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島津十字と空飛ぶ茶釜  作者: 花畑青
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謎の黄色い羊

家久紗を追いかけて宇宙船の発射に巻き込まれた義久古達。宇宙船で1ヶ月程を過ごした後、宇宙船の不具合で緊急脱出し、バラバラになってしまったのであった

「誠に申し訳ない……これには事情があるのだ」


 青い空にミンミンと低い音が響く中。小さな建物の中で、着物を着た精悍な若い男は深く頭を垂れた。一方、黒い帽子を被った若い男は細長い棒を黄色い板に走らせながら声を荒らげた。


「島津義久古さん。どんな事情があろうと銃刀法違反と不法侵入に変わりはないよ!特に水田や畑など食料に関わる犯罪は重罪だ!」


「まぁまぁ巡査さん、わしは事情によってはもういいべ!何も盗んでいなかったし、こんなに謝ってるんだし!」


 黒い棒を構えて厳しく追求しようとする若い男を遮って、麦わら帽子の中年男は穏やかに話しかけた。


「それより島津さんがうちの畑に入った事情ってなんだべ?」


 島津は真っ直ぐで真摯な眼差しを麦わら帽子を被った男に向けた。


「寛大な御言葉に感謝いたします。私達は致し方無い事情で他の星から参ったのですが、宇宙船が不時着して兄弟や恩師と離れ離れになり、他の色々な事情により畑に埋まっているという黄色い羊を探しているのです」


「はぁ?何言ったんだべ!」


「色々な事情が多すぎだよ!」


 他の星?畑に埋まった羊?ふざけているのかこの男は。麦わら帽子の男も巡査も思わず前のめりになって厳しい言葉を浴びせたが。島津は嘘発見機を付けたまま、真顔で話を続けた。彼に付けた嘘発見機は全く反応せず、アルコール検査も簡易麻薬血液検査も引っかからない。


「事実はどうあれ本気なのか……?」


 麦わら帽子の男も巡査も、目の前にいるこの精悍な男がだんだん恐ろしくなってきた。彼の余りにも背筋が伸びて堂々とした態度や威厳のある眼差しに引き込まれ、だんだん途方もない話を信じ始めてしまってきたからである。さらに恐ろしい物がもう一つあった。島津から没収した淡く黄色く光る刀とペンダントである。放射線測定器が反応しない事にほっとした二人はそれらに顔を近付けてまじまじと見つめた。


「鍵型のペンダントとこの刀は……?」


「ルチルクオーツ?宇宙切子じゃろか?」


 ヘッドが岩石のような形状の透明な鍵型のペンダントは、透明な宝石の中に金色の針が煌めき、壮麗な山々や不思議な風貌の四足の動物が刻まれているように見えた。刀の鞘や鍔は透明な宝石の上に透明な黄色い宝石の層が重なり、伝統的な籠目模様が刻まれていた。


「かっけぇなぁ!メルケリで高く売れそうだべ!」


「もしかしてどこかの王族でいらっしゃるのですか?」


思わず敬語になる巡査。島津は首を振った。


「私は島津村の村長だ」


「あっ……はい」


 もう自分の手には負えない……そう判断した巡査は上司に判断を仰ごうと端末に手を伸ばすが。急にガタガタ建物が揺れ、それどころではなくなった。


「机の下へ!机の脚に掴まれ!」


「ひいっ、どうも…」


 立ち上がった島津は椅子から転げ落ちた麦わら帽子の男を掴んで机の下に押入れ、自分は椅子のクッションを頭に乗せてしゃがんだ。揺れは直ぐに収まったがその後も少し震えている麦わら帽子の男と巡査に、島津は指示を飛ばした。


「一旦揺れは収まった。先程お二人が使っていた端末で状況を確認してくれ。この建物が耐えられる震度か津波が来るか」


 島津は慎重に窓辺に近づき、火事が起こっていないか周囲の状況に耳をすませたり、建物にヒビが入ってないかチェックを始めた。はっとした二人も自分のポケットから小さな板を出して状況を確認した。


「震度4……ここは震度7まで耐えられる建物だから今回は余裕で大丈夫です」


「ここは埼玉省じゃから津波の心配はない…おおここが最大震度で、他の地域も津波の心配は無いし大丈夫じゃな。良かった」


しばらくしてほっとした二人はあっ、と声を上げて島津を見た。島津は座布団を椅子に戻し、姿勢よく座っていた。


「火事も近くでは起こっていないようだ。二人とも怪我は無いか」


「はい」


「では事情聴取の再開をしてくれ」


 麦わら帽子の男まで敬語になり、島津をじっと見つめた。彼と巡査は鍛えられた体躯、ここら辺では見ない、少し彫りが深く浅黒い顔、そして深く深遠な眼差しを見て、苦笑いした。


「もうわしは不法侵入はいいべ」


「銃刀法違反と紛らわしいから刀はカバーかけてくださいね」


そう言うと巡査は刀と鍵を島津に返した。


「この度は申し訳ありませんでした」


 島津は頭を下げると兄弟達に連絡を取りだした。だが最後に顔を暗くし、冷や汗をかいていた。


「島津さんどうしたんだべ」


「弘……兄弟で一番寂しがりやで猫のぬいぐるみが無いと眠れない泣き虫な弟とだけ連絡が付かないのです……」


「え!他の地域はそんなに被害がないはずですよ!」


 二人は先程まで冷静だった島津の心配そうな顔を見て、気が付いたら力になってあげたくなっていた。


「わしは知事の北條さんと知り合いだべ!北條さんなら迷子探しも手伝ってくれるべ!」


「ご協力誠にありがたいです……」 


 島津は先程よりも深々と頭を下げて感謝を述べた。

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