〜第5話〜天才美少女ダンサー
こちらを睨む女。
美羽、張花、そして龍子は困った顔で立ち尽くす。
3人を守るように、孔明が割って入った。
「ちゃんと許可は取らせていただきました。嘘だと思うようでしたら管理人に尋ねて下さい」
飄々と答えた孔明を女は睨みつづける。
「……あんた知ってるよね。私が火曜日と木曜日の夕方はいつもここでステージしてるって」
美羽は「えっ?」と身体をピクリと動かした。今日は火曜日だった。
「知っていますよ」
孔明は顔色ひとつ変えずに言う。周囲にぴりりとした空気が立ちこめる。
「ですので、これで撤収します」
孔明はそう言って頭を下げた。
「関さん、飛田さん、急いで片付けますよー」
孔明がこう言ったので、美羽と張花は、「はいっ」と焦って機材を片付けはじめた。
なぜか龍子も一緒に片付けはじめた。
ゆるやかになる空気の中、女だけはひとり緊張した面持ちを崩さなかった。
◇◇◇
女はスピーカーを置いて、静かにストレッチを始める。
遠巻きに見る、孔明、美羽、張花、龍子。
「……彼女のこと知っていたんですか?」
美羽が孔明に聞く。
「ええ、噂は聞いていましたよ……。この公園で路上パフォーマンスをしている天才美少女がいるということは……」
いつの間にやら彼女をギャラリーがとり囲み始める。ぞろぞろと増える観客。その数は、昼の美羽たちのライブに匹敵した。
「馬場孟姫。15歳の高校生です」
「……え?ウソっ!!私たちと同い年!?めっちゃオトナっぽ〜〜」
張花は驚く。
やがて、ダンスミュージックが鳴りはじめ、孟姫のパフォーマンスがはじまった。
激しいリズムに合わせて猛々しく踊る孟姫。
その動きは激しいが、どこか繊細でしなやかであり、美しかった。
彼女の身体に街灯が当たり、艶かしく輝く。
そして、音楽がスローになったときに見せる彼女の表情はとても切なげで見ているものの心を掴み取っていく。
「はえ〜〜、すごいね〜〜」
美羽は口をあんぐり開けて感嘆する。それは張花も龍子も同じだった。
ここで孔明が扇子を開き、静かに言った。
「新たなメンバーを探さねばならないとなったとき、候補としてまずふたりの名前が上がりました。それが……馬場さん……そして雲井さんです」
「…………私もですかっ!?」
龍子は自分を指差して驚く。
「ええ。そういえばちゃんとお願いするのを忘れていました。雲井さん。是非われわれと一緒にアイドル活動をやっていただけないでしょうか?雲井さんの力が今のわれわれには必要です」
孔明が頭を下げると、美羽も張花も「私たちからもお願いします」と頭を下げた。
龍子は露骨に焦った。
「……え、いや……、龍子、アイドル大好きで、まさか自分が本当にアイドルになれると思っていなかったから、すっごい嬉しいんですけど……、で……やってみたいんですけど…………と、とりあえず……お母さんとお父さんに聞いてみないとっ」
龍子はそう言うと、走り去っていった。
そこで拍手が鳴った。
どうやら孟姫のダンスパフォーマンスが終わったらしい。
「では、参りますか」
孔明はゆっくりと立ち上がり、孟姫のもとへ歩いていった。
◇◇◇
「いやあ、素晴らしいパフォーマンスでした」
パフォーマンスが終わり、ストレッチをはじめた孟姫に孔明は声をかける。
孟姫はちらりと孔明を見ただけで無視をする。孔明は気にせず話を続ける。
「実は私はショックプロダクションというところでアイドルのプロデューサーをやらさていただいております。是非とも馬場さんには我が社でアイドル活動をしていただきたいと思っております」
名刺を差し出す孔明。だが孟姫はいちべつもせずに言う。
「お断りいたします」
「……理由は?」
「私はダンスにしか興味がないからです」
「それでしたら、我が社のアイドル活動は、馬場さんのダンスの情熱をさらに活かしていけるものだと確信しておりますが、いかがでしょうか?」
「……お断りいたします」
「……なかなか強情な方ですね」
その孔明の一言に美羽がぽつりと「でも孔明さんもなかなかプロデューサー引き受けてくれなかったし、十分強情だと思うんだけどなあ」と言い、張花がうんうんとうなずいた。
孔明はぱちんと扇子を鳴らす。
「では、こうしましょう。来週にもう一度私たちはここにやってきます」
孟姫は孔明を目を丸くして見る。
「そして、ここにいる関さんと飛田さんとダンスで対決しましょう」
孔明はふたりの肩をさわって言う、ふたりは「ひゃん」と身をすくめる。
「……そして、私たちが勝ったら、馬場さんは私たちのなかまになる。それでどうでしょうか?」
「えっ?」と孔明を見る美羽と張花。
孟姫は孔明をじっと見据えた。