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第17話 年齢制限的にはきっと大丈夫。

 咲良は枕に頭を沈めて、呆然と恵美里を見上げる。蛍光灯の灯りが艶やかな黒髪に遮られて、影が差した顔はいつにも増して妖しく美しい。


「あ、あの……恵美里さん……?」


 咲良の心臓が、心拍数をデジタルで書き換えたかのように跳ね上がる。恵美里は白魚のような指を咲良の腹に這わせて、ぺろりと舌なめずりをした。


「……もうちょっとだけ、好きにさせてね?」

「……っ、は、はい……っ」


 咲良がごくりと息を呑む。恵美里は腰をくにくにと前後に動かし、咲良の頬や胸板を撫で回す。指の動き一つ一つがひどく緩慢で、悪戯心に満ちていた。


「……あら? ……ふふ……っ」


 恵美里が腰を後ろにずらすと、その動きをぴたりと止めてくすりと笑った。


「…………っ……」


 身体に起きた如実な変化に気付かれて、咲良は咄嗟に目を逸らす。


「……すごいね、これが男の人の……っ」


 恵美里の声がうっとりと蕩けて、腰を浮かせて後ろにずらしてもう一度下ろした。下半身にのしかかる心地の良い重みと、淫猥な感触に咲良は目を見開く。山を形作っていた場所が恵美里のスカートの中に収まり、山の裏側がくにくにと柔らかなものにこすられている。


「あ……はぁぁ……んっ、ふぅぅ……っ」


 恵美里が息を荒げ、澄んだ瞳から徐々に正気が失われていく。まるで酒気の混じった霧をずっと吸い込み続けているかのように、少しずつ狂って――正確に言えば、本能に戻っていくような様に、咲良は抵抗するフリさえも忘れて見入り、強く強く魅入られた。


「咲良……くん……っ」


 恵美里の身体がゆっくりと倒れてきて、咲良の胸と腹の間にとびきり柔らかい感触がのしかかる。着衣の上からでもはっきりとその膨らみを主張する双丘は、若々しい弾力を保ちながらも咲良の胸板に合わせてくにゅりと艶めかしくひしゃげた。


「咲良くん、咲良くん、咲良くん……っ」

(うわ、うわ、うわ……っ!)


 恵美里が媚熱に浮かされたような声で、上目遣いをしながら何度も名前を呼んでくる。恵美里が憑いているのだと分かっていても、その姿かたちや声は絢音のもので。絢音の姿をした女性が、瞳を潤ませ、身体を密着させて囁きかけてきている。咲良はあまりの興奮に気が狂いそうになっていた。

 恵美里の顔が近付き、咲良の首筋に顔をうずめた。


「んん……っ、……汗、かいてきたね?」

「そ、そりゃ、こんな状況なら……って、ちょ……っ!?」


 楽しそうに恵美里が囁いたかと思うと、首筋がぞくりとした。恵美里がちろりと舌を出し、ミルクを啜る子猫のように首筋を舐めていた。


「ちょ、ちょっと、恵美里さん……っ!?」


 咲良は流石に焦ったが、恵美里の唇が首筋に吸い付いた瞬間、抵抗の言葉と一緒に呼吸の仕方まで忘れてしまった。


「んっ、ちゅっ、ふぅん……ちゅっ、ちゅぴっ、んんっ、んんん……っ」


 すれ違う人がみな振り向くほどの美少女が、切なげに眉をひそめて愛おしそうに首筋に口付けをして、上下の唇で食み、肌と汗を舐めとる。咲良はあまりの興奮で歯の根がかちかちと鳴った。


「んっ……んん……っ、……この匂い……好き……すっごく好き……っ」


 恵美里がまだ舐めていない部分に鼻を近づけすんすんと鳴らす。そうしていたかと思えば、今度は咲良の頬の目の前で鼻を鳴らし、耳たぶをぱくりと咥え込んだ。悩ましい吐息が耳元で漏れて、咲良はシーツを掴む手にぎゅっと力を込める。


「咲良くん……どうかな……? 女の子の身体って、柔らかい……?」

「……は、はい……っ」


 額同士をこつんとぶつけて、今にも唇が触れ合いそうな距離で恵美里が妖艶に微笑む。咲良は頷こうとしたが、僅かな動きでも唇が触れてしまいそうだったのでかろうじて返事の声を紡いだ。恵美里の肢体はうねうねとくねり、咲良の硬い膨らみに触れている柔らかい場所は明らかな湿り気を帯びている。


「……ねえ……咲良くん。……抱きしめてくれないかな?」

「え……っ」


 淫靡な笑みに影が差して、寂しそうに恵美里が笑う。ほんの十秒前までの悪戯っぽいお姉さんのような表情が消えて、代わりに温もりを求める子どものような幼さが顔を出した。


 ……いいのか……?


咲良の心がぐらりと揺れる。恵美里の望み通りにしたい気持ちとは別に、波のように押し寄せる気持ちの奔流が心を混乱させる。

 恵美里と見つめ合ったまま咲良が逡巡していると――不意に、淡い声音が聞こえた。


『大丈夫よ、咲良くん。……恵美里さんの願い、叶えてあげて?』

「絢音……。……わかった、いきますよ」


 絢音の声に咲良は頬を緩め、シーツを掴んでいた手を離す。恵美里を見ると、何故か少しだけ呆れたような笑みを浮かべていた。不思議に思いながらも恵美里の背中に両腕を回し、そっと抱きしめる。


(うわ……っ)


 こんなに柔らかいものがこの世にあったのか……と咲良は驚く。腕の中に収まった恵美里の身体は信じられないくらい柔らかくて、抱きしめると同時にふわりと甘い匂いが溢れ出た。恵美里がしているように咲良も恵美里の首筋に顔をうずめると、より濃度を増した甘くて良い匂いが鼻腔いっぱいに広がる。


「はぁぁぁ……っ、あっ、んんん……っ」


 恵美里の声がとろとろに蕩けて、全身の力が抜けていく。ただでさえ柔らかい身体が更に柔らかくなり、咲良は愛おしさが増して抱きしめる腕に力を込めた。


「はうぅぅ……やんっ、そんな、強く、あぁぁん……っ」


 耳元で囁かれる嬌声にぞわりとする。口では拒否しようとしているのに、恵美里が咲良の背中と首に回した腕はもっともっととせがむように撫でまわしてくる。艶めかしい肢体は小刻みに震えていて、恵美里のスカートの中では二人がしきりにこすれ合い、くちゅくちゅと水音を立てている。


「男の子って、こんなに逞しいんだね……はぁぁぁぁ……っ」

(恵美里さん、エロすぎる可愛すぎる……何なんだよもう……っ!)


 恵美里が嬉しそうに囁いて、耳たぶを啄んでくる。可愛らしい愛情表現をしていたかと思えば、しゅるりと伸ばした舌が耳の中に侵入してきて丁寧にほぐしてくる。脳内まで溶けてしまうような甘美な感触に咲良は陶然とした。


 強く抱きしめ合ったまま、時間も忘れて互いの身体の逞しさと柔らかさを貪り合う。咲良が手を這わせる度に恵美里は甘く悶え、恵美里の指と舌が咲良の身体を撫ぜる度に咲良はぶるりと震え、咲良はごくりと喉を鳴らし、恵美里は淫靡に微笑んだ。


「ねえ、咲良くん……」


 恵美里が上半身を起こし、咲良の胸元に手を添えた。上半身の密着は解かれたものの、恵美里の腰は艶めかしく前後にグラインドしていて、くちゅくちゅという水音は更に大きくなっている。


「ねえ、どうしよっか? わたし、本当に咲良くんのこと良いなって思ってきちゃった。ここまでしてくれただけでも本当に嬉しいけど……咲良くんが良いなら、この先もしていいかな?」

「え……こ、この先って……っ」

「もう、わかるでしょ? 例えば……」


 恵美里がとびきり悪戯っぽく微笑み、ちろりと舌を出しながら――スカートに手をかけた。


「この中身を見せたりとか……こことここを、生でこすり合わせたりとか……」

「ちょ、ちょっと……っ!?」


 スカートの中身が見られるかも……と淡い期待を抱いてしまった自己嫌悪に浸る間もなく、恵美里が腰を前後左右や円を描くように揺らし、硬い膨らみにスカートの中をこすり合わせてくる。

 恵美里が顔をぐっと近づけた。


「ね、どうする?」

「い、いや、そ、それは、流石に……」


 いいのか、俺はそれでいいのか。

 いやでも待て、メインの意識こそ恵美里さんだけど、あくまで絢音の身体だぞ。

 いやしかし待て、それでもやっぱり……。

 などと咲良が逡巡していると。


「…………」

「……え、恵美里さん?」


 恵美里が眉をひそめて、なんだか気難しそうにむむむと眉をひそめている。


「……うーん……まさかここまでしても出てこないとは……ちょっと他力本願すぎるんじゃないかな」

『うぐっ』

「あ、絢音……?」


 恵美里の呟きの意味は分からなかったが、絢音が呻いた声がはっきり聞こえたことで、今の言葉が誰に対してのものだったのかが分かる。


「まったく……。……咲良くん、ありがとうね。そろそろお暇します」

「え、あ、はい、こちらこそ?」

「なあに、その返事……ふふ、咲良くんはほんと優しくて可愛くて……身体は凶悪だね」

「何のこと!? 何のことを言ってるの!?」

「もう、分かってるくせに~。……もう少ししたら、今度はその先までさせてね?」

「え、それは流石に……っ!?」


 咲良の言葉を遮って、恵美里が再び抱き付いてくる。ぎゅうぅっと愛情を染み込ませるように抱き付くと、間もなくして淡い光が恵美里の身体を包み――明らかに雰囲気が変わった。


「……ええっと……おかえり?」

「……た、たた、たたたた、ただい、ま……っ」


 咲良は、見ただけで。むしろ、見なくても……今自分が抱きしめているのは絢音だと分かった。そして、自分と恵美里ではなく、自分と絢音が目を合わせているのだと認識した瞬間――咲良の顔は一気に茹で上がり、絢音は咲良の顔を見て更に顔を赤くした。


「あ、絢音、どど、どうする? 離れる? それとも……」

「どどど、どうしようかしらね? えっとね、えっとね、その……」


 動揺しすぎて口調が若干幼くなった絢音が、細腕をきゅっと咲良の身体に巻き付ける。


「……もうちょっと、このままでも……いい?」

「……ん、わかった」


 二人の声が、柔らかくて温かいものへと変化する。耳元で囁く絢音の声は、先程まで聞いていた恵美里の声と同じではあるが、どこかが違っていて。咲良にとって絢音の声は、もうすっかり自分に馴染んだ――無くてはならないものなのだと気付く。


 女の子の身体って、こんなに柔らかくて、良い匂いがして、温かいんだな……。

 落ち着いてきたことで、咲良は絢音の感触を改めて堪能する。絢音が時折腕や足を動かして密着度を高めると、糸のような心地良いくすぐったさが身体の中を駆け巡る。


「ん……っ、ふふっ、やん……っ」


 咲良がもぞもぞと動いていると、目の前の真っ白な首筋にふっと吐息がかかった。絢音は楽し気に身体をよじらせるが、それがたまらなく可愛らしく、そして色っぽい。


 あ、やばい。また立ってきた……。


 咲良が男としての反応に気付かれまいと必死で身をよじっていると――


「控えめに言ってさぁ……なんで二人はもうここでヤっちゃわないの?」

『んぉえっ!?』


 突然真横から浴びせ掛けられた冷静な声に、咲良と絢音の声が裏返ってハモった。


「え、恵美里さん! 何でここに!?」

「いや、絢音ちゃんの中から抜け出したんだからそりゃいるでしょ」

「いやー! いやー!」

「いだだだだ!? 絢音、自分の力の強さ忘れてるで……いだだだだ!」

「すごいねお二人さん。顔真っ赤なのに離れないんだ~」

「ちょ、ちょっと恵美里さん、からかうのはやめいだだだだだ! 絢音! だめ! これマジでだめ! すごく痛い! 信じられないくらい痛い!」

「うぅぅ~……うぅぅ~……っ」

「…………」

「……咲良くん。きみ、今『子どもっぽい絢音もすごく可愛いな……襲いたい』って思ったでしょ」

「前者は当たりだけど後者は……! その、うん、何でもないです!」

「うぅぅ~……うぅぅぅ~……っ!」

「絢音、待って、胸板におでここすりつけるのはやめて、ほんと、恵美里さんがいるのに何か色々とやばい、色々とやばいから!」

「……咲良くん……なんか下が硬いよ……?」

「恵美里さん助けて! ちょっと限界!」

「あ~……あたしは今日は帰るから後はごゆっくり~」

「待って待って! 今日の俺を舐めないでくださいよ! 多分朝までコースですよ!」

「結構ゲスいこと言うねきみ……。あ、そうだ、絢音ちゃん」

「うぅぅ~……なによ……?」

「絢音ちゃん、まさかあそこまでヘタレだと思わなかったな~。あたしがあそこでやめなかったら、どこまで行っちゃってたんだろうね~? ……あんまりもたもたしてると、お姉さんがその辺の気の合うビッチの子の身体を借りて咲良くんの童貞もらっちゃうよ?」

「っ!?!!?? は、はぁぁ!? やめて、やめてよ! 咲良くんは、咲良くんは……っ!」

「…………」

「……咲良くん? なんで白目剥いてるの?」

「……絢音ちゃん、ちょ~っと力強すぎるね~……」

「……気絶してても硬い……」

「……絢音ちゃん、控えめに言ってどスケベだよね。咲良くんも大概だけど、絢音ちゃんもハマったらすごそうだねぇ~」

「ななな何のことよ!? わたしはそんな……っ!」

「むぐ……うぐぐ……っ」

「咲良くん!? 良かった、目を覚ましたのね!」

「絞め付けで気絶させて同じ絞め付けで目を覚ますって、地獄みたいな循環ね……」


 この後。

 何だかんだで抱きしめ合ったまま、咲良と絢音は恵美里に30分ほどからかわれ続けた。





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