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〜第2話〜三顧の礼

 孔明は学校帰りに『水鏡書店』に寄った。


 『私は絶対孔明さんならできるって信じていますから』


 ふと、昨日の美羽の声が頭の中に反響した。

 孔明はいつの間にか、普段は絶対に行かない芸能関係書籍のコーナーに行き、【アイドル大集合】という本を手にとっていた。

 ぱらぱらとめくると、色々な笑顔が目にちらつく。

 正直、転生前の戦乱の社会とは全く異なる世界だ。

 ……やはりよくわからない。

 彼女たちが何を求めて、何に向かって笑顔を浮かべているのか、わからない。

 そっと本を下ろし、元の場所に戻そうとした。

 笑顔が見えた。


「……孔明さんですよね」


 その笑顔のコは聞き覚えのある声で話しかけてきた。


「……関美羽さんですか。どうも」


 孔明は礼をした。


「覚えててくれたんですか。しかも声だけでわかってくれて嬉しいなあ」


 美羽は笑顔をさらに弾けさせた。

 それにしても……と孔明は思った。

 声の優しく明るいイメージままのコだなと。


「……今日は何か用ですか?」


 孔明が少し冷淡な口調で聞くと、美羽は焦って言う。


「……あっ、違います。確かに孔明さんにはプロデューサーになってほしいですが、今日はそういうんじゃなくてたまたまです」


 無理やり押しかけたことを否定するために美羽は矢継ぎ早に言う。


「ほら、この前も言いましたけど私も近所に住んでいて、本が大好きなんで、ホラ、私も学校帰りです」


 両手を、自分のブレザー姿を見せるように言う関美羽。


「……どうして、私のことを?そちらも私と対面するのは初めてですよね」


「えへへ、実は私は何度も孔明さんのことを見てたんですよ」


 にっこりする美羽。


「2年ぐらい前から、ランドセルを背負いながら難しい哲学書や学術書をレジに持っていく小学生がいて、すご

いなあってひっそり注目してました。しかも孔明さん、めちゃくちゃ美少年だったんで見惚れていました…………あ、気持ち悪かったですねごめんなさい」


 美羽は口に手をあてて謝る。


「いやいや別に構いませんよ……」


 孔明はこう言ってから聞いた。


「関さんは、この前私に言いましたよね、『絶対孔明さんならできる』と」


「はい、言いました」


「確かに私はこの水鏡書店を救いました。けれどそれだけでは、全くジャンルの違うアイドルのプロデューサーとしてうまくいく根拠にはならないと思うのですが?」


「……うーん、根拠とかそういうこみいったことじゃなくて、『勘』です」


「『勘』ですか?」


「そうです。現に今私は孔明さんを目の前に、組めば絶対にトップアイドルになれるという気がしています」


 美羽はむふふと言う。


「……それですが、私と組んでも成功するとは限りません」


「え?」


「……私は遥か昔、同じように私を信頼してくれた人の元ではたらきました。けれども私はその人の思うような結果を出すことができませんでした」


 遠くを見る孔明。きょとんとする美羽。


「……だから、私はご期待には添えないと思います」


「一度……失敗しているんですか?」


「まぁそうです」


「じゃあ次は成功しましょう」


「…………」


「失敗したのなら成功するまで何度もやればいいんです。一度失敗したからってやり直しちゃいけないなんて法律はこの世にはないはずですから」


「…………けれど、今度も失敗したら関さんも激しく落ち込むと思います」


「落ち込みます。が、またそのときは一から一緒にやり直しましょう」


 美羽は思いっきり手でグーをつくって言った。そしてハッとして言った。


「あっ!!まだ孔明さんはプロデューサーじゃないんですね。失礼しました」


 美羽は謝る。孔明はふと笑った。

 そして孔明は、美羽の横をすり抜けた。


「すみません。本を買ってきます」


「え、あ、はい…………え?」


 美羽が驚いたのは、孔明がレジに持っていった本が【アイドル大集合】という本であったからだ。



◇◇◇



 孔明が歩く後ろを美羽がついていた。

 美羽の家にいく途中にちょうど孔明の家があるらしく、迷惑じゃなければ、と一緒に帰ることになった。

 とは言っても何か話すわけでなく、坦々と歩く孔明の後ろをにこにこと美羽がついていくだけであった。

 暗闇に月と星、ぽつぽつと街灯。

 孔明の家の前には背広の男がいた。


「玄野さん?」


 声を出したのは美羽だった。


「美羽くん。まさか君が一緒だとは」


 玄野は驚いて言った。

 次に玄野は孔明に歩み寄って言う。


「しつこい。と思われるでしょうが、僕は本気です。田中孔明さん。ぜひ、ショックプロダクションのプロデューサーになって下さい」


 頭を下げる玄野。


「…………いいですよ」


「………………は?」


 あまりにあっさりした返事に玄野は目を丸くした。


「本当ですか?」


「ええ、微力ながら、お力添えいたします」


 孔明は頭を下げた。

 ありがとうございます、と玄野の前に大声で言ったのは美羽だった。

 そして美羽と玄野は喜びのあまり両手で握手をし、小躍りをした。

 そのあと、玄野は孔明に聞いた。


「しかし、どういう心変わりを?昨日まではあんなに嫌がっていましたのに」


 これに孔明はこう答えた。


「昔から、三度家を訪ねて来る人の申し出は受けることにしているんです」


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