【~14話】せめて、最後に (微グロ・シリアス)
手放した意識が再び戻った時、俺の視界に入ったのは鮮やかなほどに真っ赤な大地だった。
「…なん、だ…これ」
呆然と立ち尽くす俺の足が、微かに震える。
仲間だったはずの“それら”は原型を留めず、“破片”だけが赤い海に散らばる。
酔っていつも子供の俺に酒を勧めてくる奴も、筋肉だらけで汗臭かった奴も、強かったくせに脳筋でバカ丸出しだった奴も…みんな、全て、影も形もない。
みんな、みんな、みんな…やられた。
「…っ、う、ぁあ…っ!」
みんなのことが頭をよぎり、俺の頬に雫がつたい始める。
俺はその場にへたりこみ、溢れる涙を抑えることもせずに、生き物の気配すらなくなったそこで泣き叫ぶ。
もう、みんなとは…会えないのか。
あれだけ鬱陶しかった奴らの死が、ここまでに辛いものだなんて。
「千景…」
なぜだか、自分の嗚咽に紛れて親友の蛍の声が聞こえる…俺、どうしたんだろ。
「千景!」
まただ、聞こえる…南側の軍にいる蛍が、いるはずもないのに。
「千景…ッ!」
…いや、違う…今度はちゃんと、はっきりと…聞こえた?
おそるおそる振り向くと…そこには。
「ほた、る…?」
血に濡れ、ところどころが裂けている服を着た、親友の蛍が立っていた。
必死にここ…北側に走ってきたのだろう、息があがっている。
俺は蛍に、無意識に手を伸ばす…けど。
「千景ッ!どこだ⁉︎」
蛍は俺の横を、まるで俺が“存在しない”かのように走り抜ける。
そこで、俺は気づいてしまった。
「…あぁ、そうか」
伸ばした手は微かに地面を映し、俺の服も身体も、まるで戦いが無かったかのように“綺麗”だった。
胸に手を当てるが…心臓は“動いていない”。
「こんなことって、あるんだな」
まさか、自分が幽霊になるだなんて、生きている間には思いもしなかった。
そして…徐々に、手が薄く…霞んでいく。
きっと、この場に居られるのも長くはない…俺は、直感でそう気づいた。
なら、せめて…せめて、最後に…蛍に、伝えたいことがあるんだ。
「…神様なんて、信じてない…けど、頼む…最後だけ、最後だけでいいんだ…もう一度、蛍に“逢わせてくれ”」
そう、俺は告げる。
もちろん、神に叶えてもらえた確信なんてなかった。
ちょっとした、思い込みだった。
でも…なぜだか、ちゃんと届く気がした。
「悪い…またな、蛍」
ぽつりと告げたその言葉に、蛍ははっとしたように振り向く。
「ちか、げ…⁉︎」
きっと、姿は見えていない。
けど…声だけでも、充分だった。
いつの間にか、蛍の頬にも涙がつたっていた。
俺もまだ、涙はおさまっていなかった。
でも。
どうせなら、最後は笑顔がいい。
見えなくても、きっと…蛍は、気づいてくれる。
俺は、自分が出来る限りの…最高の笑顔で、告げた。
「お前と出会えて、よかった」
この話、実は動画(⇒https://youtu.be/4o7nBdvKD6M)もあります。