより代償にしちゃったから使えるかどうかもわからないし。けれどそんなに困ってない。書き溜めた空想界の名前がちゃんと、ある。

「あたしは、田村・姉猫娘・(バーサーカー)・カノン・ダバタニア。長いからあねこ。これからよろしくね。」

今更ながらに名乗ると、3人共「よろしく」、と返してくれた。

彼女達を連れて、森の入り口付近に行く。あまり人が来そうな所じゃないが、それでいい。あたしはそこに白い柱を円状にいくつか建てて、真ん中にゲートをつくった。

「ここにね、現実世界から人が来るようにしといたけん。3人には案内役をして欲しいんよ。」

「案内役…?」

「うん、この世界の説明みたいなものかな。でね、さっき思いついたんだけど、一個の代償を払って貰う代わりに一人一つずつ能力をあげようかと思って。それがこの世界の「住人」になる条件。どうかな?」

3人は顔を見合わせて、しばらくするとビブが言った。

「それって…何のメリットがあるの?」

「メリットというか、なんというか。だって誰だって不思議な力が欲しいじゃない。あたしだけじゃなくて、あたしと同じような思いをしている人も願いを叶えてあげたいの。ここはそういう場所だっていう世界にしたいとよ。」

彼女達は若干驚いている様子だったが、全員頷いてくれた。ありがたい。

「じゃあ、もうちょっと細かい事決まったらまた話すね。」

そういって、一旦ゲートを後にした。

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