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プロローグ
屋上の金網は、思ったより冷たかった。
かしゃんと音を立てて、少年の指が格子状の線に食い込む。あどけなさが残る両の瞳は、目の前の現実をまるで受け入れることが出来ていない。
少年が呆然と見つめる先には、宵闇に溶けるように落ちてゆく少女。
闇に溶け込む、鴉の濡れ羽色の髪。
消えゆく瞬間にさえ、何か別のことを考えているような、儚げな瞳。
少年と目が合った少女は、少しばかり目を見開いて「しまった」という顔をした。少年は不覚にもその可愛げに見惚れる。けれど次の瞬間には、数秒後に待ち受けているであろう惨劇に身を強張らせた。
手を伸ばそうとしても、もうどうにもならない。時間感覚が圧縮されて、途方もない程に時間の流れが遅くなった。
「少女」は、自分がいる場所よりも遥かに下で鈍い音を立てて、物言わぬ「それ」と化した。
――「それ」と化した、はずだった。