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 何か、マシンガンの銃撃音に似た騒音がして目が覚めた。その音は、ちっ、ちっ、ちっと絶え間なく聞こえた。都会の騒音など、取るに足らないほどだった。

 ――な、なんの音だ?

 そんな中、先輩たちは寝息ひとつたてずに寝ている。もっともこうもうるさくては、先輩たちがいびきをかいていても騒音にまぎれてわからないであろう。

 僕は頭を押さえながら、部屋を横切り廊下に出た。部屋の一番奥、窓の傍で寝ていたので、先輩たちを踏まないように、注意しなくてはいけなかった。

 階段を下りているあいだも、わずらわしい音は続いていて、一階に下り立っても、やみはしなかった。そのころやっと、音の正体が鳥たちの鳴き声であることに気づいた。

 ――それにしても、うるさい……。

 あてもなく、一階の廊下を彷徨っていると、食堂からお婆さんが出てきた。僕に気づいて、驚き感心した。

「あら、早いのね? もっと寝ていてもいいのよ」

「僕もそうしたいんですが、こうもうるさくては、眠るに寝れなさそうなので……」

「そうねぇ、私なんかは慣れているけど、あなたたちはやっぱりダメ?」

 自嘲気味に僕は笑った。

「そう言って、お嬢ちゃんももう起きて、外にいるわよ」

「……へ?」


 することもないので、僕も外に出ることにした。いまだに鳥たちのおしゃべりは続いている。

 玄関で靴を履き、朝陽に照らされる外に出た。陽は、左手の山から陽光を注いでいた。

 真乙さんはすこし離れた場所に生えている木の下にある石の上で、僕に横顔を見せて座っていた。僕には気づいていない。彼女はすましたような表情をしているが、どこか寂しそうな印象を受けた。まあ、気のせいであろう。その真乙さんは急に立ち上がり、「鳥ー! うるさいぞー!」と言い出したかと思うと、すぐにまた座った。ちょっと愉快だった。

 真乙さんは僕に気づかないまま顔を上げ、空を仰いだ。そこで、左目が僕をとらえた。おもしろいほど見開かれたのでそれがわかった。

「い、いつからいたの? いるなら、声ぐらいかけてよ……」

「え、あ……うん。ごめん」

 彼女は立ち上がり「まったく」と軽く毒づいた。僕はこめかみのあたりを右手で一、二回掻いてから、彼女に歩み寄った。

「おはよう。朝、早いんだね」

 近づいてきた僕に、真乙さんは挨拶をしてきた。

「おはようございます。……こう鳥がうるさいんじゃ」

 頭上を指差す。彼女は「それもそうか」とつぶやいた。朗らかに笑んでいた。

「でも、私が起きたときにくらべれば静かになってきたよ」

 小鳥が三羽、木の上に両足で掴まって、僕たちを見下ろしていた。ちっ、ちっ、ちっとささやきあっている。目を細めて、鳥たちを一羽ずつ眺めた。

「いつ、起きたんですか?」

「え? 十分ぐらい前かな……。それが?」

「いえ。なんとなくです」

 それからだんまりし、居心地の悪い時間が流れた。しばらくそうしていると、真乙さんはまた石に座った。僕も木の幹に寄り添って、地面に座り込んだ。気づかないうちに、鳥たちの鳴き声はやんでいた。

 木々しかざわめかない寂寥とした世界に、僕たちは放り出されたような気がした。何度か、真乙さんが欠伸をして、その度に「眠い……眠くはないけどさ」と理解不能なことを言った。


「朝ごはんだよ。あなたたちも戻ってらっしゃい」

 玄関から顔を出して、お婆さんが告げた。

「あら? おじゃまだった?」

「……へ?」「……え?」

 お婆さんが意味不明なことを言い、その意味を理解しようとしたが、内容読解することはできなかった。僕は国語が苦手なのだ。

「……あ、朝食ですか。すぐ行きます」

 真乙さんが小首をかしげながら答え、お婆さんはにこりと笑って家の中に姿を消した。真乙さんが早足に駆けていった。僕はゆっくりと腰を上げ、家に戻る。

 靴を脱ぎ、冷たい廊下を歩いて食堂に入ると真乙さんだけがいて、先輩たちはまだ起きてきていなかった。

「今起こしてくるから」

 僕の考えを察したようにお婆さんがそう言って、食堂から姿を消した。椅子に座り、ほんのわずか待っていると、何人かの足音が頭上でした。その足音が階段を下り、食堂の前まできた。

「おはよう」

 伊森先輩が、眠たそうに目をごしごしこすりながら入ってきた。そのあとに続いて、堀先輩とお婆さんが入ってくる。

「あれ、高島先輩は?」

 真乙さんが聞くと、伊森先輩が苦笑いし、堀先輩が鼻で笑った。

「高島のやつ、急に体調不良をうったえてるんだ。だから、いますぐ病院に行ってくるよ」

「え……?」


 先輩たちは、頭を押さえて「うー……」とか、「気持ち悪い……」と苦しそうにしている高島先輩に連れ添って家をあとにした。お婆さんがタクシーを呼んで、伊森先輩にタクシー代を渡していた。自分で払えますと言っていた先輩も、じきに折れて受け取った。

 タクシーはバス停近くまでしか来れないらしく、そこまで歩かなくてはいけない。高島先輩には辛いであろう。

 先輩たちを見送ると、家の中が広くなった。それに比例して暇な時間が増え、居心地も悪くなった。

 朝食を食べたのち、部屋に戻って真乙さんといっしょに布団を片した。片しているあいだ、真乙さんは昔話をした。彼女は昔静岡に住んでいたが、今は東京に住んでいるらしい。

 布団を片づけ終えると、性懲りもなく、真乙さんは山にしばかり……動物を探しに行った。僕は部屋でごろ寝をして、一日中寝ていた。

 そうやってすごしているとすぐに昼となり、夜となった。陽が沈みそうになったころ、先輩たちが帰ってきた。

「ただの風邪のようです。だけど、明日までは安静にしていた方がいいらしいです。つまり――」

 お婆さんに、そう報告していた。

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