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〜第11話〜5人目のなかま

 ショックシアターから徒歩30秒くらいにある雑居ビルの2階。

 ここにショックプロダクションの事務室はある。

 機材や衣装が雑然と置かれたこの部屋で玄野はため息をついた。


「孔明さん、いくら何でもこれは無謀すぎると思います……」


 ギャラクシープロ主催のアイドル新人王戦の壇上でショックシアターのライブの告知を行うという暴挙を行った孔明。


「他プロダクションなのにエントリーしただけでも睨まれるかもしれないのに、あそこまでやれば喧嘩を売っているも同然です。……おそらくこれで我々はあらゆる場所での芸能活動を制限されるでしょう。テレビもライブも雑誌も私たちが出れる場所はもうありません……それくらいギャラクシープロはアイドル界を牛耳っているのです」


 玄野がこれだけ言っても目の前の孔明は涼しい顔をしている。


「ギャラクシープロに睨まれて芸能活動を制限されたとしても、私たちにはショックシアターがあります。私の最初の目標はこのショックシアターを満員にすることです。そうすれば、自ずと道は開けるでしょう」


「しかし、これは……」


 玄野はうかない顔を浮かべ続ける。


「まぁ心配せずに待っていてください。この間私がアイドル新人王戦でやったのは、いわゆる狼煙をあげる行為です。じきに、この狼煙に反応してくれるでしょう」


 ……誰がですか?と玄野が孔明に聞こうとしたとき、ショックプロダクションの事務所の電話が鳴った。ショックプロダクションは小さな事務所であるため、事務員はひとりもいない。

 孔明は自身で受話器を取った。


「……はい……はい……それは……わかりました」


 孔明は何度かうなづいた後に受話器を置いた。


「……孔明さん、どなたからですか?」


 そう玄野が聞いた瞬間だった。

 コンコンと事務所のドアが叩かれた。


「はい」


 孔明は玄野からの問いかけに応えることなく事務所の扉を開いた。

 そこには、白いワンピースにふわりと広がった帽子を被った女性がいた。

 彼女の肌は透き通るように白く、目はぱっちりとしていて鼻筋は通っている。とてつもない美人だった。


「あ、あなたは、アイドル新人王戦で壇上に上がったあの!!」


 女性はいきなりぎゅっと孔明の両手をつかんだ。


「まさかいきなり出会えるとは。わたくしあのときは大変感動いたしました!!」


「……はあ」


 その美人の彼女の恐ろしく高いテンションに孔明は彼には珍しく困惑した表情を見せた。


「……あなたは、モデルの忠野黄子ちゅうのきこさんではないですか?」


 玄野が驚いて聞いた。


「はい。そうでございますが」


「……玄野さん、お知り合いですか?」


「何を言っているんですか?今女性向けファッション誌で引っ張りダコの、超人気モデルです」


「へぇーそうなんですか」


「孔明さん……本当に芸能界には疎いんですね……」


 玄野は少しあきれたように言った。


「わたくし、アイドル新人王戦を観覧していたのですが、【4人組】さまが出てきたときに稲妻に打たれたような衝撃を覚えました。圧倒的なパフォーマンス力、圧倒的な生命力、そして圧倒的な可愛さにい!!」


 胸に手をやり力説する黄子。彼女はさらに続ける。


「そして最後に壇上で大手プロダクション社長に思いきり喧嘩を売ってみせる少年プロデューサーの勇ましさ。このときわたくしのエモーションは絶頂に達したのです」


 彼女は見えない何かを思いきり抱きしめながら言った。


「忠野さんは審査員か何かだったのですか?」


「いえ、ふつうに一般観覧で行きました。わたくし、アイドルイベントに行くのが好きで好きでたまらないので」


「そうなんですか……」


 黄子の意外な趣味に少したじろぐ孔明。


「そんなショックプロダクションの皆様の姿を見て、私は思ったのです。是非とも皆様のなかまになりたいと」


「「…………え?」」


 ばーんと言った黄子にふたりの目は同時に点になる。


「わたくしは最近25歳になりましたので、アイドルとしては無理でしょうが、事務員や雑用係としてでも是非お手伝いをと」


「ちょっと待ってください。それはできませんよ」


 玄野はたじろぐ。


「だめでしょうか?」


「ダメですよ。超人気モデルの忠野さんを事務員でなんて使えるわけがないでしょう」


「事務所の問題でしたら、わたくし元々フリーでやっておりますので大丈夫だと思いますが」


「いや、そういう問題じゃなくて」


 玄野は困ることしかできない。そのとき孔明の口がゆっくりと動いた。


「いいんじゃないでしょうか」


「……え?」


 玄野は驚いて孔明の方を向いた。


「私は忠野さんがなかまになることに賛成です」


 黄子は目を輝かせる。


「本当ですか。わたくしを事務員にして下さるんですね」


「いいえ……」


 ここで孔明はバッと扇子をはためかせた。


「アイドルとして、忠野さんにはなかまになっていただきたいと思います」


 その瞬間、黄子はその端整な顔立ちを少しだらしなく崩した。


「……本当ですかあ〜!!」


 黄子はぶんぶんと孔明と玄野の腕を交互につかんで握手をしながらふりまわした。そして事務所をぴょんぴょんと跳ねだした。


「……いいんですか?」


 玄野は孔明に言う。


「ええ。彼女はガッツもあり、経験も豊富そうです。関さんたちは才能はあるといえどもまだまだ経験不足です。よい柱になってくれるでしょう」


「……そうですか」


「それに、『四』は陰の数字で縁起が悪い。『五』は大変縁起のよい数字です」


 そんな理由で?と玄野は孔明を見た。しかし、人気モデルの黄子がアイドルとして加入したというのは大きな話題となるだろう。もしかしたらこれがきっかけでショックシアターを満員にし、さらに飛躍していけるかもしれない。


「……これが孔明さんの言っていた、狼煙に反応してくれる人ですか?」


「いいえ、正直これは予想外です。が、まあ……たまにはいい予想外というのもあるものですね」


 孔明はふふと笑った。

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