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島津十字と空飛ぶ茶釜  作者: 花畑青
13/24

壬午を捕獲せよ

「避難用の小型ボートを貸してください!残りの2艇でも人数的に余裕があると思います!」

「あっちの港が馬に襲われるでござる!」 


血相を変えた義康と弘は甲板へ出てきた船長に早口でジェスチャーしながら必死に訴えた。が、船長は首を振った。


「おめら二人で行ぐ気か!この船の方が速え!港の皆助げにいぐぞ!」

「無駄な犠牲を増やすだけじゃよ」


突然出てきた黒い巨大な亀に、甲板に出てきた船員達から悲鳴が上がった。だが玄武は問答無用で続けた。


「壬午の力は今までと違う。弘、落とし物じゃ!」


玄武は、夜の海の様に輝く細長い棒と、波をかたどった紺色の水晶の中にメタリックダークブルーの針が閉じ込められた鍵を弘に投げた。だがそれはキラキラと宙を舞い。海に落ちた。


「あぁアアー!どうしてじゃぁぁあアー!やはり力が落ちたのか!」


玄武がショックを受けて甲羅の中に閉じこもっている間に、漁師、弘、義康は海に飛込んだ。漁師達は刀、義康は鍵を持ってきたが。弘は小さな紺色の龍を抱えて戻って来た。


「もう大丈夫でござるよ!怪我は無いか?」

「某は溺れておらぬ!」


眉間にシワを寄せた龍はすうっと弘の腕から離れ、背中の視線に振り返った。


「玄武様!ご無沙汰しておりました」

壬辰みずのえたつよ。息災であったか」

「はい!玄武様もお元気でしたか?」

「色々あったがまあ元気じゃ」


先ほどまで来落ちしていた玄武だが、深々と頭を下げる壬辰に鷹揚に答えた。一方、壬辰はくるりと振り向くと弘達に行った。


「皆さんにはこの船で港へ引き返してくだされ。弘殿は私に乗って壬午を追い、刀に封じて欲しい」

「ええっ!拙者は重いでござるよ!」

「ドラゴンさん何言ってる!」


壬辰は助けに行くと言って聞かない漁師達へ少しだけ語気を強めて言った。


「航海で疲れた者も、軽い熱中症に罹っている者もおる。しっかり休むのだ!海を舐めるでない!」


船長は振り返って甲板に出てきた漁師達を見た。壬辰が言う通り、やはり疲れが見える。船長は深々と頭を下げて弘の手を取った。


「申す訳ねが弘さんどうが頼む。無線渡すから終わったら絶対連絡けろ……」

「お任せあれ!」


無線、さらに刀と鍵を渡された弘はドン!と自分の胸を叩き、それを見た壬辰は海を指さして叫んだ。


「さあ弘殿!鍵でロックを解いて刀を構えよ!五芒星を描いて五行戦士・みずのえと叫ぶのだ!」

「五行戦士・壬!」 


鍵の中から飛び出した青い針は煌めきながら波打ち、弘の体格に沿って夜の海色の和風甲冑を形作った。


「オーッ!」


漁師達は拍手し、弘はジーンズのCMのようにくねくねポーズを取ったり走ってみた。


「可動性抜群でござる!」


甲冑を構成する小さな札や様々な硬いパーツは、丈夫で伸び縮みする金属の糸で繋がって高い可動性を生み出していたのだ。


「弘殿!壬辰殿!急ぎましょう!」

「えっ」


弘がファッションショーをやっている間に、義康はさっき命を狙ってきた男から借りたリュックを背負っていた。


「玄武殿、私を乗せてください!」

「亀使いの荒い若者じゃ……船長、そこのサングラスの青年達よ。海沿いには近付くなと漁師や知事達に連絡を頼むぞ。必殺技の巻き添えを喰らったら危ないのじゃ」

玄武は半開きの目でため息を吐くと、漁師達に手を振った。

「まあ大丈夫だとは思うが気を付けて帰るんじゃよ」

「玄武さん承知すた!弘殿!義康殿!んまぇご飯作って待ってっからな!」


ーーーー漁師達にペンライトと声援で見送られ、弘と義康は漁船を後にして壬午を追った。


「夕焼けが美しいでござるな」

「……はい。懐かしい色です」


オレンジ色の空の中のにある一際鮮やかで眩しい円が空から落ち、深く暗くなっていく海に一筋の光の道を描く。玄武と壬辰の目は青く光りだし、義康はリュックからLEDライト付き水中ゴーグルを取り出した。一方弘は水飛沫を上げながら海上を走る壬辰の上で、先程の壬辰の説明を反芻していた。


「ええと、必殺技で弱らせてから捕獲と……まぁなんとかするでござるよ」


弘は刀をじっと見つめた。黒と藍の中間色の鞘は宝石のように艷やかに光り、青海波の文様が刻まれていた。文様の彫りの境目は少しぼやけていて、水彩画のように滲んでいた。


「これが宇宙切子か……拙者を導いてくれる気がするでござるよ」


首から下げた鍵のペンダントも、だんだん光が強くなり、弘達を導いた。


「弘殿お使いください。高橋殿からお借りしました」


並走する義康からゴーグルを受け取った弘は義康を見て言った。


「義康殿の分はあるでござるか?」

「防水ライトがあるので大丈夫です」

「ゴボボボゴボゴボボボ ゴボゴボボボ ゴボボボゴボゴボゴボ ゴボゴボゴボボボ ゴボ ゴボゴボゴボ ゴボボボゴボ   

ゴボゴボ ゴボゴボボボゴボ ゴボゴボボボ ゴボゴボ ゴボゴボボボゴボ ゴボゴボボボ ゴボゴボ ゴボ ゴボゴボゴボ    

ゴボゴボボボ ゴボゴボボホゴボ ゴボゴボゴボボボ」

「ゴボボボゴ…」

「もう一回お願いします!」


玄武は軽く頷いてまたゴボゴボ言い出した。先程より意識して聞いたからか、弘と義康には先程より音の区切りが見えてきた。


「-・- ・- -・・・ ・・- - ---  -・ ・・  ・-・ ・- ・・ - --- ・- ・-・ ・・-」  

「ゴボボボゴボゴボボボ…」

「兜にライトある、でしょうか?モールス信号ですね。防人大学で学びました」


玄武は手で丸を作った。だが。

弘は義康にゴーグルを返しながらずっと真顔でゴボゴボ言っている。


「なるほど、兜のライトを使うのですね、ではこちらは私が使います」


義康は頷いてゴーグルを受けとった。一瞬、ゴボゴボ言い続ける弘を止めよう、と思った彼だが。


『お前は協調性が無くて空気が読めないんだよ』


義康は以前父から言われた言葉を反芻し、その後は二人でゴボゴボ話しだした。一方、壬辰はあきれたようにため息を吐いた。


「……玄武様が普通に喋らないからですぞ…」

「ええと、ゴボボボゴボボボ…」

「もう黙れ」


壬辰は弘と義康に野太い声で冷たく言い放った。だが、なぜか彼らより怯えた目になって少し震える玄武と目が合い、気まずそうに咳払いをした。


「ぶ、部下にパワハラされたんじゃが……」

「し、失礼致しました。と、とにかく…壬午を追いますぞ!彼は飽きっぽいからそろそろ休んでいるはず!」

「承知仕った!」


弘のペンダントは益々光を帯び、皆は気を引き締めた。それからからしばらくして。


「いたー!」


高さ3m程の壬午がゴロゴロ海面で転がっていた。


「退屈だぜー走るの飽きたわ!それにちょっと疲れたゼ」

「今ですぞ!弘殿!」


頷いた弘は刀で流線型を描いて叫んだ。


壬水青海波じんすいせいかいは!」


高さ数m×幅数メートル程の水の壁が海上を滑るように壬午へ走った、


「やるじゃねーか!」


壬午はそれを飛び越えこちらに向かってくる。弘はとりあえず壬水青海波を連打するが。壬午は紺碧の壁をぴょんぴょん飛び越え。時には壁と壁の隙間をすり抜けて避けた


「距離を取りますぞ!」


踵を返して退却する壬辰と玄武だが。壬午はじわじわと距離を詰める。壬辰は叫んだ。


「作戦B!」

「承知!」


義康は銃を構え、弘は技を放ちながら頷き、玄武は壬午を向いて止まった。


「あっ逃げんのかよ五行戦士!」

「私が相手だ!人類のスーパーウェポンを喰らえ!!キチガイ午!」

「キチガイってなんだゼ!ツッチーかよテメー!」


声を荒げて突進する壬午に義康は拳銃を連打。弾が尽きるともう一丁の銃で打つ。壬午は立ち止まってそれをペシッペシッと義康に見せつけるような曲芸的な動きで思いっきり叩き払った。


「これまでか!」


弾が尽きると義康はヤケクソのようにライトを投げつけた。それも蹄で叩き払った壬午だが、だんだんと呼吸が粗くなっていた。


「な、何が人類のスーパー兵器だゼ!そ、そんなもん虫が飛ぶようなもんだ…ゼ!み、見たか!」


息があがった壬午に義康は高笑いした。


「アハハハ愚か者めが!無駄な力を使うからだ!」

「な、なんだテメー!」


頭に血が登った壬午が全速力で義康に突進しようと走った。その時だった。


「あァァァ!」


突如眼前に現れた紺壁に激突した壬午はひっくり返った。さらに。


「五行回収!」


水中からザバッと浮き上がった弘は、刀の鞘を引き抜いて叫んだ。刀は透き通ったスモーキークォーツや黒曜石のように光り壬午を吸い込んでいく。が。


「ヴォおおー!ちょどまで」

「ええエェ吸い込めないでござる!」


壬午は震えながら踏ん張って海面に張り付き、弘も獲物が引っかかった釣り竿を引っ張るが如く刀に力を込める。


「ティッシュが張り付いた掃除機みたいでござるよぉォ…」

「これ返すよ。ひろしのだろ」


壬午はポーンと猫のぬいぐるみを投げて義康がキャッチした。


「先程は失礼な事を言って申し訳ありません…」

「にゃん太郎ぅう!ありがたいでござる!」


壬午は満足したように笑うと、目を閉じて力を抜き、刀に吸込まれていった。


「吸い込まれた壬午殿はどうなるでござるか?」

「刀の中で一定時間眠るんじゃよ」

「なんだぁ良かったでござる」


弘はそういうと、壬辰から降りて泳ぎ始めた。


「壬辰殿、義康殿、玄武殿!競争でござるよ!」

「や、休まれた方が……あっ!」


壬辰や玄武を義康はチラリと見た。二匹共、少し目が眠そうに義康は感じた。彼は軽く準備運動するとリュックを玄武に託して海に飛び込んだ。


「な、何を!」


慌てる二匹を他所に、二人は仲良く岸まで泳いだ。

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