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第19話 本能と理性のせめぎ合い。

「漫画、どれを読みたい?」

「あ、じゃあさっきのこれを……」

「あれ、この漫画は結局カモフラージュのために読んでなかったんじゃないの?」

「あ、それは、その……この漫画もある程度読んでいたのよ。それでも、咲良くんは席を立ったときは痴的好奇心が疼いちゃって……」

「字がおかしい、字がおかしいから。……いや、合ってるのか……?」

「……疼いちゃって……」

「……この状況下でその言葉だけ繰り返す勇気に尊敬さえ覚えるよ」

「…………」


 絢音が顔を真っ赤にして俯いた。咲良は自分の心の内で嗜虐心がものすごい速度で芽生えていることに気付く。このままでは色々とまずいな……と思いながらも、今の状況は興奮と緊張と期待感に溢れすぎていて、正直やめるにやめられない。


「じゃあ、これ読もうか」


 言いながら、咲良は漫画の左端を左手で持つ。絢音は初め首を傾げたが、やがて咲良が何を意図しているのかに気付き頬を赤らめた。視線を泳がせしばらくの間逡巡したかと思うと、漫画の右端を右手で持つ。自然と寄り添う形になり、二人の身体は更に密着した。


「えっと、どの辺まで読んだの?」

「ん、確かこの辺りの……ああ、ここまで読んだわ」


 ページを絢音が捲る度に、互いの親指が微かに触れる。羽毛が触れる程度の刺激にも関わらず、平静を装っているつもりの二人の声がまるで冗談のように上ずる。


「そっか、じゃあ、絢音が捲りたい時に捲っていいよ」

「わ、わかった……わ……っ」


 ……咲良くん、気付いてない……?


 使っていない咲良の右手と絢音の左手の小指が、微かに触れている。絢音は何度も咲良の顔を見るが、咲良は敢えて漫画に視線を集中させているのか目が合わない。


 ページをゆっくりと捲っていく絢音の手が震えていても、咲良は何も言わなかった。咲良の手も僅かながらに震えていた。


 二人の小指が重なり、つがいの小動物のように愛くるしく絡み合う。咲良の頬が朱に染まり、絢音は白い首筋まで赤くなった。


 2人の会話が止まる。沈黙も心地良いな……と咲良は思うが、今は目の前で展開される漫画の世界よりも、右手に起きている大事件の方が遥かに重要だった。


 小指のみで絡まっていた咲良の右手が、そっと絢音の左手を握る。


 ……うわー、うわー、うわー! 女の子の手って、こんなに柔らかいの? 何これ……!


 咲良は頭がおかしくなりそうなほどの興奮に目を回していた。

 絢音をちらりと見ると、咲良の比ではないほどに目を回していた。


 しかし、目を回しながらも、絢音は咲良の右手に指を絡めてきた。互いの五本指がぴったりとくっつくと、絢音が身体を寄せてくる。


 二の腕だけでなく、たわわに実った双丘が押し付けられる。ワイシャツ越しとはいえ下着を着けていないためとてつもなく柔らかい感触がして、咲良の鼓動が数値を書き換えられたかのように跳ね上がった。


「……咲良くんにくっつくと、何か安心するな……」

「え……っ」


 咲良の驚いた声に、絢音は今自分が心の声で独り言ちたつもりの言葉が実際に口をついていたことに気付く。


「な、なんでもないわ。心の声がだだ漏れだっただけだから……っ」

「それ言わなくてもよかったよね!?」


 咲良は大混乱に陥った。

 お互い顔を更に赤くしながらも、絢音は咲良の肩に体重を預け、首をこてんと傾げた。甘やかな香りが咲良の鼻腔を擽り、繋いだ手に一層力が篭る。


 咲良は漫画を置いて閉じた。絢音の喉が小さく鳴る。

 繋いでいた手を離し、絢音の右肩に手を添え、ぐっと抱き寄せる。「あ……っ」という儚げな声を聞こえた。

 咲良の右手が二の腕を下り、脇腹に添えられる。絢音の身体が小さく震える。


「あ……うぁ……んっ、ふぅ……っ」


 やがて絢音のへその上に手が移動すると、絢音は泣きそうな声を咲良の耳元で漏らした。


 ……絢音、抵抗してこないな……どこまで行けるんだろう……?


ワイシャツのボタンを一つ開けて、隙間に手を滑り込ませてすべすべの肌を撫でる。ほんの10分前までの2人ならまず至らないであろう行為も、熱に浮かされて非常識だとはまるで思わない。咲良の指が絹のような肌を撫でるたびに、絢音は咲良に顔を寄せて熱い息を吐きかけた。


「ぅ……あ……はぁぁ……っ」


 いつもの凜とした声も、動揺した時の可愛らしくて幼い声も鳴りを潜め、咲良の知らない、女としての絢音の声が咲良の耳朶を犯す。

 吐息一つ一つが咲良の耳から脳内に染み込み、何も考えられなくなっていく。

 咲良がお腹を撫でる手を離し、豊満な双丘のすぐ下に手を置いた。


「……ぁ……っ」


 じりじりとにじり寄ってくる手に、絢音は視線を下ろしてこくりと息を呑む。咲良は絢音の僅かな表情の変化も、拒絶の仕草も見逃すまいと蕩けた顔をじっと見つめる。


 絢音が咲良の熱っぽい視線に気付き、顔を上げて目が合った。二人の顔が縫い付けられたかのように固まり、互いの瞳孔まで見えるほど近くで、吐息が鼻腔をくすぐるほど近くで見つめ合う。


 咲良の手は、あとほんの数センチ動かせば、ワイシャツ越しにたっぷりとした量感と瑞々しい張りのある鞠に触れてしまう。咲良は絢音の反応を窺った。


 絢音は……拒否もせず、かといって受け入れる言葉を言うでもなく、ただ、切なげに眉をひそめ、被虐的に唇を引き結んだ。


 咲良の手が、絢音の右の丘に伸びる。


「あ……っ」


 五本の影が丘の頂を覆うと、絢音は儚げな声を上げた。咲良はもう、我慢のしようがなかった。

 むにゅり、と。

 冗談のような柔らかさが、咲良の手のひらを包み込んだ。


「んふぁぁぁぁ……っ!」


 絢音の身体ががくがくと揺れ、五本の指がたわわな鞠に食い込む。ワイシャツ越しにはっきりと突起が感じ取れて、咲良の興奮が恐ろしいくらいに高まった。


「絢音……っ!」

「え……あぁ……っ!」


 咲良が絢音の後ろに回り込み、両手で量感のある鞠を下から掬い上げる。


「んあぁぁんっ!? はぁっ、んっく、うぁっ、はぁぁぁっ!」


 凛とした声でも、可愛らしい声でもない。女としての声、とも少し違う。澄んだ声音に獣性が混じり、牝の声と呼ぶのがちょうど良い、艶めかしい声が目の前の女性の口から断続的に漏れ出でる。咲良は力を入れすぎて絢音が痛がらないようにだけは注意して、夢中で手のひらの中の弾力を味わう。


「うあっ、ひっ、ひぐっ、あふぁぁっ!? ひっ、あぐっ、かはっ、ひぃんっ、んふぅぅぅ……っ、あっ、あっ、あっ、ひぁっ!? あっ、あぁぁぁっ! あぁぁぁぁっ!!」


 咲良の手が布地越しに絢音の二つの鞠の形をぐにぐにと変えて、時折こりこりに張り詰めている二つの突起を摘まむと絢音の身体がまるで電気を流されたかのように跳ねた。目の前の細い首筋から香る汗の甘やかな匂いに陶酔していると、下の方から漂ってくるひどく濃密な匂いに気が付いた。


 ……この匂いって、まさか……?


 下のクッションの一部が色を変えているのを見て、咲良がごくりと息を呑んだ瞬間――絢音が咲良の手を振り解き、くるりと身体の向きを変えて咲良と正面から向かい合った。


「え? 絢音……っ!?」


 絢音が正気を失ったかのように息を荒げているのに驚くと同時に、咲良は一瞬で押し倒された。受け身を取る余裕は無かったが、どのタイミングで用意していたのかクッションに咲良の頭がうずまる。


「あ、絢音……?」

「……はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」


 下から見る絢音の顔は、影になっていてよく見えない。それでも、瞳が潤み、切なげに眉をひそめているのだけははっきりと見えた。


「んむ……っ?」


 人差し指を立てた状態で、細い手がするりと伸びてきた。唇に人差し指をぴとりと押し当てられ、空いた手は絢音自身の口を覆っている。お互いの口を封じた状態で――絢音は咲良のがちがちに膨らんだ部分にスカートの中を押し当て、ゆっくりと前後に揺らし始めた。


「んふぅぅ……ふぅぅぅ……っ」

「……っ!? ……っ!」


 あまりに淫靡な光景に、咲良は絶句する。絢音が、二人の口を押さえた状態で、自分の身体を使って自らを慰めている。何が起きているのか分からなかった。


 絢音は首まで真っ赤にしながらも、まるで食べ物をねだる子どものように必死の顔で腰を振っている。柔らかな割れ目に膨らみがスラックス越しに擦れる度に甘やかな快感が咲良の下半身を貫き、くちゅくちゅと水音が聞こえる度に膨らみの先端に熱い液体が染みてくるのが分かった。


「ふぅっ、んっ、んくぅっ、ふぅっ、ふぅぅぅ……っ」


 徐々に遠慮が無くなってきた絢音の腰の動きはどこまでも淫猥で、まるで咲良の上で踊り狂っているようだった。


 このままやられっぱなしなんて……!


 絢音の表情にほとんど余裕が無くなってきたところで、咲良が絢音の腰をがしりと掴み、前から後ろに腰を動かした瞬間――それに合わせるように、硬い膨らみをぐっと突き出した。


 少しだけ。

 ほんの少しだけ――何か熱いものの中に、膨らみの先端がめり込んだ。


 絢音の目が大きく見開き、とっさに両手で自分の口を覆う。

 じっとりと汗ばんだ艶めかしい肢体が大きく波打ち、限界が訪れた。


「あぐ……うくぅぅぅうぅぅうぅぅぅぅぅっ!!」


 絢音がおとがいを上げ、天を仰ぎながら激しく全身を痙攣させる。何度も何度も身体が脈打ち、その度に咲良の硬い膨らみに大量の熱い液体が噴きかかる。咲良はこの世のものとは思えないほど淫らで美しい光景に、我を忘れて見入っていた。完全に、魅入られていた。


 やがて、糸が切れた操り人形のように絢音の身体からぐにゃりと力が抜けて、咲良に上からどさりと倒れ込む。


 二人の静かな呼吸音だけが、部屋に染み込んでいく。


 ……ん、あれ……? 俺たち、何してた……? もしかしなくてもとんでもないことをしてたんじゃあ……?


 咲良は急に、ちょっとだけ冷静になった。


「……絢音……? ……大丈夫……?」

「……っ、…………」


 咲良の問いに絢音はぴくりと反応して、わざとらしく顔を逸らした。


「……絢音? 起きてるよね? 本当に気絶してたらそんな怪しい反応しないよね?」

「…………」

「……お尻、触るよ?」

「そんなセクハラしたら眼鏡を叩き割るわよ咲良くん」

「なんで『実は今までずっと眼鏡をしてました☆』みたいな設定になってんの!? してないよ眼鏡は! ていうかやっぱ起きてるじゃん!」

「うぐ……」

「あ、あのさ、さっきのは……っていうか今もだけど……その……」

「咲良くん」

「あ、は、はい? なんでしょう?」

「実はね、この家には力の弱い色情霊が沢山いるの」

「え、ほんとに? なんでまた?」

「え、そ、それは……その……あれじゃない? 妹さんがやたらエロいからじゃない?」

「俺一人っ子なんだけど……」

「……ええとね、その色情霊がね?」

「華麗にスルーされた……」

「私と咲良くんに、気が付いたら何人も憑りついていたの」

「……ほんとに?」

「ほんと、ほんと、ほーんとに」

「ウソでしょ?」

「ウソやないで、ホンマだべ!」

「せめて訛りは東か西かくらい統一しようよ!」


 抱きしめ合ったままいつもの会話をしていると、急に絢音が唇をもにゅもにゅとさせて、頬を赤らめて呟いた。


「そ、そういうことにしておかないと……は、恥ずかしくて、死んじゃう……っ」


 瞳を潤ませて小動物のような愛らしさで懇願の表情を浮かべる絢音に、咲良はふっと頬を緩ませた。


「そうだね、わかった。絢音は色情霊がいっぱい憑きたくなるくらいエッチな子だってことだね」

「うわぁぁん!? 違うったら! 違うの! いや違わないけど! ……いや、その、違うの! とにかく違うったら違うの!」

「うぐっ!? ちょ、絢音、両肩をひたすら押すのやめて! すごい乱暴に肩を外されそうなんだけど! ちょっと、いて、いててて!」


 泣きじゃくる絢音に脱臼させられそうになりながら、咲良は今日のことはしばらく話題に出せそうにないな……と、少しだけ寂しく思った。


       ×  ×  ×


『絢音ちゃんさ、咲良くんがあたしを抱きしめるのを許可したとき、あたしの為っていうよりは思い切り自分が抱きしめられたいから許しただけだよね?』

『そ、そんなわけないでしょう!?』

『うん、もちろんあたしの為っていう気持ちもあったと思うよ。でもその気持ちよりも遥かに咲良くんに抱きしめられたいって欲求が溢れ出してて、身体を共有してるあたしとしては見てらんないくらいだったよ』

『……穴があったら入りたい……』

『……絢音ちゃん、女の子でしょ? それなら今の言葉は……』

『言及したら力づくでどうにかしちゃうわよ?』

『こ、こわ……っ。わかったわかった。……まったく、絢音ちゃんは何だかあたしと同族っぽい匂いがするな~』

『っ!? な、何言って……っ!?』

『エロいっていうか何かもう性欲の塊なのにヘタレって感じ。タガが外れたら凄そうだね~』

『な、な、な……っ』

『ま、頑張ってみて~。大丈夫、咲良くんは中々のどスケベだから、きっと需要と供給が一致するよ~』

『需要と供給とか言うなー!!』


       ×  ×  ×


 絢音を家まで送って、咲良はシャワーをさっと浴びて布団に潜り込んだ。


「……良い匂いがしすぎて眠れない……」


 女の子の甘い匂いに混じった濃厚な匂いも相俟って、咲良は一晩中悶々として過ごした。





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