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妖精に導かれて異世界行ったら勇者に(文字数  作者: 一話で書きたい所全部書いたみたいなところある
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圧縮魔力砲訓練


 翌日、帆邑は訓練室を訪れ、見知らぬ二人の少年少女、ジギルとリナリアに気付く。リナリアが他の勇者候補と同じ制服であるのに対し、ジギルは白シャツに黒いズボンという格好だった。手には縄を持っている。リナリアは左手にのみ白の手袋をしているが、身体で隠しているので帆邑からは見えない。


「あれ? ケイナは?」


「あの子もいつも暇って訳じゃないんだ」


「へえ。で、誰なんだ?」


「僕はジギル・タリス」


「私はリナリア・タリス」


 その言葉に帆邑はマリーから聞いた話を思い出す。


「その二人か! 昨日は迷惑かけて悪かった」


 帆邑の言葉にリナリアは首を横に振る。


「覚えてるの?」


「いや、マリーから聞いた」


「なるほどね。じゃ、修行を始めるよ」


「頼む」


 ジギルは帆邑の言葉に頷くと、魔法陣の描かれた床を指す。チョークで書かれたらしく、近くにチョークが転がっていた。


「ここ座って」


 帆邑は頷くと、魔法陣の中に座る。


 ジギルはリナリアに縄を渡すと、帆邑の前に座る。逆にリナリアは帆邑の後ろで屈む。


「あの、両手を後ろで上げてもらって良いですか?」


「あ、ああ」


 帆邑は背の後ろで両手を少し上げると、リナリアはその両手を縄で縛っていく。


「暴走した時の予防にね。縛って、魔法陣の中にいてもらう」


「分かった」


「まず、『自我』と『魔力』について、大部分を削らないようにやって。君の加護魔法は『自我』と『魔力』を犠牲にすればするほど威力が増す。けれど勿論『魔力』を全て犠牲にすると、加護魔法を使役し続ける魔力が無くなる。逆に『自我』を全て犠牲にすると、昨日のようなモンスターになる。状況次第じゃ有りだけど、決闘での使用を目指しているんでしょ?」


「ああ」


「なら制御は出来た方が良いだろうね」


 リナリアが縄を結び終わって立ち上がる。それを見てジギルも立ち上がる。


「さ、どうぞ」


 帆邑は静かに頷くと集中する。マリーも黙ってそれを見届ける。


「ソティス」


 たった一つの言葉が宙に魔法陣を描く前に、体内から何かを失う感覚がある。その感覚を鋭敏にさせていく。失うものが何なのかを刹那の中で確かめていく。そうして脳裏に焼き付いた鮮血の記憶へ如何ほどの意識を持っていくかを考える。一つだけ、その意識で一瞬で奪われた意識以外全てを手元から零さないようにと意識を堅牢にしていく。


 宙に魔法陣が描き終わると共に、帆邑は目を見開く。体内から何かを失う感覚が強くなる中で、意識をより鮮明なものにしていく。


「オォオオオオオオオオ」


 声と共に、変貌が始まる。周囲に青い光が舞い、四肢が凍り、髪が凍てつく。そして氷中に赤い線が奔る。ただし赤い線は依然よりも少なく、瞳は黒のままで保たれている。


 ジギルは帆邑の顔へ手を向ける。


「ふう」


 帆邑は一息吐く。


「成功じゃないか?」


「みたいだね。確実に出来るようになれば安心は出来るかな」


「ああ」


 ジギルは手を下げる。


「さて、君の能力は暴走の時にざっと理解しててね。氷の制御が出来るみたいなんだよね。って訳で、その縄を切ってみて。じゃあね」


 ジギルはそう言うと訓練室のドアへ向かう。しかし思いつくと立ち止まる。


「あ、妖精の君、君は外に出て」


「どうして!?」


「邪魔だから。って訳でよろしく」


 ジギルはそう言うと、訓練室のドアを開き、マリーを待つ。


「うー。しょうがない。頑張ってね、帆邑!」


「おう!」


 マリーは渋々訓練室から出て行き、ジギルはその後に出る。


 ――さて、仲良くなれば良いけど。


 ジギルはそう思いつつ、賭けだなと笑う。


 室内にはリナリアが残っていた。


「リナリアだっけ? 良いのか?」


「はい。私は見守る役です」


「なるほど」


 帆邑は頷くと、精神を集中させる。






 一時間が経過した頃、帆邑は大きなため息を吐いた。


「出来ない……」


 どうにも加護魔法を発動している間は凍傷などの心配は無いらしい。そして、最初に加護の糧とした魔力が少なかったために、加護は一時間たっても正常に継続していた。勿論、加護を受けている間に魔法を発動すれば、加護魔法に割く魔力が減少し加護魔法の持続時間が減る。そのことから考えても、帆邑は魔力を無駄にするレベルの失敗も出来ていない。


 帆邑は後ろを向いて、黙って成功を待つ少女を見る。


「リナリア、暇じゃないか?」


「いえ、大丈夫です」


 リナリアは体の後ろで手袋を掴み、兄の言葉を思い出す。


 彼と仲良くするのがリナリーの仕事だ、良いね? と、そんな言葉は今でも耳に残っている。だからこうして、本来は絞り出さない勇気を絞り出す。


「あの、成功したイメージを明確にすると良いと思います……」


「なるほど」


 帆邑は脳内で成功したイメージ、つまり手が縄で拘束されていない状況に導く手順を明確にしてみる。まず鋭利な形状の氷を生やし、それで縄を切断。晴れて手は解放される。


 言うは易いが、想うには難い。何より、背中で結ばれてはどのような結び目なのかの想像すらままならないのだ。


「背中じゃ無けりゃあなぁ」


「その為に背中で結んだんだと思います」


「な、なるほど」


 ――嫌がらせかよ。


 帆邑は心中で悪態をつくと、精神を集中させる。何より、リナリアにこれ以上つまらない想いをさせるのは申し訳ないと思ったのだ。


「よし……」


 覚悟一つあれば事足りるのだった。鋭利過ぎれば、肌に突き刺さると痛い。その恐怖が魔法の成功を阻んでいたに過ぎない。怪我を恐れなければ問題は無かった。


 手首から鋭利な氷柱が生えて、縄を切断する。そうして晴れて両手が解放されると、立ち上がって両手をあげる。


「よっしゃできたー!」


 しかし一時間も座った状態からいきなり立ち上がって為に、足がもつれて体勢を崩してしまう。リナリアは慌てて帆邑を抱き留めて支える。


 少しの間の後、リナリアは帆邑と密着していることに気付き、距離を取ると頭を下げる。


「すみません!」


「いや助かった。ありがとう」


 人生でもあれほど女性と密着したことはなく、帆邑は心臓を抑えつけるのに必死だった。


「えっと、次は?」


「あ、魔力弾の特訓らしいです!」


 リナリアは壁に置いてあるパネルを取る為に走り、そうして赤い顔を隠すことに成功した。


「魔力弾?」







 昼を越え夜も始まる頃に、訓練室のドアが開く。


 そうしてジギルとマリーが訓練室内に入っていく。ジギルとしては訪れるつもりは無かったが、マリーが様子が見たいと何度も言ってくるので、諦めて訓練室を訪れることにしたのだ。


「ただいま。どんな感じ? って、あー……」


 まず目に入ったのは地面に伏している帆邑で、次にパネルを持っているリナリアだ。


「魔力切れ、みたいで」


 マリーは帆邑の周りを飛んで様子を見る。


「ダウンしたの?」


 マリーの問いに帆邑は顔を上げる。


「いや、まだ……」


 ジギルはそう光景に吹き出す。


「アハハハハハハハ! まだ行けそうだね。頑張って」


「え?」


 帆邑は思わずジギルの顔を見る。満面の笑みだった。


「頑張って」


「はい……」


 体内にはもう魔力が殆ど無く、成功する筈も無い。しかし帆邑は立ち上がった。







 決闘まで一週間を切った。


 ケイナはその日、訓練室を訪れることとした。ジギルが帆邑に対して指南を始めてから10日以上過ぎているが、ケイナは一度も訓練室を訪れず経過を聞くことも無かった。期間を開けることで、楽しみを先延ばしにしていたのだ。ケイナはショートケーキの苺を最後に食べる。


 訓練室で、帆邑が右手をパネルへ向ける。それと共に帆邑の掌にあった魔力の塊がリナリアの持つパネルへ飛んでいき、パネルを砕きに至る。


「へえ……」


 リナリアはすぐに魔法で新しい白いパネルを生成する。


 ジギルは壁際に座り、壁に寄りかかって欠伸をしており、マリーは帆邑は応援している。


 ケイナはジギルへ目を向けると、ジギルへと歩き、隣に座る。


「どう?」


「見ての通りだね。魔力弾はある程度の精度で安定してる。実戦レベルではあると思うよ」


「あはは、暴走してた時にやってたヤツでしょ、あれ? 魔力を圧縮して飛ばすだけ。正確には魔力弾じゃないよね」


 ケイナの言葉にジギルは頷く。


「うん。魔力弾に比べて破壊力に乏しい。弾速は問題無いんだけどね」


「そして何より、魔力を使い過ぎる。簡単だからあの、圧縮魔力砲を教えているの?」


 圧縮魔力砲という明らかに今付けた名前をスルーして、ジギルは首を横に振る。


「ううん、魔力を使い過ぎるから教えてる」


「どういうこと?」


「彼の加護魔法は『魔力』と『自我』を捨て去れば捨て去るほど強くなる。全て捨てれば、僕らを圧倒するくらいになる」


 ケイナはジギルの言葉に「うん」と頷く。二人さえ圧倒するのは既に体感しているからだ。


「でも、それじゃあ決闘にならないでしょ? 何より、見物人を殺しに行くようじゃ面倒だし」


「あはは、確かにね」


「だから、加護魔法を使うまでに『魔力』を減らしておく」


「なんで?」


「どうにも、『魔力』と『自我』を等しく捨てるのは楽で、逆にそれぞれをそれぞれの値で捨てるのは難しいようなんだよね」


「『魔力』を沢山捨てて、『自我』はあんまり捨てないとかが難しいって話?」


「そう。そしてその逆も然り。更に言えば、恐らく彼が加護魔法を使った際に『魔力』を少ししか捨てないのなら、『自我』は恐らく少ししか捨てていない」


 ケイナはジギルの言葉に納得する。


「なるほどね。つまり万が一にも彼が暴走しないように、加護魔法を使う前に『魔力』を減らしておくってことか」


「そう」


「でもじゃあ、加護魔法を発動する為に『魔力』全てを犠牲にしてしちゃったらどうするの? 加護魔法が発動と同時に終了するような、本末転倒になったら」


「その時は、負けだね。でもしょうがない。彼が欲しがっているのは自分の妖精さえ殺す可能性のある力じゃない。あの妖精を守る力だ」


「妖精ねぇ」


 ケイナはマリーと帆邑を見て、呆れる。


「ホムラさん! すごいです!」


「いやぁ、ありがとう。俺って才能あるなぁ~」


「あります! 世界一です!」


 リナリアの褒め言葉の嵐にマリーはため息を吐く。


「言い過ぎでしょ」


「世界一かぁ。異世界なんだよなぁ」


 そんな会話聞いて、ケイナはジギルを見る。


「随分と仲良くなったみたいだね?」


「うん」


「計算通り、かな?」


 ケイナの問いにジギルは笑顔を見せる。


「ケイナさんは、自分の持ち物が突然壊れちゃったりしたら、困る?」


 ケイナは少し考える。


「その持ち物が君で、その命の使い方が美しければ困らない、かなぁ」


 ジギルは立ち上がり、振り返ること無く言葉を残す。


「ありがとうございます」


 ジギルはそれだけ言うと訓練室を立ち去る。ケイナは彼を横目で見送った。

フォレストレンジャーかっよすぎた。

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