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〜第12話〜5人の1st ステージ

「あのお、本当に忠野黄子さん……、なんですよね?」


 張花は強張った声で聞く。


「はい、忠野黄子です」


 黄子は丁寧にお辞儀をした。


「ですよねえ。うわあホンモノだよ!!すごいよ!!」


「……オマエ興奮しすぎだぞ」


 孟姫が少し呆れて言う。


「だって忠野黄子だよお!!今一番人気のファッションモデルだよお!!」


「……まあ凄いとは思うけどさあ」


「バモ、なんでそんなにテンション低いんだよ」


「え?私はファッション誌とか読まないからさあ」


 ダンス一筋で、と。


「オイオイ。年頃の女子高生が情けない……しかもアイドルなのに……」


 張花は呆れる。そして、あとの2人も自分ほどテンションが上がっていないことに気がついた。


「……龍、そんなにテンション上がってない?」


「うん、龍子、雑誌はマンガしか読まないし」


「そうだよねえ……」


 11歳の少女を見て、張花は当然だと納得する。

 そして張花の目はニコニコと笑うもう1人の顔に注がれる。


「美羽、アンタはなぜにそんなにテンション上がってないの?」


「私、本好きだけど。主に小説しか読まないから」


「……ちょっと待って。ここアイドルグループだよねえ。なんでトップモデルが加入したのにテンション盛り盛りが私1人だけなんだーーーっ!!」


 張花は叫ぶ。

 黄子は静かに前に出て言う。


「ふふ、わたくしはそんなに驚かれるほどの大物ではないということです。気軽に下っ端として接して下されば」


「いや、そんなことできるわけないですよ。これはどう考えてもアソコの3人が悪いです」


 張花は孟姫、龍子、美羽を指差して言った。



◇◇◇



「皆さんお揃いですか」


 ショックシアターの扉を開けて孔明が現れた。皆、孔明の方を向いて挨拶する。孔明は足を止めると、そっとこう言った。


「そろそろ時期だと思います」


「「…………?」」


 5人の頭にはてなマークが浮かんだ。いったい孔明が言っているのが何の時期なのかわからなかった。特に龍子などが恐ろしく不思議な顔をしていた。

 孔明は静かにこう続けた。


「来週の土曜日、我々5人、初のショックシアター定期ライブを行います」


 5人の表情がパッと変わった。そしてお互いに微笑みあった。が、ここで張花が不安を口にした。


「でも、孔明くん。急に定期ライブをやって大丈夫なのか?今やっと私たちが聞いたくらいだから、他は誰も知らないだろ。これから来週の土曜日で人が来るのか?」


「……告知ならしたじゃないですか」


「え?」


「アイドル新人王戦で」


 5人の頭にあのときの情景が浮かぶ。確かに孔明はしれっとショックシアターで定期ライブをやる旨を発表していた。が、皆思った。「アレで告知完了?」と。


「……そりゃあ定期ライブはやるつもりだって構想は聞いていたけど、もう来週に始めちゃうなんて、心の準備が」


 美羽は胸に手をやる。


「ふん、私はいつでもいいわ」


「わたくしもお役に立てるように頑張ります」


「龍子、超ガンバルよー」


 各々が意気込みを口にする。

 美羽は他の4人を見ていて不安が薄れてきた。

 4人が4人とも一流の腕を持ったすごいアイドルであるし、ストリートダンスで名をはせた孟姫、人気モデルの黄子がいるからきっとお客さんもたくさん来てくれるだろう。少なくとも張花とふたりの頃よりはずっと。

 そう考えると美羽はワクワクしてきた。


「ところで、孔明くん」


 張花が手を挙げる。


「グループ名は?」


「え?」


「いや、5人になったしグループ名を考えないと」


「ええ、それは」



「【5人組】とかじゃないよねえ?」


「……」


 孔明が黙って目を逸らす。


「あのお孔明くん、実を言うけどアイドル新人王戦の【4人組】ってすんごい微妙だと思った」


「わかりやすくはなかったですか?」


「わかりやすいけどさあ……」


「ぜんぜん可愛くないよ」


 龍子は正直に言った。


「はは、大丈夫です。もっといい名前は用意してありますから」


「ほんとお?」


「何か、こういうときの孔明さんって普通めちゃくちゃいい策を用意しているはずなんだけど、今回ばかりはすんごい嘘くさい」


 美羽まで、こんなことを言い出した。



◇◇◇



 それから次の週の土曜日まで美羽たちの猛練習が始まった。

 脚は痛み、指の先には豆ができたが、5人は逆にそれが楽しかった。

 練習中にスポーツドリンクをまわし飲みして笑いあった。

 あっという間に日々は過ぎていった。



◇◇◇



 幕が閉められたステージ。5人はキュッと唇を結び手を重ねていた。


「なんかあっという間だったなあ」


 張花が言う。


「不安なのか?」


「……ちがうよ。めちゃ楽しみすぎて」


「ならいいが」


 孟姫はふっと笑う。


「龍子も楽しみー」


「わたくしも胸が震えます」


 黄子は目を閉じて手を胸にやる。

 皆、不安よりも期待が優っているようで美羽は安心した。


「さあ、それじゃあ音頭を頼むリーダー」


「……私っ!?」


 張花の言葉に美羽は驚く。


「私がリーダーってその……」


「何言ってんの。美羽以外いないでしょ」


「龍子もいいと思うよー」


「わたくしもそれがいいと思います」


「異存ない」


 他の4人の目線に戸惑っていた美羽だが、やがてその顔は力強い表情に変わった。


「それじゃあ、皆、私たちの第一歩目、とってもいいステージにしよう。ファイト!!」


「「オーーーー!!」」


 5人の声が響く。そして間も無く開演を告げるブザーが鳴った。

 静かに幕が開いていく。

 ライトアップされたステージから美羽は期待に膨らんだ目で観客席を見下ろす。

 そこに観客は、誰1人見えなかった。

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