妖精と異世界へ!
例えば朝が来ないとしたら。あるいは春が来ないとしたら。そんなもしもをあげれば、「絶望」という言葉に届くだろうか。
絶望とは常に他の何かで測れず、掴めず、あやふやなままでそれとなく理解する以上は及ばないものだ。
一人リビングのソファに座る少年、神土帆邑(かぐつち ほむら)は現在、絶望していた。大切なものが、目の前でまざまざと砕け散ったからである。
絶望故に無造作に伸びた髪は目に届きそうだった程の筈なのに、俯いて顔を隠しているし、あまり肉付きの良くない身体はパジャマに包まれて身体を支える以上の行動を示さない。
話は変わるが、地震大国日本に住んでいると、震度3程度では動じなくなってくる。日本生まれ日本育ちという生粋の日本人、帆邑もまた動じることは無かった。だからこその油断。
DVDを取り出す際に僅かに身体をよろめかせた揺れは、その手に持っていたDVDを落とすに足るものだった。
そこに、無造作に置かれたゲーム機が落下したとしたら。
それはそれとして、彼は今大切なものを失った。それを何度も再生した思い出も鑑みれば、替えのきく物では無い。まさにオンリーワンだったのだ。
そんな絶望の淵、視界の隅に妖精が煌びやかな羽を動かしていたら、何を思うだろうか。
「神土帆邑……だよね?」
その呼びかけに帆邑は体の向きを変えて妖精を見る。
帆邑の顔程しか無い躰も、起伏の無い胸も、尖った耳も、綺麗な緑色の髪も、煌びやかな羽も、白いワンピースも、頭に巻いた花輪も全て含めて、彼は妖精だとすぐに認識した。
――ああ、妖精か。
そう認識すると、帆邑は頷く。
「――ああ」
あまりに力の無い声に、妖精は思わず不安になる。
「えっと……大丈夫?」
「大丈夫……大丈夫さ」
――男は悲しみを隠す生き物だから……。
かっこいい台詞さえ心の内に仕舞い込んで、帆邑は残骸を片付けていく。それは最早切り落とした爪や髪と大差が無い筈なのに、無残な姿になってなお、帆邑には愛おしく思えた。だからこそ丁寧に、愛を込めて処分するのだ。きっとどうとも形容出来ない感謝と共に。
帆邑は一通りの処分を終えると、ソファに座る。
「それで、何で来た?」
手を振って会話を促進させようとすると、妖精が驚いているのに気付く。
「ず、随分落ち着いてるんだね……」
「落ち着いてるっつうか、投げやりなだけだ。で?」
再度の問いに妖精は「うん」と頷く。
「予言があったんだ。『妖精は勇者を誘うに足り、勇者は姫を救うに足り、姫は世界を救うに足る』――と、ね」
「つまりマリーは俺を誘って、俺は勇者になる。で、姫を救うってことか?」
「うん」
「誘うってのは、具体的には?」
「僕の住む世界に連れていく」
「ほう」
意図せず声が出ていた。それくらい帆邑にとっては魅力的な提案だった。
「やめとけ」帆邑は断言する。
「どうして?」
「勇者ってのが何か分からないが、ヒキコモリのニート野郎には務まんないだろうよ」
異世界に行けるのは、魅力的だ。逃げ道として、最高だった。帆邑は今では普通を手にすることさえ月に手を伸ばすようなものに思える。けれどゲームを始めるみたいに、ゼロから始められるのなら、今まで溜めたマイナスは全て帳消しに出来る。
けれど、そんな人間は勇者にはそぐわない。そんな人間を連れてくれば、マリーは笑い者だろう。
「そうなったのは、どうして?」
その質問は、そうなるに足る理由があるのだろうという考えの下にあるように思えた。少なくとも帆邑には。だからこそ嘘を吐いてでも否定したくなった。どれほど矮小で、価値の無い人間なのかを説明したくなった。
「そりゃもう、名前の所為だ!」
「名前……?」
「分かるだろ!? カグツチときて、ホムラと来てる! 古事記エアプみたいな名前じゃねえか! いじめられるに決まってんだろ! ほら、縁起も悪そうだしな!」
捲し立てる言葉は水が手から零れ落ちるように掴めず、口にする価値すら感じられない。マリーは黙って聞いて、その最後に首を横に振る。
「でも僕、決めたから」
それはまるで、その価値を知っているとでも言うみたいな表情で、きっと言葉さえ要らなかった。
その表情一つで帆邑は嬉しくなってしまうし、これ以上ごねる気も、断る気も失せる。
分かり易く肩を竦めて、諦めたような表情を置いてから、口にしたい言葉を口にする。
「分かったよ」
帆邑の言葉にマリーは嬉しそうに宙を回って、笑う。
「うん。じゃあ、行くよ!」
「もう行くの!?」
「うん!」
マリーは空を掴んで、穴を出現させる。それから帆邑の後ろに回り込んで背を押す。
「行くぞー!」
「待て待て……」
帆邑は全力で重心を後ろにして足で前に進まないように踏ん張る。
「何してんのさ!」
「心の準備が要るんだっつうの!」
しかしマリーは手を離して後ろに下がり、帆邑は予想外の状況に後ろに倒れそうになる。そうして無防備な帆邑の背中めがけてマリーは突っ込み、勢いそのままに彼らは異世界の扉へ飛び込む形となった。
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
絶叫を残して。
グランブルーファンタジーのルリア本当にかわいい。
ルリアの為にやってるみたいなところある。アニメ見るとそれを再確認出来る。
運営はルリア見習って、どうぞ。