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〜第10話〜アイドル新人王戦決着

「いやあ、お客さんたち盛り上がってくれたねえ」


 ステージを終え、控え室に戻ってきた美羽がにっこりと言う。


「アウェーの現場だから心配してたけど、お客さんはそんなこと全然気にしてなかったみたいでよかったわー」


「龍子、お客さんいっぱいで楽しかったー」


 張花や龍子も意気揚々としている。


「いや、全然喜べるような内容じゃないわ。みんなところどころリズムがズレていたし、私自身も身体のキレがイマイチだった……。反省点は多いわね……」


 こう言った孟姫をにんまりと張花が言う。


「孟姫、口元緩んでるぞ」


「…………え?」


 孟姫は慌てて口元に手をやる。


「バモちゃんも、お客さんいっぱい歓声くれて嬉しかったんだね」


「……違う!!そんなわけない。それに『バモちゃん』はやめろって言っただろう」


 孟姫は顔を真っ赤にして叫んだ。ここで張花が何かを思い出したように言う。


「……ところで孔明くんがつけたユニット【4人組】って……」


「うん、まんまだよね」


「……ちょっと可愛くないかなあ……」


「孔明、そういうセンスはないのだろうな」


 4人は孔明のネーミングセンスのなさについては、完全に一致した。


「皆さん、お見事でした」


「あっ、噂をすれば孔明くん」


 関係者パスを首にぶら下げた孔明がやって来た。


「孔明さーん、あのユニット名なんだけどお」


 龍子が切り出そうとすると孔明は笑って扇子を仰いだ。


「いやあ、わかりやすくて良い名だったでしょう。まぁ礼には及びません」


「「……」」


 4人が閉口したので、孔明は「おや」となりながら、話を変えた。


「それにしても良いステージでした。皆さんの可愛いさに、観客は大盛り上がりでした」


 孔明らしくない褒め方に、皆、顔を赤くして喜ぶ。孟姫も決して表面には出さないが、顔は真っ赤だった。


「…………まぁステージ自体は最高だったが、これ優勝できるのかな?」


 張花が首をかしげる。


「多分無理だろう」


 孟姫が言う。


「これはギャラクシープロの出来レースなのだろう。ならば、どんなに歓声を受けようとも私たちが優勝できるわけがない。まぁ、歓声を受けただけでヨシとするところだろう」


 孟姫の言葉に、孔明は意味ありげにふふと笑う。


「皆さんは想定以上のパフォーマンスを見せました。ここからは私の仕事です」



◇◇◇



 アイドル新人王戦も終わりに近づこうとしていた。

 全参加者のパフォーマンスが終わり、ステージには全参加者が集結していた。

 もちろん美羽たちもそこにいた。


「第20回、アイドル新人王戦、優勝者は…………」


 司会者が叫ぶとドラムロールが鳴り、スポットライトが目まぐるしく動く。


「…………エントリーナンバー14番、【ギュッとしてゴールド】です」


 スポットライトに当たった女のコたちが歓喜し、会場は拍手に包まれた。

 少しは期待していた美羽たちも、仕方ないなという表情に変わっていた。


「ちょっと待っていただけないでしょうか」


 拍手をさいて、ステージ上にマイクを持った少年が割り込んできた。


「……孔……明……さん?」


 美羽は目を丸くした。


「どうも皆さますみません。私は、エントリーナンバー11番【4人組】のプロデューサーなのですが、皆さまはこの結果をどう感じていらっしゃるでしょうか」


 ざわめく会場。ステージ脇から男たちが顔を出し。「なんだあの子供は」「つまみ出せ」の声が聞こえる。


「今日の出場者の中で最も会場をわかせたのは誰か……実は皆さんはご存じではないでしょうか」


 こう孔明が言ったところで、ギャラクシープロダクションのスタッフが孔明の肩に手を掛け、無理やり舞台そでへと引っ張っていこうとした。美羽たちはこの事態にあわあわとするしかなかった。


「待ちたまえ!!」


 そのとき、会場にマイクの声が響いた。

 その声の主は関係者席でマイクを握って立つ曹田のものだった。


「キミは、この結果に不服なのかね?」


「……いえ、結果に不服なのではなく、私のアイドルたちが素晴らしいパフォーマンスをしたということをただ大声で叫びたかっただけです」


 孔明はにやりと笑いながら続ける。


「そして、会場には私たちのアイドルのパフォーマンスをもっと見たいという方が大勢いると思われます。そんな皆様に朗報です。われわれ、ショックプロダクションのアイドルは、毎月第2、第4土曜日に定期ライブを行なっております。場所はショックシアターという素敵な劇場です」


「おい待て、誰が宣伝をしていいと言った!!」


 このギャラクシープロの膝もとで、と曹田は激しく言う。


「……すみません。口が滑りました。……ではこれにて私は失礼いたします。皆さま、貴重なお時間ありがとうございました」


 のうのうと言い、スタッフに引きずられていく孔明。美羽たちはどうすることもできず、居心地が悪そうに下を向いていた。


「キミ、名はなんと言う?」


 曹田が孔明を見据えてそう聞いた。孔明は顔を上げてふっと笑う。


「田中……孔明と申します」


「……孔明くん。覚えておこう」


 曹田はそう言うと静かに座った。 

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