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童話シリーズ

一般的に全然魅力的じゃない男が英雄となった話。

あるところに大きな国がありました。

そこには、大層美しいお姫様がいました。

お人形のように整った少し冷たさすら感じる容貌に

月の光を集めたような銀色の長い髪、石榴のような赤い瞳の切れ長の目を持っていました。


教養が深い者、

詩を作るのが上手い者、

音楽をとても美しく弾ける者等、

貴族の中でも才能のある優れた者たちがお姫様に求婚しましたが断られました。


やがてお姫様の噂は他国まで広まりました。


南の国の勇猛果敢で知られる王子、

東の国の慈悲深いことで高名な王子、

西の大国の賢者とまで言われた聡明な王子、

北の国のその眩いばかりの美貌で雪の精と称される王子、

大陸でも有名なこれらの王子の求婚にもお姫様は首を縦に振りませんでした。


やがてお姫様は、誰にも心を許さない氷姫と呼ばれるようになりました。


それでも毎日、沢山の求婚者がお姫様のもとにやってきます。

悪魔がお姫様の所にやってきたのは、丁度彼女が疲れ果てたときでした。


悪魔は、今の自分の姿を変えたいかと尋ねました。

お姫様は黙ってうなずきました。


その日を境にお姫様は姿を消しました。


初めは、驚いた王侯貴族たちも時間が経つのにつれお姫様のことを忘れて行きました。

何故かというと、大国には美しい姫君達がまだたくさんいたからです。


そんなある日、小国から王子を名乗る男がやってきました。

そうして、氷姫に求婚したいと言いました。


その男は今までお姫様に求婚してきた人たちに比べると随分風采が落ちていました。

彼には、特別な才能も美しい容貌もありませんでした。


王子は氷姫はいないという大臣の所に毎日通いました。

彼女はまだこの城にいるはずだ、彼女に会わせてくれと言いました。

やがて、大臣は誰にも口外してはならないと言い、城の奥深くまで連れて行きました。


そこには、見るからにおぞましい化け物がいました。

化け物は自分はじきに理性を失って人を食べるようになるから殺してほしいといいました。

大臣は大慌てで騎士団を呼びに行きました。


王子は怯まず近づくと、こんなところにいたんですね氷姫と言いました。

化け物はなぜわかったのですかと驚きました。

声が一緒ですと王子はやわらかく微笑みました。


王子はお姫様にたった一回ですが会ったことがあったのです。

彼女は凡庸とそしられる王子に優しい人だと言って花を渡しました。

お姫様にとってはちっぽけなその思い出は王子にとって大事なものでした。


お姫様はそのことを聞くと涙をはらはらとこぼしました。

彼女は悪魔と取引をした話をしました。

知らない男の人達が群がる自分の見た目が嫌いであんな取引を受けてしまった、

この姿は今まで真心を踏みにじってきた自分自身の心の醜さを表しているのでしょうと言いました。


王子は瞳がそんなに美しいのに心根が醜いなんてあるはずないと言いました。

化け物の瞳は深く澄んでいてルビーのようでした。


お姫様は、うなだれました。

それから、先ほど大臣に言った話は本当です。

じきに私は自国の民に被害を与えるでしょう、その前に私が私である内に殺してくださいと言いました。


王子は首を振り案した。


お姫様は、私を愛してくれたと信じられるたった一人である貴方に殺されたいのですと言いました。


王子様は深くて長い溜息をつき、暫くそこから動きませんでした。

そうして、身じろぎもしない化け物の心臓を持っていた剣でひと突きしました。


王子は化け物の血を頭からたっぷり浴びましたが、ちっとも気にしませんでした。

そうして、持っていた剣を躊躇なく自分の喉に突きたてました。


大臣が騎士団を連れてきたときには全てが終わっていました。

何が起こったか悟った大臣は、彼らを同じ墓に夫婦として葬ることに決めました。


お姫様の国で、王子は自分の死もいとわず化け物を退治した英雄として称えられるようになりました。

月日が流れた今となっては、それはお伽噺となり小さな男の子たちの胸をときめかしています。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い話とも悲しい話とも言い切れない独特の読後感があって、良い意味で「童話らしい」作品だと感じます。 [一言] 何作か読ませて頂きまして、このお話が一番心に訴えかけてきました。童話独特の語…
[一言] お姫様は最後に、自分の外見だけを見ない心から愛してくれる人を見つけられてよかったと思いました。 他と最後に死ぬことになっても。 このふたりは幸せだと思います。 お互いの心が通じあったのだから…
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