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島津十字と空飛ぶ茶釜  作者: 花畑青
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いろは歌

 真っ暗で手ごたえの無い壁を掻き分けて。少しカールした黒髪の小さな少年は一人、星が見える丘にたどりついた。茶色い毛皮の半袖ボレロと半ズボンを着たその少年は、腕をゴシゴシさすり。子犬のようにぶるっと震えながら空を見上げた。

「おかあさん……」

彼がポケットから出した絵に、小さな水滴が落ちる。彼は慌ててその水滴をパタパタ拭い、再びポケットにしまう。その間にも瞼の中は小雨から大雨になり、彼は両手で顔を覆ってしゃがみこんで華奢な肩を震わせた。彼の足もとでサラサラと揺れる草は、ちいさなガラスの粒を纏っていく。そんな彼に、少し荒い息の少年は呼びかけた。

「…歳久……父上は…母上を…忘れて……いるわけではない」

体をビクっと震わせて見上げた歳久の目に、歳久よりも背が高く、落ち着いた物腰の少年が映る。少年はまだ十代前半とは思えない、凛とした眼差しを自分より小さく幼い歳久に向ける。

「…歳久。これはうちの決まりなのだ。一族、そして私達を守るための……それをわかっているから、ここにいるのだろう」

何も言わずに目を伏せた歳久の隣に、背が高い少年は座り。乱れた髪を手早く整えると、一緒に空を見上げた。

「…正直言って、母上が空で私達を見守っているかどうかはわからない。私は空に行ったことがないからな」

「えっ……」 

涙でこわばっていた顔をさらに固くした歳久の目を見て、少年は年齢に不相応な威厳のある声で言った。

「確実に言えるのは、母上は私達に元気でいてほしいと願っているはずだということだ。いや、それもお前はわかっているのだな。だからこうして一人で……」

再び両手で顔を覆いつつも、こくんこくんと頷く歳久。少年は高く結い上げた黒髪を傾けて、そんな少年の肩を抱くと、穏やかな眼差しで歌をくちずさんだ。その歌の途中で、少年の声はわずかにゆっくりに、強くなる。

「………楽も苦も時すぎぬればあともなし 世に残る名をただおもうべし……意味は?」

顔をゴシゴシこすって息を整えた歳久だが、まだ体のしびれはのこり、舌が中々回らない。それでも一生懸命少年の問いに答えた。

「たのしいことも、くるしいことも、ずっとつづかない、じかんがたったら、なんにものこらない、だからこそ、くるしみやつらいことにたえて、よのなかになまえがのこるようなことができるように、とにかくがんばれ……でしょうか、よし久兄上」

「……まぁ、大体そうだ。良く覚えたな」

大体、という言葉を好まない几帳面な歳久の兄・義久だが。歳久の頭をそっと撫でて微かに微笑むと、歌の続きをくちずさみ始めた。少しして、その声に先ほどよりもハッキリとした眼差しの歳久の声が重なる。

「……少しを足れりとも知れ満ちぬれば 月もほどなく十六夜の空」

「すこしを足れりと知れみちぬれば 月もほどなくいざよいの空」

二人は目を合わせて微笑むと。ひょいっと立ち上がった。

「兄上、今日のことはひみつにして下さい。みんなに心配をかけたくないのです」

わかった、と呟くと義久は歳久の手をひいて歩き出した。

          

           1

 少し浅黒い肌に彫りの深い顔立ちの青年は。筋肉質の体に茶色い毛皮の半袖ボレロとズボン、そして十字模様のマントを纏い、数人のお供と自身の弟を引き連れて青空の村落を歩いていた。緑色の植物で編まれたた建物群の真ん中には大きな櫓があり。その周りを囲むように輪になった人々は、植物を持って踊っていた。

「義久さん! 今年は豊作です!」

マントの青年……義久は、縄で高く結い上げた真っ直ぐな黒髪を揺らして振り返り。紫色の植物をぶんぶん振り回して飛び跳ねる村人達へ、お疲れ様、と微かに微笑む。その後も思慮深い黒曜石の目じりをごくごくわずかに下げて、楽しそうに踊る村人を見ていた彼だが。直ぐに自分の周囲に違和感を感じ。気配が消えた弟・歳久を探した。

「…歳久……?」

彼の目線の先の歳久は。地面に転がっている夕日色の丸く固い植物をお供と一緒に拾い、大きな籠にせっせと放り込んでいた。義久も自分の足もとに一つ転がっていることに気づいて拾い。軽く土を手で払ってから、そっと籠に入れる。

「ありがとうございました」

老夫婦はふわりとわらってお辞儀すると、背を向けて歩き出す。その背中を見ていた義久に、歳久は軽く頭を下げた。

「急に列を離れて失礼いたしました」

「…いや、それはいい……と、歳久!」

「歳久さん!!!」

黒々とした後ろ髪を半分だけすくって結んだ歳久の頭に、空からおちた白いものがぺちゃっと落ちる。生暖かい感触に引きつった顔で静止する歳久。一方お供の者と義久は、慣れた手つきで歳久の髪についた粘着質の物体を取り除いた。

「兄上、御手を煩わせてすみません。皆さんもありがとうございます。これからは自分でやるので大丈夫です……それにしてもやっぱり川田先生の占いは当たりますね……。ハハハ……」

今日の鳥のフンはハトではないから安全だと励ます義久と、御気の毒に……と自分を労わるお供に少し物悲しい微笑みを返す歳久。彼は知性的で静かな雰囲気は義久に似ていたが。義久よりも少しだけ線が細く色白で、どこか幸薄くはかなげであった。今度川田先生にお祓いをしてもらおう、と提案する義久に頷いた歳久は、背後からドタドタ走ってくる音に振り返った。砂煙の中に、義久よりも背が高い大男と小柄な少年、そしてその後を追うお供、大きな獣が数匹入った籠を乗せた馬車を走らせる男達の影が浮かぶ。ベールのような砂煙がすっと消えると。大男と少年は義久と歳久達へぶんぶん手を振る。足が速い彼らは何時の間にか義久と歳久の目の前に迫っていた。人懐っこい大きな瞳の大男は、縛られた獣を高々と上げ。高く結い上げた波打つ黒髪を揺らして弾けるような笑顔でわらった。

「兄上! 歳久! ホワイトクマー達を捕まえたでござるよ! 家久は作戦と罠の天才でござる!」

「めっちゃ頭使って頑張りました! だから義久兄上! お小遣い値上げしてくださいね~! ……あっ」

茶髪の小柄な少年は、ふふん、と得意げだった顔を少し曇らせ。鳥のフンがごくごくわずかにくっついていた歳久の頭を同情の目で見つめた。義弘もあっ、と呟くと。明るい声で慌てて歳久を励ました。

「で、でも川田先生はでっかい贈り物も落ちてくるって言ってたでござるよ!」

今度はでっかい鳥のフンか……それとも子供達の蹴鞠か…そう肩を落とした歳久だが。お供達の叫びで空を見上げた。まだ真昼間だというのに、星の様に輝く銀色の点が空をフラフラしている。そしてそれは細針で一突きしたような点から米粒、米粒から豆の大きさになっていく。お供は裏返った声で空を指さした。

「なんかあの光ってるヤツ落ちてくるんじゃないですか!!」

「……あの光から離れろ!」

走りながら指示を飛ばす義久。その十数秒後。

「あれ??」

光る物体は思ったよりも柔らかく地面に落ち。こよりの様に細い白煙を立てる。こけた家久に覆いかぶさっていた義久はそっと顔を上げて物体に目を凝らすと。なんだあれは、と呟いた。あんな巨大で虹色の茶釜、見たことが無い……そう息を呑んだ義久と同じく、歳久をかばうように覆いかぶさっていた義弘は、苦しいです! と悲痛に叫ぶ歳久の声が聞こえないほどその茶釜に魅入られていた。

「ちょっと様子を見に行くでござる!」

「……待て! 危ないから様子を見るのだ!」

走り出した義弘を追いかける義久とお供達。歳久は咳き込みつつも、茶色の目を好奇心でキラキラさせながら追いかけようとした家久をがしっと捕まえた。

「僕もあの茶釜を見に行きたいです~! 離してください!!」

「だめだ! もしあの中から宇宙人が出て来て、兄上達を攫ってしまったら誰が取り戻すんだ!!」

宇宙人なんて漫画だけの話だよな……と思いつつも。頭も口も回る弟を抑えるには彼の愛読漫画にかけるしかない……とデマをいう歳久。彼は黙ったまま茶釜を見つめる家久をチラリと見る。その視線を感じた家久は茶釜から視線をそらさずに真剣な口調で言った。

「確かに空飛ぶ乗り物に乗ってる時点でとんでも技術の村の奴です。気を付けるに越したことはないですね……あっ! 出てきた! なんか変な奴出てきた! さすが歳久兄上です!」

「えっ」 

戸惑う歳久に、あそこです、と少年を指す家久。彼の指に、ここら辺では見たことの無い服を着た色白の少年が止まる。その指をこめかみに当てると、家久はブツブツ分析を始めた。最近読んでいる漫画の影響である。

「体格はそこそこ筋肉ついてそうな感じかな~。顔はパッと見、うちの地方には少ない、なんか薄い感じですね~。色も白いし。でも一番変なのは服装かな。見たことない柄の布を交差させた上着と、幅広のズボンですね……いや、ズボンじゃない? 裾が広がってるからな~。いいな~おしゃれだな~。特にあの細長い帽子と、白地に赤い模様の上着……」

「いや、あれは模様じゃなくて血じゃないか?? 額にも血が……よ、義弘兄上!!!」

歳久と家久達の視線の先の義弘は。腕を掴んだ義久達に大丈夫! と笑うと。一旦出た釜に寄りかかって座り込んだ少年に近づいた。

「拙者は島津義弘でござる! おぬし、息が荒いでござるな。頭からも出血しているし、事情は後で聞くとしよう。とりあえず手当をするでござる。兄上、それでもいいでござるか?」

義久は溜息を吐くと、自分の持っていた銀色の水筒を出した。

「……まぁ死んだら事情聴取ができないからな。これはまだ飲んでいないから雑菌は繁殖していない筈だ。これで傷口を洗うがい……後ろ」

義久の言葉を聞いて振り返った義弘は。慌てて釜の中に入り込んだ少年をひょいっと持ち上げる。

「だから手当をしてあげるといっているのに!」

「▶↑▲↑□→■←★↓△←!」

「何言ってるかわかんないでござる!」

首根っこを掴まれて宙に浮いたまま、ばたばた暴れる少年。こちらは危害を加えるつもりはない、と義弘が言っても少し怯えた目の少年を見た義久は。手をくねくね動かして手話での意思疎通を試みるが。思ったような反応がない。耳が聞こえないのか、それともこちらの言葉がわからないのだろうか……そう考えた彼は、首に下げていた透明な鍵を口に近づいて叫んだ。

「義久です。お忙しい中恐縮ですが川田先生、お聞きしたいことが……」

              2

傷ついた謎の少年を、村の端にある白い病院に隔離し。義久達は緑色の植物で覆われた大きな四角い建物の大会議室で、前代未聞の大会合を開いていた。参加しているのは村を運営している義久の祖父達(四年交代で現在二年目)だけでなく、村役場の人々、さらに村人先着百名も会議室にいる。会議室の壇上に上がった色白でふくよかな男は、細長い針入り水晶を口に近づけ、皆をぐるりと見回して言う。

「この事件の捜査責任者の川田でおじゃる。この地方では見かけない服、釜の中の日記らしきものにつづられている文字……彼は恐らく伝説の金星人でおじゃる! みなさんが子供のころに日本史で習った、あの金星人でおじゃる!」

きんせいじんってなんだっけ? と騒めく人々。それを見た川田は溜息を吐くと、子供に絵本を読み聞かせるかのように言った。

「さては、みなさん勉強したことを忘れてしまったでおじゃるな? 仕方ないからざっくりと説明するでおじゃるよ。……むかしむかし地球に居た人間の一部は、厳選した動植物とともに金星に移住しました……はい。人の話は最後まで聞きましょう家久君」

「すみません! ようするに金星人さんは元々は僕たちと同じちきゅうじんだったってことですかぁ」 

「そう、もとは我々の親戚だったり仲間だったでおじゃるよ。でもその後はちょっと貿易でのいさかいがあって、国交というか星交を断絶したでおじゃる」

「そのいさかい? でよく戦争にならなかったですね。あっちは余裕がなかったんですか」

いい質問でおじゃる、とニッコリ笑うと。ふくよかな男は家久の質問に答えた。

「あそこはこちらより気候が厳しいし、移住して日が浅いから経済的余裕も無かったし、宇宙船を作るのに必要な鉱物などの物資が無かったりしたのでこちらを攻めるなかったでおじゃる」

「でも今回金星人さんがきちゃいましたよ~! 偵察部隊ってやつじゃないですか!」

家久の言葉は皆のもやっとした不安をはっきりとした形にした。人々の心の海に、黒い一滴のインクがぶわっと広がっていく。壇上の端にいた現在の村の責任者で義久の祖父・忠良は、威厳溢れる堂々とした佇まいで壇上のど真ん中に進み出た。彼は、声を大きく広く遠くへ響かせることのできる細長い水晶を、川田から受け取り。人懐っこいくだけた笑顔で言った。

「みなさん落ち着いてくれ! 今回うちに来た金星人さんは、川田先生が仰るにはやんごとないおぼっちゃまの子らしいし、茶釜から発見された日記も地球を侵略しようとか偵察しようって話は無かったとのことだ。とにかく今のところ彼は偵察部隊とかではなさそうだし、今回は多分不時着したんじゃないか。たぶん大丈夫! 直ちに何か起こるわけではないぞ。直ちには。とにかく今は落ち着いて情報を集めるべきだ」

数か月後はわかんないけどね! ……と心で付け足すと、忠良は再び川田先生に水晶を返す。

「そう、忠良村長の仰る通りでおじゃる。今は少年の意識を戻るのをまって事情聴取したり、いざという時に備えてしっかり食事睡眠をとるでおじゃるよ! 今日は収穫祭でおじゃるから、野菜カレーとさつま芋のモンブランを青年会と婦人会と子供会のみなさんが用意してくださったでおじゃる。とりあえずじたばたしても仕方ないから、みんなでごはん食べてさっさと寝るでおじゃるよ!」

皆はやったぁ! と飛び跳ねると。食堂へ向かった。

                  3

 その次の日朝。噂の少年は、真っ白な部屋で目を覚ました。清浄な肌触りの中にツンとした冷たいにおいがする空気だ……ここは……どこだろう? 少年があたりをキョロキョロ見回した時。目があった大きな瞳の大男はあっ、と叫んだ。

「お、お医者さん! 義康殿が目を覚ましたでござるよ!」

枕元の大きな針入り水晶にそう大声を吹き込むと。直ぐに医者達はやってきた。彼らはテキパキと聴診器を当てたり、脈などを診る。義康の診察した医師や看護師たちは、院内の中で最も人当りがよく優しい雰囲気の人々を集めたせいなのか。義康はほっとしたような顔で素直に診察を受けた。その様子を見守りながら、義弘は麻布の袋から紙束を出す。そして診察終了後。二人きりになった瞬間に一枚の紙をパッと広げた。

『疲れていなければ事情を聞かせてほしい』

紙を自分の前で広げながら義弘は唸った。元々は同じ文化だったし日記の文字も我々の使う文字と同じだから、筆談は通じると川田先生は仰っていたが。医師や看護師のみなさんの話は理解できたみたいだし、彼らがお大事に、と言った時には会釈もしていた。話した方が速いのでござらぬか? いや、最初に出会った時は言葉が通じなかったから無理か……と。義康はそんな彼に頭を下げると、身振り手振りで自分用の紙と筆とを所望した。

『正体もわからぬ余所者の私を手厚く看護していただき、感謝の極みでございます。私は最上義康、出羽の守・最上義光の嫡男であります。この度は島津殿の領地を荒らしてしまい、申し訳ありません。』

丁寧にそう記し。素早くベッドから出て九十度のお辞儀をする義康。義弘は慌てて彼を座らせると、筆を走らせた。

『まだ座っていたほうがいいでござる。それよりも義康殿はどうやってここへ?』

『父の使いで従弟の伊達政宗殿の所へ参ったのですが、その際に不思議な乗り物があるから乗って見ろ、とと政宗殿に強く勧められまして。最初は窓の外がずっと暗いのでおかしいな、くらいにしか思っていなかったのですが、まさか宇宙空間を走って、地球に辿り着いてしまうとは。……皆様にはご迷惑をおか』

困り眉の義康に、義弘は新しい紙を渡し。義康は会釈すると続きをサラサラ書き始めた。

『私は偏見を持っていました。薩摩の島津一族はそれはそれは恐ろしい命知らずの戦闘集団で、日の出国を統一したら地球にも手を出そうと画策している程だという噂を聞き、こちらの島津一族の皆様にも偏見を持っていたのです。誠にお恥ずかしい。どうかこの未熟者の無礼をお許しください』

彼はベットテーブルの隣に、綺麗にたたんである自分の服に気が付くと。そこから狐模様の小袋を取り出した。そして。紙に『どうかお納めください』と記し。その文字が隠れないように小袋の中身をぶちまけた。紙の上には子供の握りこぶし大程の金山が出来る。義康は小さな金山を乗せた紙を両手で捧げ持ち、義弘へ差し出して、深々とお辞儀した。義弘は慌ててそれを突っ返しながら目を白黒させた。

『いや! そんなのいただけないでござる! お気持ちだけで結構……それより、その、金星のうち、というか島津さんが地球に手を出そうとしているとはマジでござるか!』

血相を変えて走り書きする義弘。義康も先ほどよりも筆を素早く動かして返事する。

『あくまで噂です。でも、話を聞いている限り彼等ならやりかねない予感は致します。戦闘集団ですから』

「怖いでござるな! でもうちはわりと平和主義者だから一緒にしないでほしいでござるよ。確かに狩りや漁もするし、偶に村同士の紛争もあることはあるが、お互いに取り決めて武器もある程度の制限はしているでござる」

言い終わると、あっ、と筆を持つ義弘。義康はそんな彼の腕をそっと持って止めると。代わりに自分が紙を裏返して筆を走らせた。

『今更ですみませんが、義弘殿達の話は理解できます。普通に話していただいて結構です』

「わかった、ところでその、うちと祖先を同じくする親戚らしき戦闘集団は……日出国の統一間近なんでござるか! やばいでござるよ!」

義康は先にまだです、と記して見せた後。文章の続きだけでなく、地図も記す。彼はぎこちない筆さばきで、ひし形の大陸、その近くに斜めに傾いた細長の大陸、そしてその真下と斜め下に大陸を一つずつ記す。

『まだですが着々と領土を広げている、と忍びの者から報告がありました。今はここ、この一番下……南の大陸……九州大陸の三分の一を手にしています』

「なんだ! まだまだでござるな! ハハハ!」

胸を撫でおろして笑う義弘だが。義康はサラサラと恐ろしい文言を追加した。

『ですが油断できません。島津家は鉄砲という恐ろしい武器を大量生産しています。鉄砲というのは』

「あの禁断の武器! 長い筒に詰めた小さな金属が遠くに飛び、それが当たった人を殺すという恐ろしい武器でござるな! 早くお爺様達に知らせねば!!」

「もう知ってるよ。話はぜーんぶ聞いちゃった」

義弘の祖父は床板を外して頭だけ出し。思慮深い眼差しで口を開いた。

「まさか……またあの歴史を繰り返そうとしているとは…」

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