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魔女の森  作者: おはなし
出逢いの森
7/21

-6- 彼女の守護者

 守る盾を、求めてはいない。



 蕀の大木ができあがって、僅か数分後。

「メル! なにがあった!」

 飛び込んできたのは、髪が蛇、体はところどころうろこをで覆われ、目が鋭くつり上がり、とても人には見えないもの。即ち悪魔。


 突然扉を開けて忙しなく入ってきたそれに、いち早く反応したのはメルだった。

「メドゥーサ、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、小屋から蕀が生えたから…」

 そこまで言って、悪魔はようやく彼らに気付いた様だった。急速に寄っていく眉間の皺と、苦々しく食い縛られる唇。明らかな嫌悪が滲み出ていた。


「まだいたのかい、人間……」

「ああ、悪いな。しばらく居座らせてくれ」

 途端、カッと目を見開き、彼らに向かって力の限り叫んだ。

「出ていけ! 出ていけ、人間! お前たちの居場所はここにはない!!」

 蛇の髪がうねうねと動き出す。それぞれが意思を持って動いている様に見えた。全て一様に、こちらを睨んでいる。


「待って、メ…、」

「下がってな、メル! 今追い出してやる!」

「待て待て、メドゥーサとやら。俺たちは魔女どのの了解を得ているぞ。取引をしたからな」

「…何だと」

 蛇の動きが止まる。イアルはそこに隙を見つけた。

「メドゥーサも悪魔だろう? 我が国は悪魔を利用しようとしている。それを阻止するために、俺と魔女どのは取引をしたんだ」

「……メル、本当かい」

 メルは無言で何度も頷いた。それを見たメドゥーサは、渋々といった様子で戦闘体制を緩めた。警戒心は残ったままに。


 メルを後ろ手に庇ったまま、すっと棘の大木に手をかざした。

 フルス、と小さく唱える声が聞こえたかと思うと、それは赤々と燃え上がった。室内で何をするのかとイアルは驚愕したが、その炎は熱くなかった。


 あっという間に燃えてなくなった大木。後に残ったのは穴の空いた床と天井だけだ。

「アフィージャたちを呼ばなければね」

 とメドゥーサは天井を見上げながら呟いた。すると穴を開けた張本人が、しゅんと萎れる。

「ごめんなさい」

「いや、魔女どのは悪くない。魔法を見せてくれと頼んだのはこちらだ。修理代はこちらが持とう」

「そうです。ところで悪魔も金銭を利用しているのですか?」


 レイが空気の読めない質問をすると、メドゥーサは彼を睨んだ。お前は悪魔を馬鹿にしているのか?と言うように。

「つかうわけないだろう」

「悪魔は人間のようにお互いと関わり合うのが少ないので、交換を必要としません。要るものは自分自身で手に入れます」

「それは凄いな。だが、それならどうやって詫びようか」

「必要ありません。アフィージャたちは無償でやってくれます。とてもありがたいのですけど、申し訳ないことに」

 顎に手を当てて考えるイアルに、メルは当然のことのように言ってのけた。


「いやしかし、それでも…」

「ならこうしましょう。アフィージャたちに剣を見せてあげてください」

 思いもよらない提案に、イアルとレイは首を傾げた。

 アフィージャとはつまり魔力を持つだけの動物。剣を見てどうするというのだろう。

「アフィージャたちは刃物に興味があるようなのですけど、ここでは鉄が採れないので。ここに居るものはほとんど全て、剣を知りません」

「そうか、鉄が…。わかった。そうしよう」


 頷くと、メルはもう一度天井を見上げ、踵を返して2階へ登っていった。

 その後ろ姿を見送って目線を正面に戻すと、睨むメドゥーサと目が合った。その眼光は鋭い。


「用が終わったら、すぐ出て行くことだね、人間」

「ああ、そうさせてもらおう。ここにいると退屈しなさそうだが、早く帰らないと爺が怒るからな」

「ふん。ここにいる悪魔がお前たちを素直に帰すかどうかは、保証しないよ」

「それは怖い」

 本気で受け取っているのかいないのか。メドゥーサは苛ついた様子で舌打ちし、背を向けて小屋を出て行ってしまった。


 後に残ったのは、この森の部外者二人。家主もいない空間に、堂々と居座るイアルをレイは呆れた目で見た。

「あなたに遠慮はないんですか」

「そうかもしれない」

「早く帰らなければいけないのは当然として、どうやって帰るのです?」

「ゆっくり考えるさ」

 どこにいても、どんな状況でも呑気なイアルに、レイはまた固めたげんこつを後ろ手に隠すのだった。


*****


 「どうしよう、人だよ」

 メルはクッションを抱き抱えながら、椅子の縁に乗る青い小鳥に話しかけた。

「イアル様と、レイ様だって」

 金髪の青年と、黒髪の青年。初めて見る自分以外の人間。男、というもの。


 クッションを掴む手に力を込めて、やわらかいそれに顔を埋めた。

「どれくらい居てくれるんだろう……」

 その呟きに、青い小鳥は首を傾げた。


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