〜第14話〜ライバル現る
中野にあるGOプロダクションの劇場は、サブカルチャーの聖地中野ブロードウェイと併設して設置してある。
休日という中で人がごった返す中、美羽たちは入り口で立っていた。
「……すごいところだねー。こんなところに劇場があるんだ」
「私たちのショックシアターもすごく変なところにあるけどねー」
「うわーすごい、ここから見えるお店、アニメのお人形がいっぱーい」
「ああ、中野ブロードウェイは秋葉原に次ぐサブカルの聖地だからね」
「わたくしが小学生時代に見たアニメのシールを先ほど見つけました。わたくしが小さい頃、家のタンスに貼ったものと同じでした。ここは昔懐かしい感じを思い起こさせる不思議な場所です……はっ、こんなのすたるじいに浸ってしまうわたくしはやはりおばはん。アイドルとして失格でしょうか?」
「いやいや黄子さん、そんなことないですって。私も同じように昔好きだったゲームの人形見つけて懐かしくなっちゃいましたあ」
美羽がにっこりと笑った。
「……そういえば孔明くんが遅れてくるのはいつものことだけど、バモが遅れているのはどういうことなんだ?」
「んん……どうしてだろうねえ。あっ、バモちゃん来たよ。こっちこっちい!!」
龍子が孟姫を手招きする。
「いやあ、すまない」
「……バモ、遅刻ー、一体どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「……カバン、パンパンだね」
張花は孟姫のカバンに目をやる。
「あっ!!練習着を何枚かもって来ててな」
焦る孟姫。
「わかった。バモちゃん、上でアニメとかのおもちゃ買ってたんでしょ。ずるいなあ、龍子も買いたかったのに」
「……え、あ……そんなことは……」
顔を真っ赤にする孟姫。
「龍、そんなわけないでしょ。バモはダンスひと筋のダンス馬鹿なんだから」
「そうだよお、バモちゃんがアニメ好きなわけないよー。イメージがちょっと違うよ」
「そうですね。しかもしっかり者の孟姫さんが、アニメグッズを買っていて遅刻とは考えづらいです」
「…………」
孟姫が身体を小さくする。
「そうかあ、ごめんバモちゃん」
「……いいんだ。私そうか、やっぱりアニメとか興味ない人間に見えるか」
「ん?」
「いや、何でもない……」
孟姫は押し黙った。
「皆さん、お揃いで」
いつものように孔明が悠然と扇子で自らを仰ぎながら現れた。
「孔明さんおはようございます」
美羽たちが孔明に挨拶をする。
「さて参りましょうか。本日はGOプロダクションの皆様にたくさんお勉強させていただきましょう」
アウェーにも関わらず、マイペースに振る舞う孔明に、美羽たちはおどおどしながら着いていった。
◇◇◇
GOプロダクションを立ち上げた孫堅美は、かつてアイドルであった。その後女優としても活躍し、一斉を風靡した。
しかし、突如芸能界を引退し、自分で新たなアイドル事務所を立ち上げると宣言。多くの人間は彼女の行動に疑問符を浮かべ、かつ軽んじたが、彼女は皆の予想外の手腕を見せ、20年で業界ナンバー2のアイドル事務所を育て上げた。
そして、現在GOプロダクションを支えるエースアイドルは、彼女のふたりの娘であった。
◇◇◇
楽屋についた孔明と美羽たち。
「私は、堅美さんにご挨拶をしてきます」
そう言って孔明が出ていったあと、5人は皆押し黙ってしまった。
普段5人は、楽屋ではうるさいくらいにワイワイガヤガヤとはしゃぐのだが、慣れない独特な雰囲気に静かにならざるを得なかった。
そんなとき、ガチャンとドアを開いた。
「おっ、アンタたちがショックプロダクションのアイドルね」
そこには虎柄のキャミソールと虎柄のシュシュで髪をまとめたポニーテールのアイドルがそこにいた。
「ユーチューブで見たわよ。アンタたち、あの高慢ちきなギャラクシープロにケンカを売ってたの。いやあやるわねえ」
彼女は急に美羽の手を握り、ぶんぶんと振りまわす。美羽は「はあ」という顔をしている。
「……おねえ」
彼女のスカートの裾が誰かに引かれた。そこには小学生くらいのアイドルがいた。その小さな彼女は虎の耳のカチューシャと虎のしっぽをスカートにつけており、また、目にハイライトがなく、真っ黒な目をしていた。
「何よ、権?」
「おねえ、はじめて会う人には自己紹介しないと失礼」
「……あっ、確かにそうね」
ポニーテールの彼女はばんと胸を張った。
「私は、孫策美。いずれ世界のナンバー1アイドルになる女よ。よろしく」
「孫権美……」
ポニーテールの彼女はばーんと、真っ黒な目の少女はぼんやりと自己紹介をした。
◇◇◇
「本日は、よろしくお願いいたします」
孔明はデスクに座る孫堅美に挨拶をした。堅美は無礼にも「ああ」とうなづいただけだったが、孔明は気にしない。
「少し早いかもしれませんが、未来の話をしませんか」
孔明はあらたまって言う。
「御社、GOプロダクションと、弊社ショックプロダクション、同盟を組みませんか?」
孔明はもう一歩前に出る。
「私たちの共通の敵は、アイドル業界を牛耳るギャラクシープロダクションです。ここは我々は手を組むのがお互いに対して上策かと」
これを聞いた堅美はタバコを加え、カチリとジッポーの音を鳴らした。タバコを一口だけ吸い、口を開いた。
「周」
「はい」
堅美は誰かの名前を呼び、誰かが奥から現れた。
それは孔明よりも少し年上の高校生の、長髪の美少年であった。
「周、我々の考えを、この身の程知らずに教えてやってくれ」
「はい」
その『周』と呼ばれた美少年もまた、孔明に負けず劣らず、涼しげな表情をした男だった。
「ショックプロダクションのプロデューサー様、私たちの考えはこうです。ショックプロダクションは我がGOプロダクションに吸収合併されるべきである……と……」
不敵な笑みの美少年。孔明の眉はぴくりと動いた。




