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〜第4話〜なかまを求めて

「うんっ、美味しい」


 チョコレートパフェのアイスクリームをすくって口に運び、美羽は言った。


「うん、美味しい」


 隣で、ベリーズパフェのアイスクリームを口に運んだ張花が言った。

 ファミリーレストランの店内。ふたりは横に並んでパフェを食べていた。


「で、孔明さん……今日はどうして私たちを呼んだのでしょうか?」


 美羽が聞いた。

 ふたりの正面には、コーヒーをすする孔明の姿があった。


「はっきりと言います。関さんと飛田さん、ふたりだけではとてもやっていけません」


「「…………」」


 美羽と張花は目を点にした。そしてシュンとした。


「あっ、勘違いしないでください。お二方に落ち度があるわけでなくメンバーがふたりしかいないというのはあまりに人手不足ということです。アイドルについて色々と調べてみましたが、今のアイドルは多種多様な個性が揃っていることが望ましく、また活動も多種多様になるため、できるだけ人員が必要です。さすがにふたりだけでは……」


「……へばっちゃうねーー」


 張花は頬杖をつきながら言った。


「……確かに、なかまはたくさんいた方がいいもんねっ」


 美羽が拳を握って言う。


「というわけで、メンバーを集めます。そのためにお二方には協力していただきます」


 そう言ってコーヒーを飲み干すと、孔明は席を立った。


「ちょっと、孔明くーん、まだ全然食べ終わってないよー」


 張花がそう言っても、孔明が振り返る様子はまるでないので、ふたりは慌ててパフェをがっついた。



◇◇◇



 孔明がやってきたのは、広い公園だった。

 あたたかな昼下がりであり、まばらだが人も見える。


「孔明さん、ここで何を?」


 美羽が首を傾げながら聞く。


「ではお二方……」


 孔明はそう言うと草むらからゴソゴソと何かを出した。


「……ここでライブをいたしましょう」


 孔明はふたりにマイクを差し出した。


「ハハハハハ…………孔明くん、冗談も言えるんだね」


 マイクを受け取った張花は笑う。

 孔明は草むらからさらにスピーカーやミキサーを引っ張り出し、かちゃかちゃと設置をはじめた。


「……まさか本当にやるの?」


「ええ、玄野さんから聞きました。お二方は【flower feather】というユニットでライブもしょっちゅうやっていて、持ち歌もいくつもあるということで。ハイ、音源も借りてきましたので」


 そう言って孔明はCDを見せる。


「……あ、でも孔明さん、こういうのって許可を取らないと……」


「ちゃんと、公園の管理の方に言って許可は取りました」


「…………、あ、でも、私たち衣装持ってないし」


「そのままの格好で歌っていただければ」


「え!?そのままの格好って、制服だよ私たち」


 美羽も張花も各々の学校の制服、美羽はブルーのチェックのスカートにクリーム色のカーディガン、張花はグレーのスカートを思いっきりミニにしたセーラー服を着ていた。


「それが、逆に親しみがあっていいと思います」


「……え、でも、恥ずかしいよ」


 美羽は赤面してほおに手をやる。


「面白そう。私は構わないけど…………、孔明くん、メンバー集めるのにゲリラライブって何で?」


 張花が聞く。


「……それは、後ほど」


 孔明は笑みを浮かべて扇子をぱちりと鳴らした。



◇◇◇



「それじゃあ皆さん聴いてください。一曲目……」


「「【桃色の誓い】」」


 すのこを積み上げてつくった即席のステージでゲリラライブははじまった。

 ふたりは制服姿で、スカートをひらりとさせながら歌って踊った。

 普通の公園で行われるライブのもの珍しさに何人かが足を止めて、遠巻きに見ていた。

 しかし、そんなに人通りが多い公園ではないので、人だかりができるほどではなく、人だかりができなければ、皆、少しだけ様子を見て立ち去ってしまう。

 「うーん、お客さんあんまり集まらないなあ。ゲリラライブやるなら、駅前とかもっと人が集まる場所にすればいいのに……」と張花は歌いながら思っていた。

 だが、孔明はその様子を見ても静かに笑っているだけだった。

 一曲目も終盤に差し掛かったときだった。


「……来ましたか」


 孔明は何かを見て、自分の思惑通りに事が運んだことを確認した。


「ねぇねぇ見て見て、あれ何かなぁ?」


「アイドルだよアイドル」


「本当だーーっ」


 賑やかな声だった。

 美羽たちを見つけて指差したのは、ランドセルを背負った小学生の集団だった。

 彼女たちは美羽たちの元へと走り寄ってきた。

 その後もぞろぞろと小学生たちが通る。

 そして人だかりができた。

 孔明はほくそ笑んだ。あらかじめこの場所が小学校の通学路になっていることを知っていたのだ。

 一曲目が終わるころには人だかりができていて、曲が終わると同時に小学生たちの拍手が鳴った。

 美羽と張花は顔を見合わせて微笑んだ。



◇◇◇



「みんなーこんなに集まってくれてありがとう」


「この調子で2曲目いっちゃうよー」


 美羽と張花の声に小学生たちは盛り上がる。

 ひらりとスカートを舞わせながら歌う美羽と張花に、万来のコールが送られる。

 3時過ぎの公園がヒートアップしていく。

 そして孔明はじっと見つめていた。

 一番前で身を乗り出してリズムに乗るショートカットの女の子を。

 2曲目を終えて拍手を浴びたとき、美羽と張花のひたいには汗が光っていた。

 けれど、ふたりのテンションは高くまだまだ歌い足りない気分だ。

 では、3曲目。そう言おうとしたときだ。


「しばしお待ちを」


 こう言ってとことことステージに上がってきたのは孔明だった。

 美羽と張花はきょとんとする。


「ここで特別コーナーです」


 美羽と張花は顔を見合わせる。当然ふたりとも孔明から何も聞いていない。


「お客様から誰かひとり、このふたりのアイドルと一緒に歌ってみませんか?」


「「…………えーっ!!」」


 美羽と張花は揃って声を出した。


「ちょっとちょっと、孔明さん。いきなりそんなこと言っても無理だって」


「まぁ、面白そうだけどさぁ……」


 小声で孔明につめ寄るふたりの後ろで、小学生たちが「はいはーい」と我先に手を挙げている。

 孔明はその様子を見て微笑むと、「じゃあキミいいかな?」とひとりの女の子の手を握った。

 それは、先ほど一番前で身を乗り出して見ていたショートカットの女の子だった。彼女は誰よりも大きな声を出して手を挙げていた。

 選ばれた女の子は目を輝かせた。

 孔明からマイクをそっと渡された彼女は、最初は少しはにかんだが、グッと元気よく言った。


「どうも、長坂小学校5年生、雲井龍子くもいりゅうこです」


 この言葉に、小学生たちから「龍ちゃーん」と声が聞こえた。

 どうやら彼女はクラスの人気者らしく、えへへと笑顔で応えた。


「……えーと、龍子ちゃんかあ。龍子ちゃんはアイドル好き?」


 美羽が聞く。


「うん、歌うのも踊るのもとっても大好き」


 龍子はそう答えた。


「……えっと、次の曲は有名なアイドルソングのカヴァー曲だから龍子ちゃんもイケるかなぁ……?」


 張花はおずおずと聞く。


「うん、龍子、歌えるよ」


 龍子は頷いた。それと同時に、孔明が曲を流した。

 美羽と張花は「いきなりっ?」とつんのめるように立つ。一方龍子は自信たっぷりに立った。

 そして、最初のパートを龍子が歌った。

 ……え?

 美羽と張花は驚いた。これがさっきと同じコ?と。

 龍子の声はあどけなく元気の良い小学生の声ではなく、恐ろしく大人びた歌声だったからだ。

 大人びているだけでなく、抜群に上手い。

 息を飲む美羽と張花、このまま龍子の歌を聴き続けていたい衝動に駆られた。

 けれど、ふたりもアイドルだった。

 負けてられない。

 龍子に張り合うように、声を出し、踊り、場を盛り上げていく。

 いつの間にか公園の人だかりは小学生だけではなくなっていた。

 大人たちまでが輪をつくり、まるでお祭りのような様相を見せていた。

 美羽、張花、龍子、初めて3人で歌うとは思えないほどのシンフォニーを紡いでいく。

 そして、そのシンフォニーが絶頂を迎えた瞬間、曲が終わった。

 一瞬静まり返る公園。

 顔をあげた3人を万来の拍手が迎えた。


「あはは」


 信じられない出来事に少し戸惑いながら笑う張花。

 美羽は脇で音響係をしていた孔明を見て思った。

 孔明さんも人が悪い。こんな逸材、天才小学生が通ることを知っていて、ゲリラライブを仕掛けたなんて……と。

 そんな目線を受けて孔明は笑った。

 まぁ……、狙いはそれだけじゃないんですが、と。


 大きな拍手の渦をかき分けて、ひとり、ステージに近づいてきた。

 静かに、そして威圧感を込めて。

 白いロングTシャツ。黒いスキニーパンツ。キャップをかぶったその人物は、3人のいるステージに上がった。

 美羽と張花は突然ステージに上がった見知らぬ人物に目を丸くする。

 そして、その人物は言った。


「許可は取ったの?」


「え?」


「ここ、私の場所なんだけど」


 その声は冷たく無機質な声であったが、明らかに怒りが込められていた。

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